文理双方の知見と手法から
多面的に事象を紐解く
意思決定というと、文系の学問である心理学やマーケティングとの関わりが深い研究領域のように思われますが、原因を考え仮説を立てて考察するというプロセスを踏むため、数理的な発想ととても相性のよい分野です。研究手法においても、アイ・トラッカーによる眼球運動の測定や生理指標の測定など理系色の濃いものもあります。統計や数理モデルといった理系の知識も必要とされます。一方で、研究をスタートするための問題提起には、事象の背景を探る力が必要であり、心理学を中心とした行動科学的アプローチ、哲学などの人文系の基礎教養もやはり大事です。文系と理系、双方の素養が求められる研究分野なのです。
「最適解を選んだ
はずが…」人の行動は時に
エラーを起こす
現在は、主に2つの研究に従事しています。1つはコロナ禍などの社会的状況が意思決定プロセスに与える影響についてです。これまでの研究で、意思決定には社会的な状況が関係していることがわかっています。現在コロナ禍でさまざまな政策が実施されていますが、一部にはバッシングを受けているものもあると思います。好ましくないと思うものをなぜ選ぶのか、よいと思って選択したものなのに、なぜ非難行動に走るのか。一見非合理なこれらの行動が起こる要因と、どのようなプロセスで意思決定が行われているのかを研究しています。
購買行動のメカニズムを
探り不利益な行動を
選ばないサポートを
もう1つは、消費者の意思決定支援に向けた情報の提示様式の検討です。この研究は、買わせようとするのではなく、むしろ不利益な購買行動から遠ざける支援を目的としています。例えば、買うつもりがなかったものを購入してしまった、という経験は誰しもあると思います。納得して購入できればよいのですが、中には言葉巧みに騙されて粗悪品を買わされたという人もいます。そのような消費者を守る研究だと言えます。「買う」メカニズムがわかれば非合理な購買行動の抑制にもつながります。ゆえに、人がどういう観点で商品を好ましいと思うのか、そこに生理的な要因は影響しているのかなどさまざまな切り口で研究しています。また、過去には医学者と共同で、脳科学の側面からアプローチしたこともあります。実験からは、リスク回避や不公平なオファーの拒絶には、特定の脳の部位や伝達物質の働きが関わっている可能性が示唆されました。こうした研究の結果が集積されれば、精神疾患の患者さんの支援などができる日もくるかもしれません。
日常に散らばる疑問を
研究に昇華する
私の研究室では、学生に研究テーマを自由に設定させています。ショッピング、電車内での人の振舞い、ニュース記事の閲覧など、人の行動一つひとつに、研究の種子が潜んでいます。多くの人がなんとなく通り過ぎてしまうことでも、立ち止まって「なぜ」と考えてみるとすべてが研究につながります。自分の疑問を研究に発展させることで、独自性も盛り込めます。また、学生には文系・理系問わず、幅広い教養を養ってほしいと考えています。研究に役立つことは言わずもがな、他の領域の人と円滑なコミュニケーションを図るきっかけになることでしょう。