東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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廃棄される微小な熱を電気に変え世界を変える―先端物理学科 岡崎竜二准教授に聞く―

熱を電気エネルギーへと変える技術は長く研究されながらも広く使える実用化の方法はいまも確立していません。岡崎准教授は丹念に研究を重ね、その可能性に挑んでいます。そして准教授らが参加する研究グループは今年、新たな道を切り拓きうる結果を得ることに成功しました。

スマホもパソコンも自動車も、私たちが日々使う機器や装置は、使用時にはほとんど必ず熱を出します。そうした熱は、ただ散逸させるしかなさそうですが、じつはそれを電気エネルギーへと変える技術(物質)があります。それが熱電変換物質です。長く研究されながらも、広く使える実用化の方法はいまも確立していませんが、岡崎准教授は丹念に研究を重ね、その可能性に挑んでいます。そして准教授らが参加する研究グループは今年、新たな道を切り拓きうる結果を得ることに成功しました。

熱電変換物質とは何か。どんな研究が進められているのか。また「創域」が持つ可能性は――。岡崎准教授に聞きました。

岡崎 竜二(おかざき りゅうじ) 2006年 京都大学理学部理学科卒業、2010年 京都大学理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 博士課程 中退。博士(理学) 論文。同年、名古屋大学大学院理学研究科 助教に着任した後、2015年より東京理科大学理工学部物理学科 講師。2018年より現職。

わずかな熱を電気エネルギーに変換する技術

――先生のご研究の概要を教えてください。

熱を電気エネルギーに変換したり、電気を熱エネルギーに変換したりできる物質を「熱電変換物質」と言いますが、私たちの研究室では、この熱電変換物質について研究しています。

熱電変換物質は通常、何らかの金属の化合物でできています。その一端に熱を加え、物質の中に温度差を作ると、温度の高い方は、温度の低い方に比べて電子の運動エネルギーが大きくなります。つまり、温度の高い方では電子の速度が大きく、温度の低い方では電子の速度が小さくなる。その結果、温度の低い方に電子が集まり、両端に電位差が生じ(=電圧が発生し)、外部の回路につなぐと電流が流れます。このようにして、熱を電気エネルギーへと変換するのです。

熱を電気エネルギーに変換する仕組みと言えば、火力発電を思い浮かべる人が多いのではないかと思いますが、熱電変換は、火力発電とは原理が大きく異なります。熱電変換の場合、上記のように熱が直接、電気エネルギーに変換されるのに対して、火力発電は、熱によってタービンを回し、つまり、熱を運動エネルギーに変換し、そこから電磁誘導で電気を作ります。

そのため、火力発電には大量の熱が必要ですが、熱電変換物質は、微小な熱を電気に変換することができます。原理的には、パソコンから出る熱や自動車から出る熱といった、現状では利用することが難しい廃熱などを電気に変えることが可能です。そのような小さな熱を電気に変えることができるようになれば、エネルギーをより有効に活用でき、持続可能な社会をつくる上で新しい可能性を切り拓けるだろうと考えています。

――熱電変換物質というのは、新しいものなのでしょうか。または、すでに使われたりしているケースもあるのでしょうか。

熱電変換物質自体は新しいものではありません。研究は1960年代ごろから進められていて、70年代にアメリカが打ち上げた無人惑星探査機ボイジャーの電源としても使われています。それ以外にも、わずかな温度差を検知するセンサなどとして実用化されています。しかし、熱電変換によって得られる電力はとても微小で、さらに、現状の熱電変換物質には有害な元素が使われていたりもするため、使用される範囲は限られています。そこで私たちは、より大きな電力が得られ、かつ、環境親和性も高い、高性能な熱電変換物質を開発することを目指して研究を進めています。

実用化できる熱電変換物質をどう作るか

――熱電変換物質の開発は、具体的にどのように進んでいくのですか。

金属の化合物がその材料となるので、基本的には、様々な金属化合物を合成し、実験によってその性能を試していくということになります。中でも私たちが力を入れて取り組んでいるのが、金属の酸化物を材料とする熱電変換物質の開発です。酸化物は、高温下でも酸化せず安定していて耐久性が高いため、熱電変換の材料の有力な候補として1990年代から広く研究されてきました。その結果、熱電変換の効率がよいのはどのような酸化物かといった知見はかなり蓄積されてきたものの、いまなお、熱電変換の材料として広く実用化されるに至るものは見つかっていません。

そうした背景のもと、私たちも、様々な酸化物を作っては実験を重ねてきました。2,3種類の金属(コバルト、亜鉛、銅など)を組み合わせて、酸化物を作るのですが、金属の組み合わせ方はとてもたくさんあります。そのため、コンピュータを使った予測計算なども利用しながら良さそうな組み合わせを探り、実際に合成して、熱電変換物質としてよい性能を持っているかどうかを実験によって調べていきます。

私たちもまだ、これぞという酸化物を見つけるには至っていません。そして、酸化物以外の金属化合物でも熱電変換物質を作る方法を探っています。そうして様々な研究を試みている中で最近、私たちの研究グループは、一つ大きな結果を出すことができました。それは、「横型熱電変換」という、通常のとは少し原理が異なる熱電変換に関することです。

――「横型熱電変換」とはどのようなものなのでしょうか。得られた結果についても教えてください。

通常の熱電変換の場合、物質に温度差を与えると、それと同じ方向に電圧が発生します。ところが横型熱電変換の場合、温度差を与えた方向と直交する方向に、電圧が発生します。なぜそうなるかというのは、その物質の電子状態などによって説明されるのですが、私たちの研究グループでは、そのメカニズムをよりよく研究することを通じて、ある物質が、これまでにない実用的な条件で、高性能な横型熱電変換を実現すること実証しました。

