松山 賢教授 MATSUYAMA Ken
未知の火災現象を実験によって明らかにする
国際火災科学専攻では、さまざまな視点から火災科学に関する研究が行われています。私は、その中でも“火災”が引き起こすさまざまな現象について研究しています。一言で火災現象といっても実は様々な側面からアプローチが必要となります。特に、可燃物への着火現象から火炎が拡がっていく挙動、さらに火災により発生する煙の流動やその毒性などを対象としてさまざまな実験を行い、そのメカニズムを解明するべく研究を進めています。こうした研究成果は、火災被害の低減に繋がっています。
火災被害の最小化に向けた排煙・煙制御の効率化に関する取り組み
火災による人的被害の多くは、火災により発生する”煙”によるものと言われています。煙は、避難者の視認性を低下させ、時には高温で毒性ガスを含んでいることから、火災時に最もやっかいなものとなります。一方で、日本の高層ビルをはじめとする大規模建築物には、排煙設備が必ず備えられていますので、一定の安全性は確保されています。また、様々な工夫を組み入れることで、既存の排煙設備の性能向上、さらなる効率化を図ることで、より一層の安全性を確保できればと考えています。具体的には、高層建築物であれば、例えば既存のEVシャフト等の竪穴空間を有効利用すること、さらには電界を利用した煙粒子の誘導を行うことで、こうした特性を有効に利用し、排煙設備とうまく融合することで、煙をより効率的に誘導・排出できると考えています。
煙粒子は、微小ながら帯電していることから電位差を与えると引き寄せられる性質があることが分かっています。しかしながら、その詳細は明らかにされていません。現在、我々は煙粒子の基礎的な知見を得るために、その帯電特性について実験的に明らかにすべく、日々研究を行っているところです。
安全・安心なまちづくりに向けて
建物を設計する上で、安全対策も必要となりますが、建築空間内でどのような火災が発生するのか、すなわち火災性状を把握あるいは予測できなければ、対策を講じることができません。一方で、火災がどのような現象を引き起こすかは、社会環境の変化や技術の発展に伴って変化します。そのため、常に新たな研究が必要であり、また、分野を越えていろいろな領域の専門家とともに考えていくことが大切になります。そして、我々が研究を行うことで、火災現象に関する知見が増え、法律や基準等の規制にも繋がり、また実際の建築設計に活かすことができます。
火災は建物だけではなく、車両(自動車,鉄道)火災、森林火災、市街地火災等々、至るところで潜在的な発生リスクが孕んでいます。近年、火災発生件数は減少傾向にありますが、未だ多くの人命を奪う主要な災害の一つであります。皆さんも安全・安心なまちづくりに貢献してみませんか。