東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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建築×光から生み出されるさまざまな創域的研究―建築学科・吉澤望教授に聞く―

教会の光環境に魅了され研究を始めた吉澤教授。現在、建築と光が関係する様々なテーマの研究に携わっています。建築と光にどんな分野がどう交錯し、どのような研究が行われているのか。そしてこの分野を研究する魅力と今後の展望をお聞きしました。

建物を設計する際に、光がどう入り、どう広がるかを考えることはとても重要です。光は、建物の雰囲気、明るさ、心地よさ、見た目など、あらゆる部分に大きな影響を与える要素だからです。

吉澤教授は、教会の中を照らす光に魅せられたことなどから建築の光環境について研究するようになり、現在、建築と光が関係する様々なテーマの研究に携わっています。科学、技術、文化、芸術など、あらゆる領域と交錯する分野であり、本質的に「創域的」な研究になると吉澤教授は話します。 建築と光にどんな分野がどう交錯し、どのような研究が行われているのか。そしてこの分野を研究する魅力と今後の展望は――。吉澤教授に聞きました。

吉澤 望(よしざわ のぞむ) 1993年 東京大学工学部建築学科卒業、1998年 東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程 修了。博士(工学)。東京理科大学理工学部建築学科 助手、関東学院大学人間環境学部人間環境デザイン学科 講師、 同学科 准教授、東京理科大学理工学部建築学科 准教授を経て、2015年より現職(就任当時は理工学部)。

建築と光から生まれる多様な研究テーマ

――先生のご研究の概要を教えてください。

私は、建築の光環境や照明環境を専門に研究しています。具体的にはかなりいろいろなテーマを扱っているため、なかなかこれがメインのテーマとは言いづらいのですが、研究室で取り組んでいる研究内容を大きく分けると、次の4つくらいになるかとは思います。すなわち、建築の見え方や知覚に関する研究、照明計画、省エネ性能・新光源の活用、照明デザインツールの開発、といったところです。

いくつか具体例を挙げると、たとえばいま進めている研究の一つには、窓の設計において、眺望を定量的に評価する方法の開発というものがあります。また、照明デザインツールの研究であれば、光を可視化するためのPhoton Flowと名付けた3次元表現手法の開発をスイスの研究者と一緒に進めています。美術館照明の研究にも長く取り組んでおり、美術館の学芸員の方などと一緒にいろいろと議論させていただいたり、照明の基準作りに携わったりもしています。さらに、国が定める省エネ基準などの根拠データを作成したり、また最近では、発達障害の方のための照明とはどのようなものかという研究や、レジリエント・ライティングと呼ばれる災害時の照明・避難所の照明に関する研究も行なっています。他に、アメリカのカンザス大学の先生や国土技術政策総合研究所の先生と進めているカメラを使って光環境を簡単に測定する方法の開発や、当研究室の髙瀨雄土助教が取り組んでいるグレア(まぶしさ)の研究などもあり、研究室としてかなり多様なテーマを扱っています。

――本当に、研究分野がとても多岐にわたるのですね。どのような経緯でこれだけいろいろなテーマの研究が始まっていくのですか?

そうですね、私たちの研究室では、外部の方と一緒に進めている研究が多く、企業の方から一緒にやりたいと声をかけていただいて始まるケースは多いですね。あとは、海外の研究者との共同研究も少なくないです。

空間内の光の流れを新しい方法で見るPhoton Flowの開発

――取り組まれているテーマのうち、いくつかについて詳しく伺いたいのですが、たとえば、光を可視化するためのツールPhoton Flowとはどういうものか、教えてください。

これは、建物や空間の設計の際に、光がどう入ってどう広がっていくかを設計者がよりよく理解できるようにするためのツールです。空間の明るさを考える際の指標には、「照度」と「輝度」があります。照度は、たとえば机にどれだけ光が当たっているかを示すものであるのに対して、輝度は、その机を見たときに人間が感知する光の強さ、つまり目に入る光の強さを表します。建築設計の際、以前は照度がよく使われていたのですが、近年は輝度が重視されるようになっています。

