東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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電極で起きる反応を調べ様々な技術を作りだす―先端化学科 板垣昌幸教授に聞く―

板垣教授が専門とする電気分析化学は、電極で起きる反応について考える学問です。電極の反応について知るとはどういうことか。それはどんな形で私たちの生活とかかわっているのか。この分野の発展に多大な貢献を果たしてきた板垣教授に聞きました。

板垣教授のインタビューの様子

電池や電気分解の原理については学校で習っても、その際に電極で起きる反応の重要さについては習わないかもしれません。板垣教授が専門とする電気分析化学は、まさにその電極で起きる反応について考える学問です。電池の電極でいまどんな反応が起こっているのか。反応速度はどのくらいなのか。そうしたことを測定し、分析する技術によって、私たちはスマホやパソコンを使うことができ、また飛行機に安全に乗れるのだと言えるかもしれません。電極の反応について知るとはどういうことか。それはどんな形で私たちの生活とかかわっているのか。この分野の発展に多大な貢献を果たしてきた板垣教授に聞きました。

板垣 昌幸(いたがき まさゆき) 1988年 東京工業大学工学部金属工学科卒業、1993年同大学大学院理工学研究科金属工学専攻博士課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員(博士課程在学時も含む)、フランス・ブルゴーニュ大学研究員を経て、1994年に東京理科大学理工学部助手。同講師、助教授、教授を経て、2023年に学部改称によって現職へ。

電極で起きる化学反応から様々なことが見えてくる

――先生のご研究の概要を教えてください。

私の専門は、電気分析化学です。わかりやすく言えば、電極を使った化学ということになります。例えば、電解質の溶液に電極を入れて電気分解を行う様子を思い浮かべてみてください。電圧をかけると、溶液と電極の界面(境界)で様々な化学反応が起きて、電流が流れることになります。その際の化学反応を測定、分析し、いろいろなことへの応用の道を探るのがこの分野の目指すところだと言えます。具体的な応用例としては、電池の状態をモニタリングするセンサや、金属の腐食をモニタリングするセンサの開発だったり、また、メッキのような表面処理の技術へもつながります。そのような、社会で広く利用される様々な技術を、電気分析化学の方法を活用して開発するという研究に、私は取り組んでいます。

――電極でどんな反応が起きているかを調べることで、いろんなことがわかるんですね。具体的には何を測定するのですか。

電気分析化学における測定は、電気化学測定法と呼ばれますが、基本的には電圧と電流を測定することになります。電圧を測ると、電極の状態や、そこでどのような反応が起きているか(=反応メカニズム)を知ることができます。また、電流を測定すると、その反応の量や速度がわかります。つまり、これらを測定することで、どんな反応がどのくらい起きているかがわかるのですが、そこから、その電極や溶液にどのような物質がどのくらい含まれているかといったことが見えてきます。

実験している様子

具体例としてリチウムイオン電池について考えてみましょう。これは現在、パソコンやスマホなどにすでに広く使われている電池ですが、将来的には飛行機の主電源などにも使われると考えられていて、性能を向上させるために、いまも多くの研究者がその電極材料の研究をしています。その際に、電気化学的な測定によって実際に起きている反応のメカニズムを知ると、リチウムの他にどんな材料を組み合わせればさらに性能がよくなりそうかといったことがわかり、よりよい電極材料を探っていくことができるという具合です。電池の状態を知るための検査にも、これらの測定が使われています。

一方、メッキについては、その原理を簡単に言えば、メッキを施したい製品を一方の電極として電気分解を行うと、溶液に溶けている金属イオンが、その製品の表面上で還元されて金属となって析出します。つまりメッキは、電気分析化学によって施される表面処理技術なのです。

板垣教授が発展に大きく貢献した「インピーダンス法」とは

――板垣先生は、電気分析化学の中でも、特に「インピーダンス法」という方法の発展に大きく関わられていると聞いています。

生徒が教授と話し合っている様子

そうですね、いろいろな研究をやってきた中で、自分にとって一つの大きなベースになっているのが「インピーダンス法」です。これは一言で言えば、電気化学測定法のうち交流信号を使ったもの、ということになります。交流信号を使うと何がよいかというと、一つには非破壊で検査ができることです。直流の場合、反応を進めてしまい、電極を溶かすなど元の状態を変えてしまう(=破壊)のですが、インピーダンス法を使うと、状態を変えずに電池などのモニタリングができるのです。もう一つの利点は、交流信号というのは正弦波なので、周波数を変えることができるんですね。つまり、mHzオーダーの低い周波数からMHzオーダーといった高い周波数まで信号を変化させることで、起きている様々なプロセスを周波数ごとに分けて測定することができるのです。起きているプロセスには速さがあり、例えば溶液中を金属イオンが移動する「拡散」と呼ばれるプロセスは遅い。低周波数のプロセスです。そのため、インピーダンス法で、低い周波数において大きな値を示す場合、これは拡散が起こっている電極反応だろうといったことがわかるわけです。

計測している様子

インピーダンス法自体は古くからある方法なのですが、私は、この技術が発展してきた過程で、自分でいうのは恐縮ですが、少なからぬ貢献をしてきました。自分の構築した理論が現在、例えば電池のモニタリングなどにおいては世界中で使われています。そう言ったこともあり、私自身、インピーダンス法を使って、いろいろな検査技術などを開発してきましたし、また関連する様々な国際会議で、議長や委員長を務めたり、国際規格を作る会議の議長を務めたりもしてきました。