通常の熱電変換の場合、電気も熱も同じ端子で流さなければならないので、端子が傷みやすいのですが、横型の場合、熱を流す端子と電気を取り出す端子を別々に制御することができるため、端子が傷みにくいといった利点があります。その一方、横型は熱電性能が低いために実用化が難しいと考えられていたのですが、今回の結果は、横型のその弱点を克服できる可能性を示すものであり、熱電変換の実用化に向けた大きな一歩であると考えています。

今回の研究で作ったのは、ランタン(La)と白金(Pt)という2種類の金属にホウ素(B)を作用させた物質です。これ自体はあまり応用に向きませんが、今回の結果によって、より実用性の高い元素を用いても、同様のことができる可能性が見えてきました。いずれは酸化物を用いて横型熱電変換を実現させて、実用化へとつなげていきたいです。

――この技術によってパソコンや車からの廃熱を活用できるようになれば、世界は大きく変わりそうな予感がします。熱電変換物質の実用化は待ち遠しいですね。

そうですね、熱電変換には大きな可能性があると考えています。私たちの研究室はどちらかと言えば基礎研究寄りで、熱電変換の原理のところで新しい可能性を探ることに軸足を置いていますが、ぜひ、実際に使える形になるところまで持っていけたらと思っています。

失敗をおそれずに思い切って「創域」する

――続いて「創域」について伺います。2023年に「創域理工学部」に改称されて1年半ほどになりますが、その間の変化や、意識されてきたことなどありましたら教えてください。

私は「創域」という言葉を、文字通り「新しい領域を創っていくこと」と理解していますが、学部名にこの言葉が加わったことで、自分を含めて本学部の教員の多くが、異分野の人と積極的にコミュニケーションを取ろうとするようになったと感じています。

だからといってすぐに新しい研究がいくつも立ち上がるということにはなっていないかもしれませんが、創域理工学部には、そのような動きを後押しする仕組みとして「創域の芽プロジェクト」があります。これは、異なる学科・専攻に所属する2つ以上の研究室が参画する教育や研究のプロジェクトを本学部・研究科が支援してくれるという制度なのですが、私たちの研究室もいま、この制度のもとで、建築学科の宮津裕次先生と一緒に新たなプロジェクトを進めています。建築では、物が揺れて木が歪んだりする場合に、どれだけ歪んだかを測定するようなセンサを使いますが、同様の力学的センサを私たち物理学の分野でも使います。そのような互いの共通点を起点として、いまは、学生とともに研究室同士、互いの考え方を学び合っています。私たちは熱を電気に変換しますが、彼らは力を電気に変換する。それがどんなメカニズムで、またはどんな材料で行われているか、ということを互いに知っていく中で、新たな研究の創出へとつなげていきたいと考えています。

――この他にも、他の分野の先生と一緒に取り組まれているプロジェクトなどはありますか。

実際に進んでいるのはいまのところ、宮津先生とのプロジェクトだけですが、他にも情報系の先生にもお声がけしたりしました。また、自分は熱に関わる研究をしているので、機械航空宇宙工学科や国際火災科学専攻の先生とも、今後、一緒に何かできたらいいなと思っています。やはり創域理工学部になっていろんな先生と交流しやすくなったことで、こういうことを考える機会が増えました。そしてそのこと自体が、新たな発想を生むことにつながっていると感じます。学部長自身、「失敗しても良いから」と言ってくださるので、とりあえずやってみようかと、思い切って動ける雰囲気になっているのもいいなあと思います。

一方、創域理工学部がある野田キャンパスの近くには、共同利用研究所として設立された東京大学物性研究所があります。またつくばにある高エネルギー加速器研究機構(KEK)も共同利用の施設です。このような施設が近くにあるので、応募して装置を使わせてもらったりすると、それぞれの研究所や施設の先生と議論したりでき、研究を深められます。私は物性研にはよくお世話になっていますが、そうした交流も、いろんな形で「創域」へとつながっていくように思っています。

自分で手を動かして結果を得ることの面白さ

――現在のご研究をされる楽しさはどのようなところにありますか。

私たちはいつも、どんな物質を作ればよいのかを理論やシミュレーションをもとに考えて、その物質を、自分で手を動かして作っています。そして、実験してデータを出すのですが、その結果を実際に自分の目で見る瞬間に、研究する楽しさや喜びを感じます。原理を理解し、装置を組み立てて、自分で測定してデータを得る。そうして「自分の力で、この発見にまで至ることができたんだ」と実感できることは、達成感にもつながりますし、やはりそれは、私たちの分野のような研究に携わる醍醐味のように思います。

――最後に、これから研究者を目指す若い世代や創域理工学部に興味を持っている高校生に、先生のご経験を踏まえてのメッセージをお願いします。

手を動かして研究を進めていくと、たくさんわからないことが出てきます。その都度、いろいろなことを調べることが必要になりますが、そういう時に、すすんで自分で調べられる力を持っていることがとても大切です。私はそれを、”勉強の体力“のようなものとして捉えていますが、そういう力を学生時代に身に付けておくと、研究者になった時にとても役に立ちます。むろんそのように、わからないことがあったらちゃんと自分で調べて理解するという力は、研究者のみならず、どんな仕事をする上でも大事です。そういうことを意識して、日々の勉強にも取り組んでもらえたらいいのではないかと思います。

また、研究は本当に面白いです。ぜひ何かの機会にそう実感してもらえるように、大学生であれば卒業研究にがんばって取り組む、高校生であれば、自分で何かを作って動かしてみる、といったことを自分なりにやってもらえたらと思います。

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