そうした中で、Photon Flowは、空間の中を通過する光の流れそのものを可視化しようというコンセプトの3次元表現方法です。これを使うと、光がどこから入ってどう反射し、どのように広がっていくのかを設計者が直感的にわかるようになり、照度や輝度とは別の有用な情報として、設計などに利用してもらえると考えています。このプロジェクトは、私が海外のワークショップでアイディアを発表した時に、それを具現化するための技術を持っていたスイスの研究者から「一緒にやらないか」と声をかけられたことで動き出しました。

――光の流れが可視化されると、照度や輝度を知るのとはまた違った空間の様子が見えてくるのですね。ちなみに、設計の際に使われる指標が近年、照度から輝度へと移ってきているというのはなぜなのでしょうか。

私たちが空間の明るさを知る上で重要になるのは、机にどれだけの強さの光が当たっているか、よりも、机からどれだけの強さの光がこちらの目に届くか、です。というのは、机に同じ量の光が当たっているとしても、私たちが感じるその机の明るさは、机の色や反射率によって全然違ってくるからです。つまり、照度より輝度の方が、私たちが感じる明るさに適合した指標なのです。元来、そのように輝度の方が照度よりも空間内の明るさを知るためには重要だということはわかっていたものの、輝度はこれまで測定するのが大変だったため、あまり使われてきませんでした。しかし最近ではカメラで簡単に輝度を測定できるようになってきたため、輝度に基づく設計というのがいよいよ現実的になってきたのです。私は、国際照明委員会(CIE)の屋内照明部門のディレクターも務めていますが、国際的な基準やガイドラインの作成においても、輝度に基づく照明設計あるいは空間の明るさ設計の考え方を徐々に反映させていくことができればと考えています。

自然光か人工照明か

――もう一つの具体例として、美術館照明に関する研究についても教えてください。

はい。美術館照明に関する研究は、もともと私が国立西洋美術館の世界遺産登録に向けた委員会に関わったのが始まりでした。国立西洋美術館は、20世紀を代表する世界的な建築家であるル・コルビュジエが設計したもので、もともとは展示空間に自然光を取り込む前提で設計されたものの、現在は自然光を遮って、人工照明を利用しています。そこには日本と西洋の美術館照明に対する考え方の違いもあるかと思いますが、現在の美術館の照明に要求される性能と当初の設計に齟齬があると言っても良いでしょうね。委員会ではコルビュジエの元来の意図を生かすにはどうしたらよいかという点について案を提示することを求められましたが、そうした経験を発端に、その後、美術館照明の新しい基準作りにたずさわったりしてきました。そして現在も、照明基準の中に輝度をどう取り入れていくかといったことなどの研究を続けています。

――美術館において自然光を生かすか人工照明を利用するかという点について、西洋と日本ではそれぞれどのように考えるのですか。

欧米の美術館照明の設計では、自然光を取り入れることは当然のこととなっています。たとえば印象派の絵画はもともと画家が外で描いていたため、鑑賞する際も、外で見ているような雰囲気を作り出すために自然光の下で見るのがよい、といった考え方が欧米ではかなり広まっているといっても良いかと思います。しかし日本は、自然光に対してすごく厳しいですね。それは視覚的な問題以上に、絵の保全という観点からのものです。絵画は基本的に光があればそれだけでダメになっていくので、作品は光がないのが一番よい。加えて、日本は災害が多く、湿度も高いため、開口部を設けるとその後の管理が大変になるという問題があります。ただ、建築や光について考える立場からすれば、そういった点も考慮しながら自然光を入れていく方法を今後は日本でも検討できると良いですね。自然光を入れるようにした方が建築的にも面白いものになるので、ぜひトライしてもらいたいんですけど、なかなか難しいというのが現状ですね。

放っておいても創域的になる

――建築の光環境についての研究は、技術、科学、文化、芸術など、様々な分野といろいろな形でつながっていることを感じさせられました。その意味で、吉澤先生にとって「創域」というコンセプトはとても身近なのではないかとも想像していますが、先生が「創域」について何か意識されていることがありましたら教えてください。

