将来の不確実な要素を数値化し
社会に役立つ本物の価値を創出する。

経営学科 マーケティング領域
朝日 弓未 教授
#マーケティング・サイエンス#社会調査#消費者行動学

潜在化した
消費者の価値観を、
科学的な視点で
捉える。

マーケティングと聞くと、多くの人が「事業やサービスから利益を生み出すための戦略」を思い浮かべるかもしれませんが、実は消費者との相互理解を深めながら市場での新たな価値を生み出す活動でもあります。この価値創造を実現するためには、消費者の深層心理を、調査やデータからいかに読み解くかが鍵となります。マーケティング・サイエンスや消費者行動学を専門とし、「ファッションECサイトにおける季節を考慮した消費者行動分析」や「日本産農産物に対する台湾の輸入額予測の研究」、「ドラッグストアのID付POSデータを用いた日用品購買パターンの比較分析」と幅広い研究を進めてきた、朝日弓未教授にマーケティング分野の面白さや必要な視点、教育のモットーをお聞きしました。

暮らし・企業・社会を支える
マーケティング思考。

私たち消費者の生活とマーケティングの関係性は、皆さんの想像以上に深く、幅広いです。小売や流通、金融にマーケティングの考え方が導入されているのは想像に容易いですが、官公庁の施策や国際的なスポーツイベント運営まで、その知識やノウハウは活用されています。そんなマーケティングの世界においてデータは大変重要な道しるべとなる一方、世の中には多くのデータがあふれています。「AI」「ビッグデータ」という言葉も世間では広く謳われていますが、そういった大量のデータから課題・問題を解決する金鉱を掘り当てなければいけません。幅広い視点から、課題・問題点を多角的に調査・分析をすることで、いかに消費者の目に見えないニーズ、行動ルールを導き出すか。事実・データに基づいた実証分析や科学的検証だからこそ見えてくるものがあります。

データとの向き合い方は、
十分な知識と
正しい理解の上に成立する。

しかし、どれだけの方が、出てきた数値結果を理解し、その数値から新たなマーケティング戦略立案を打ち立てているでしょうか。分析したデータから立案するには、統計的知識・プログラミング知識・多変量解析の正しい知識が必要です。世の中にはさまざまな統計ツールがありますが、それらからはじき出された結果を鵜呑みにするのではなく、よく理解してリスクや可能性を考慮したうえで利用する。そのためには数学の力・理数系の視野は不可欠です。私の研究は、心理学の分野でも使用される多次元尺度構成法や共分散構造分析といった手法が原点ですが、消費者の内面を数値化し、課題の解決策を探ってきました。文系・理系の枠にとらわれない研究を目指しながら、学生にも文理融合の実力を身に付けて実社会に役立つ学びをしてほしいと願っています。

日本では浸透しきっていない
「ネーミングライツ」の
モデルケースを世に送り出す。

私は今、東京都オリンピック・パラリンピック準備局で、ネーミングライツ導入のためのマーケティング活動に携わっています。ネーミングライツというのは、「公共施設に名前を付与する命名権と付帯する諸権利」のことで、スポーツ施設などの名前に企業名やブランド名を付けることができます。日本では味の素スタジアムが有名ですね。この権利を販売し得られた収益で維持費を賄うことができます。実は、当大会で新設された6競技施設のうち、5施設は五輪後の運営で赤字が見込まれたことから、ネーミングライツの導入の検討が始まりました。オリンピックで使用した施設のネーミングライツを販売するにあたり、対象施設ごとに料金の目安を「広告効果」「CSR」「リアルオプション」など将来性も加味した評価手法で算出します。一度作られた建造物を、その後、財産としていかに役立てるか。ここにもマーケティング手法は導入されているのです。海外ではネーミングライツが普及し始めているのですが、日本では事例が少なく、参考となる金額の算出方法や評価手法などの情報がほとんどありません。この新たなモデルケースを示したいと考えています。

社会が求める声に
耳を傾けながら試行錯誤。
成長の一歩を応援する。

学生を指導するうえで意識しているのは「社会が抱えるリアルな課題に目を向けさせること」。どれだけ優れたモデルを作っても、世の中の人に理解されにくい独りよがりの考え方だったり、実務で役に立たなかったりしては意味がありません。だからこそ、私の研究室では企業とコラボレーションし、実社会が抱える問題について考える機会をなるべく多く設けています。例えば、AI-Labやマクロミルといった大手企業とのビジネスコンペティションに多く参加。企業が保持する消費者の購買情報や、顧客アンケートなどの生なデータから経営戦略立案を新規性や実現可能性などの観点から多角的に検討します。学生にとっても、審査する企業のマーケティング担当者から直接意見をもらえるのは大変貴重ですし、まさに社会で求められているニーズを自らの手で模索し、肌で感じられる良い機会になっているようです。そういった色濃い経験を積む大学生活を過ごしたからか、社会人となった多くの卒業生が「現場で抱えている問題の解決」や「新しいデータ解析の知識」を求め、再び大学に足を運びます。そして、在学生や教員とともに問題解決の糸口を探ることもあります。このように、学生には社会と関わり続けながら課題解決に取り組み、成長することを願っています。

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