財務分析にとどまらない
健全な組織づくりを
可能に。
管理会計の考え方は健全な組織づくりに大きく寄与するものです。会計情報をもとに財務分析を行うことで、組織の置かれている状態を適切し把握し問題点を炙り出すことができます。またそれだけではなく、組織や従業員のモチベーションにも影響を与えます。企業は売上高や利益率など具体的な財務指標を目標に定め、その達成度を評価につなげることが一般的で、それは従業員の労働意欲も変化させます。例えば管理会計の研究テーマに「難易度の高い目標設定がモチベーションにどう影響するのか」といったものもあり、これは心理学等の理論を組み合わせ様々なエビデンスを収集し分析します。高すぎる目標は働く人のモチベーションを低下させてしまうかもしれないし、逆に達成に燃える人もいるでしょう。どのような条件で、どのような目標を与えると、どのような影響を与えるのかは組織が追及する永遠のテーマです。管理会計の有効活用は、組織的な活動意欲向上や組織の発展にもつながっていきます。
他分野の知見を
掛け合わせ効率的な
組織経営につなげる。
一般的に文系の学問といわれる会計学ですが、隣接領域の理論や統計、数理モデル等の分析手法など様々な視点から科学的な分析ができる点に妙味があると思います。情報化の進む現代社会では、組織内でも以前より膨大な経営データを収集できるようになりました。ただ、そのデータを有効活用するためには「会計×IT」「会計×統計」といった、理系的視座に立つことが重要です。「先月の利益に影響を与えている要因は何か」「来月の原価はどの程度と予想されるか」などの疑問を統計的・科学的に分析することで、早期に適切な戦略を立てていけるのです。一方で、働く人の心情や組織行動も会計情報に基づくマネジメントの重要な帰結であり、心理学や社会学などの素養も必要であることから、管理会計は文理融合的な視点が強く求められる分野だと言えます。
研究の裾野をさらに広げ
より多くの課題解決に
貢献したい。
私が近年取り組んできた研究テーマに工場における原価情報の活用を解明するものがあります。取り入れている原価計算手法や扱う原価情報は同等であるのに、企業や工場によってその使い方や効果に違いがあるのはなぜなのか。各種企業のデータを分析していくと、工場経理部門の存在が製造部門の行動に大きな影響を与えているという結果が得られました。工場経理部門の働き方によって、製造部門員の原価情報の活用が変化し、ひいては工場全体のパフォーマンスにまで影響を与えていたのです。こうした分析には、従業員へのアンケート結果や財務データなどの定量的データが重要ですが、実際に現場を自分の目で観察し、企業の方に取材して得た定性的データも用います。研究する上では、データを眺めているだけでは分からない数字の意味を現場の声から読み解くことも心掛けています。こうした調査を通して、実際に企業で改革プロジェクトが発足するなど、研究がより良い企業風土・労働環境づくりなどに貢献する点に、大きなやりがいを感じています。
今後の展望としては、日本企業特有の経営手法の理論化とその海外発信に興味を持っています。代表的なものには、トヨタの原価企画や京セラのアメーバ経営などがあり、海外でも高い評価を受けています。ただ、それらがなぜ企業でうまく機能しているのか、確たる根拠がないのが現状です。そうした経営手法のメカニズムを解明できれば、実務的にも学術的にも大きなインパクトをもたらせると考えています。こうした研究を蓄積していくことで、企業経営に役立つエビデンスを提供することを目標にしています。
自由でユニークな発想で
学生の研究力を伸ばす。
学生には、柔軟な発想力を以て研究に臨むことを期待しています。私の研究室では「会計学×経営学で組織マネジメントを探求する」をテーマに掲げており、学生の興味関心に応じて、自由に研究テーマを設定しています。例えば、研究室の学生が取り組んだ研究の一つに「会計情報の色彩が意思決定に与える影響」というものがありました。会計データを赤などの目立つ色で表現した場合に、それに依拠した意思決定が変化するのではないかといった仮説を立てて、実験を行い、統計的な検証を行ったものです。こうしたユニークな着想は、プロの研究者からは中々出てこない学生らしい柔軟な視点だと感心したことも。実際にこの研究は会計系のゼミの研究報告大会である「アカウンティングコンペティション」で審査員特別賞を受賞するなど高い評価を受けました。このように、当研究室では学生のユニークな発想を活かした研究を推進し、「経営を科学する」という本学部の理念に基づいた研究活動を行っています。