組織はどのようにして知識を学習するのか?
データを紐解き、その仕組みを可視化する。

経営学科 経営戦略領域
大江 秋津 准教授
#データ分析#組織の学習メカニズム#イノベーション戦略

組織が成長するための
確かな指針を
論理的に導き出す。

組織が知識を得て学習し、イノベーションを生み出すためには、やみくもに試行を重ねるのではなく確かな指針に基づいた行動が必要です。しかし、その行動指針を私たち人間の知識や経験から性格に導き出すには、限界があります。そこで必要になる工程がデータ分析です。集積した数々の事例を統計解析し、その結果を基に論理的な戦略を組み立てられれば、千差万別の組織それぞれに合わせた精度の高い行動指針を提示することが可能になります。かつて、ITコンサルタントとして現場での実務に携わられた経験もお持ちの大江秋津先生に、データを利用した組織行動・組織学習論研究の意義や面白さについてお話を伺いました。

複雑で興味深い
組織学習論の世界。

そもそも、「組織の学習」とはどうやって進んでいくか、ご存じでしょうか。上意下達で何でも上から下へノウハウを伝えていけばいい、というような単純な話ではないのです。組織のいたるところからあがってくる成功事例・失敗事例・知識をひとところに集約し、ノウハウとしてまとめメンバー全員に還元、さらに還元によって生まれた新たな知見を組み合わせイノベーションに昇華させ、またそれの再周知を行うことで組織全体のアップデートを図って……と複雑な過程があります。そのうえで、各過程ごとの改善・最適化を考えていくのが、組織学習論研究なのです。

「常識を疑える」という
データ分析の真髄。

こう聞くと途方もなく感じるかもしれませんが、データ分析を活用すれば、これらを論理的に進め、かつ戦略の精度を高めることが可能です。また、データ分析は、ときに常識のフィルターを外してくれるという大きな利点があります。

例えば、ある化学産業で爆発事故が起こるメカニズムを探る研究を見てみると、なんと製品の品質管理の経験が豊富な企業ほど、大事故が起こりやすいことがデータ分析により実証されました。推測ですが、これらの企業の場合、小さな事故は大幅に減少するもののそれによって現場の危機管理意識の低下や事故経験の不足に繋がり、結果として大事故を引き起こしやすくなっていたと考えられます。

化学の専門家は事故の直接的な原因究明には長けていますが、組織内での人間の行動心理に起因する間接的な要因はわかりません。経営学の観点から組織の行動を見つめ、思い込みにとらわれない発見ができるのは、データを用いる組織学習論研究の魅力のひとつです。

異種の経験を
組み合わせたつながりを
唯一無二の武器に。

私が現在研究しているテーマは、「世界に広がる日本の自動車産業の海外拠点における、本社からの自立性の価値や、その価値が生み出されるメカニズム」です。毎年のチェコスロバキアへの調査訪問に加え、グローバルに展開する海外拠点を結んだ巨大なネットワーク図を作成したり、地理空間重回帰分析(※)などを行ったりして、仕組みを解き明かそうとしています。ですが、今後挑戦したいトピックは「縄文・弥生時代の櫛に見る、日本列島での数千年にわたる知識移転について」。考古学と経営学とは一見全く別物に見えると思いますが、イノベーションを軸に考古学を考え、データを分析することで、現代の経営にも活きる新たな視点や考え方を見出すことができるのです。

全ての研究は、誰も知らないことを見つけることが目的です。学生の研究だとしても、それは同じ。未踏の世界に踏み込むために、考古学×経営学のようなレアな組み合わせから生まれる発見は、強い武器になります。学生には、今まで経験したことやこれからやることを無駄にせずつなぎ合わせて、自分だけのレアな組み合わせを作って強みにしてほしいと思います。

イノベーション創出に
つながる新たな
学び合いの場

大江研究室は、常に教員も学生も新しいものを取り入れながら試行錯誤し、一体となって進化を続けています。例えば、数年前に私が共同開発した「エレファントゲーム」を取り入れた授業。これは、商品や製品の流通管理を体感的に学ぶためのゲームであるSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)ゲームの従来の問題点を解決した、画期的な新形態版にあたります。また、このコロナ禍で対面での研究室利用が困難になったことを受け、2020年5月にはバーチャル研究室を開設しました。これはメインの研究室、コミュニティースペース、アクティブラーニングルームの3つのフロアで構成されており、「作業をする際の、学部生と院生が入り乱れた自由な交流場として」「友だち同士で共同研究をするときの待ち合わせ場所として」「別の英語のオンライン講演会と並行した、リアルタイムの日本語解説を受ける教室として」など様々な目的での使用が可能です。アフターコロナの社会においても、時間・空間の制約がないバーチャル研究室には大きな可能性があり、よりよい活用方法を探っていければと思っています。

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