――なるほど、とすると、まさにインピーダンス法を使った様々な技術の開発ということが、板垣先生のご研究の大きな部分を占めることになるのですね。

はい、そう言ってよいと思います。私自身がいまインピーダンス法を使って取り組んでいることの例を挙げると、例えばJAXA(宇宙航空研究開発機構)とは人工衛星用の電池モニタリング法の開発を、またある企業とは電動航空機用の電池モニタリング法の開発を、それぞれ共同で進めています。また、最初の方で、電気化学測定法の応用例として金属の腐食モニタリングを挙げましたが、現在、高速道路の管理会社や鉄道会社と、コンクリート中の鉄筋の腐食・防食の状況をモニタリングするインピーダンスセンサの開発も進めています。インピーダンスとは抵抗であり、大まかに言えば、抵抗を複素数で表したものです。鉄筋に電流が流れるということは金属が酸化すること、つまり腐食するということなので、電流が流れにくいほど鉄筋の状態はよいことになります。それはすなわちインピーダンスが大きいということなので、インピーダンスの大きさを測ると、良い腐食対策ができているかどうかがわかるのです。

パソコンで研究結果を確認する様子

そのようにインピーダンス法は、とても幅広い対象に使われています。非破壊、高精度、かつ方法も簡単なので、今後、飛行機の電池はすべて、陸上で待機している間にインピーダンス法で検査することになっていく流れです。また、電気自動車用の電池についても、廃棄するのか、リサイクルやリユースができるのかを判断する際に、インピーダンス法で検査して、状態に応じてクラス分けするといったことが今後行われます。

“創域”する上で一番大切なのは、自分がどう役に立てるかを考えること

――電気分析化学、その中でもインピーダンス法がとても広く使われていることがわかりました。そしてこの分野の発展に貢献されてきた板垣先生は、これまで多くの研究者や企業と様々なコラボレーションをされてきたと思いますが、そのご経験を踏まえて、”創域“についてのお考えを聞かせてください。

創域理工学部は、学科が多くていろんな分野の先生がいらっしゃいますし、個々の先生のレベルも高い。そういうこともあり、理工学部の時代からもともと、異分野の先生たちが一緒に何かをやろうという空気は強くあったように思います。そして創域理工学部になってからの2年ほどの間に、さらにそういう機運を高めようと努力されてきた先生方の力で、「新しいことを一緒にやろう」と教員同士が相談し合える空気はいま、とてもあるように思っています。

教授と生徒

ただ、その点が素晴らしいのは前提の上で、思うところをあえて一つ言わせていただければ、私は、”創域“ということを進めていく中で、一緒にやれば何か新しいことができるのではないか、とか、足りないところを他の先生に補ってもらおう、といった意識ばかりが先行していくことがないように気を付けなければいけないとも思っています。つまり、創域的なコラボレーションを進める前提として、何よりも大事なのは、個の力です。一人ひとりがその分野で世界をリードする研究者たろうという気持ちがなければいけない。そして、助けがほしいから他の人に頼るのではなくて、まずは自分が相手にとって役立つことができるから一緒にやるんだ、というように他者の利益を先に考える気持ちを持っていることがとても大事だと考えています。そうしなければ、決していい”創域“は生まれないと思います。私自身、いろんな方と一緒にやってきましたが、その点はいつも心がけてきました。

――板垣先生は、企業との共同研究を多数進められています。それは”創域”とはまた別の取り組みになるのかもしれませんが、その場合もやはり、先生ご自身がどう役に立てるかをまず考える感じでしょうか。

教授と生徒

そうですね。研究は、世の中の役に立ってこそ意味があると私は考えています。企業とともに新しいものを開発するからには、自分の技術をどう社会の役に立てられるか、ということを一番に考えます。それが最も重要なことです。その上で、私たちが大学で研究をしていくためにはどうしてもお金が必要で、資金提供をしてくれるところがないと続けられないという事情があります。それゆえに、共同研究によって予算をいただくことは、私たちにとっても重要です。また、例えば腐食・防食の研究だと、私は学生たちにいつも「腐食は実験室で起きてない。現場で起きている」ということを言っています。つまり実験室で作り上げた環境の中で実験がうまくいったからといって満足してはだめで、現場で起きている腐食にちゃんと適用させないと意味がない。実際の現場の状況は、複雑で実験室のような理想的な環境ではないからです。企業との共同研究は、そうした現場を見る機会を与えてくれ、かつ実際の情報がいただけるという意味でも、私たちにとって大きな意味を持っています。

学んだことはすべて、自分自身を作る大切な要素になる

――最後に高校生や、研究者を目指す若い世代へのメッセージをお願いします。

まず伝えたいことは、学校で学んだことは何でもすべて、自分自身を作る大事な要素になるということです。私は、大学を卒業したあと、フランスの大学に勤めていた時期があるのですが、その時、自分よりも日本史に詳しいフランス人によく会いました。彼らは自分の国でなくても国の成り立ちなどについてよく知っていて、私は自分が日本のことを知らないのが恥ずかしくなりました。そこで私は、日本から世界史や日本史の本を送ってもらって勉強しました。大学を出てしばらく経っていましたが、そこから勉強し直したんです。その時期に学んだことが、いま海外の人と仕事をする上でも少なからず役に立っていると感じます。そのように、受験とは関係ないことでも、学校で教わることに無駄なことはないし、みな自分の知識になり、人格形成へとつながります。そのことを心にとめて、なんでも一生懸命勉強してもらえたらと思っています。

そしてその上で、興味があれば、ぜひ理系に進んで研究者になってほしいです。モノを作って、それが世の中の役に立つというのはすごく有意義だし、やりがいがあることです。私は、社会の役に立つということは人生においてとても重要なことだと考えていて、そういう意味で、理系の道に進んで、自分で新しいモノを生み出して、それで人の役に立てるというのは、本当に楽しく幸せなことです。少しでも興味があれば、ぜひ挑戦してみてください。

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