そうですね、私は、「創域」を「学際」という言葉と重ねてイメージしているのですが、そうだとすると、建築は本質的に学際的であり、つまり、放っておいても創域的になる分野であるように思います。ここまでお話ししてきた研究の大部分も、まさに様々な分野とのつながりの中で進められています。その他にも、哲学の先生と一緒に行った研究もあり、また、先のPhoton Flowの開発に関しては、数理科学科の学生の力も借りています。哲学の先生との研究は、光の現象をどう記述していくかということを突き詰めていくようなものでした。つまり光は、哲学的な意味合いも持つ一方で、数学を使って分析する対象にもなるわけです。

――哲学の先生とも一緒に研究をされると聞くと、本当にあらゆる学問分野が関係してくる感じですね。ちなみに、数理科学科の学生は、Photon Flowの開発にどのようにかかわったのですか。

Photon Flow は、光子の動きをシミュレーションしてそれを可視化するのですが、可視化するにあたって数学的な解析が必要になります。つまり、光の場をどう記述するかという部分ですが、そこで数理科学科の学生に協力してもらった形ですね。

※赤い光の中で作業を行う実験風景

――なるほど。吉澤先生の研究室の学生たちとスイスの研究者に加え、数理科学科の学生たちも関わってPhoton Flowの開発は進んでいるのですね。そのように分野も地域も超えて一緒にやっていくということについて、学生たちは積極的ですか。

そうですね。建築をやる学生は、もともとそういう傾向があると思います。うちの研究室でも、設計をやりたいという学生もいれば、数学的なことをやりたいという学生もいます。でもみな、最終的にはそれを建築にどう活かしていくかということを考えるので、そのためにいろんな興味・専門の人が組んで、一緒にやっていくことになります。学際的、創域的であることが当然という感じの分野であると思います。

――建築の光環境について研究する面白さはどのようなところにあると感じられますか。

私はもともと、教会の中の光とかが好きで、そういうのを見に行くのも好きでした。そして、どうしてあのように光の筋が見えるのだろうといったことに興味を持つようになってこの分野に進んだのですが、視覚的なことはいまなおわかっていないことが多くあります。そのため研究できることがいろいろとあるというのはこの分野の魅力の一つだと思います。

学生たちがこの分野のどんなところに惹かれているのかは聞いてみないとわかりませんが、私が教会の光に魅せられたように、何か心惹かれるものをそれぞれが見つけてくれたらと思っています。心惹かれる現象について「なんでだろう?」と考えて研究していくことはやはり面白いと思うからです。あと、他の分野の人と一緒に研究するのはすごく楽しいですね。こちらにないものを持っている方たちとともに仕事をするのは本当に刺激的で、私自身、いろんな方の影響を受けてきたように感じています。

――建築の光環境や照明の研究は、今後どのような方向に向かっていくのでしょうか。省エネや自然光の利用、といった言葉がまず浮かんできますが。

LEDが出てきたことによって、建築照明の省エネというかなり実現された部分があります。そのため、省エネというのはすでに前提となっていて、いまは、その先どうしていくかというところかなと思います。その中で一つ重要になっていくのは、ダイバーシティ、多様性にどう対応していくのかということのように思っています。光の感覚は人によって違います。個人差があるし、人種や文化、地域によっても違いがあろうと思われます。そして、感覚過敏の方や自閉症の方もまた光のとらえ方が違ってくる。そうした違いを考慮した照明のあり方を考えていくことは今後間違いなく重要になっていくでしょう。私の研究室で行っている発達障害の方のための照明に関する研究もそうした流れの中にあります。

――最後に、これから創域理工学部を目指す高校生や、建築分野などに興味を持っている若い世代の人たちに、メッセージをお願いします。

建築に興味があったら、ぜひいろんなところに足を運んで、実際に建物を見るということをしていってほしいなと思います。一番の勉強はよいものを見ることです。とにかく積極的に動いて、見て回ってほしい。そして楽しむ経験を積んでいくことがきっと将来に繋がっていくはずです。また、いまは博士課程まで来てくれる学生はそんなに多くないのですが、研究者はあまりストレスのない職業のように私自身は感じています。興味があったら是非、研究者という道も考えてみてください。

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