2026.05.28 修了生の活動

起業家として活躍中のMOT修了生との対談記事を公開

砂川和雅さんは、現役の起業家、経営者として、2023年4月に理科大MOTに入学され、2年間、学ばれました。修了後も、自身の企業グループが掲げるCSV(Creating Shared Value:共益価値の創造戦略)の実現のためにweb3をはじめとする先端ICT技術をベースに事業を推進するスタートアップの経営者として活躍されています。大学院生時代を振り返っていただきながら、理科大MOTで学んだことの意義やそれを現在、どう活かされているのかなどをお伺いしました。

砂川 和雅(写真:左)
Casley Deep Innovations株式会社 代表取締役社長
ITインフラ企業、ITコンサル企業を経て2006年に起業。その後、「社会課題の解決と企業価値の向上は両立する」というCSVの理念のもと、2013年にキャスレーコンサルティング(現:Casley Deep Innovations株式会社)を創立。上場企業等を相手先に5事業をM&AによりEXITし、2020年にキャスレーホールディングス株式会社を設立。Web3.0・AI・XRなどディープテック領域での事業を加速させ、2023年よりCasley Deep Innovations株式会社 代表取締役社長に就任、現在に至る。

日戸 浩之(写真:右)
東京理科大学 大学院経営学研究科 技術経営専攻 教授
東京大学文学部社会学科卒業、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。野村総合研究所入社、コーポレートイノベーションコンサルティング部グループマネージャー、未来創発センター上席コンサルタントの他に、北陸先端科学技術大学院大学客員教授を兼務。2019年4月 に本学教授(みなし専任)に就任し、2020年4月より現職。『デジタル資本主義』(共著、東洋経済新報社)により第28回大川出版賞受賞。

日戸:起業家、経営者として先端的なICT技術に基づく様々な事業を立ち上げられて、現在も活躍中の砂川さんですが、どのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

砂川:キャリアの出発点はSIerでした。営業として顧客と向き合いながら、設計や開発にも踏み込み、さらには新規事業の立ち上げにも関わりました。その後、より大きな価値創出を求めて起業し、ITコンサルティング事業を展開したのですが、組織を拡大させる中で、経済合理性だけでは測れない社会課題の存在を強く意識するようになりました。そこで立ち上げたのがCasley Deep Innovations株式会社です。同社で主にweb3と呼ばれる、ブロックチェーン技術等を用いた分散型ネットワークを活用した様々な事業を推進することで、データとテクノロジーを活用して貧困や格差といった見えにくい課題を可視化し、いわば社会に新たな他律型の意思決定の軸を提示する取り組みに挑戦しています。

日戸:すでにいくつかの事業を成長させて上場企業に譲渡されるなど、一定程度以上の成功を収めていらっしゃるようにも見受けられます。それでもなお理科大MOTで学ぼうと考えたのはなぜでしょうか。

砂川: 知的財産戦略と技術経営の体系的な知識が決定的に不足していたからです。当時、web3というコンセプトが世に出始めたばかりで、それに関わるサービスでは知的財産をめぐる体制が未整備の状況でした。先行者利益を取る余地がある一方で、私自身も十分に理解しているとはいえませんでした。一応、特許出願を経験したことがあったものの、技術を公開することによる模倣リスクなど判断が複雑で、現場での試行錯誤だけでは限界を感じていました。加えて、この領域で競争優位を築くには、技術を軸にしたマネジメントが不可欠だと考え、理科大MOTで学ぶことを選びました。

日戸: 大学時代は青山学院大学で経営学の学士を、社会人になってからは同大学のビジネススクールでMBAを取得されているそうですね。それらの学びと、理科大MOTでの学びには、どのような違いを感じますか。

砂川: ビジネススクールでは、マーケティングやファイナンスといった経営のセオリーを学びました。一方で、理科大MOTのアプローチは大きく異なり、技術を起点に経営を考える点に特徴があります。実際に受講してみると、これまでの経営学とは違う視点が多く、とても新鮮でしたし、ビジネススクールでは学べない内容も多いと感じました。特に、知的財産とマーケティングを掛け合わせて競争優位をつくる考え方は印象的で、技術を軸に新しい価値を生み出す学びだったと実感しています。

日戸:実際に理科大MOTに入学してみて、どのような印象をもったのか、教えていただけますか。

砂川:まさに期待どおり! と興奮したことを覚えています。知的財産戦略をはじめ、求めていたテーマがそろっており、それまでの学びでは得られなかった知見に触れられる──。加えて、共に学ぶ学生も大手メーカーの部長クラスや役員など、今後の経営幹部を担うような人材が多く、EMBA(Executive MBA)にも通じるような濃度の高い環境で大いに刺激を受けました。授業は対面(教室での参加)とリモート(Zoomによる受講)を組み合わせたハイブリッド形式で基本的には開講されているので、出張先から参加できた点も実務との両立において非常に助かりました。

日戸: 砂川さんが経営するグループ企業のインド拠点からリモートでゼミに参加されたこともありましたね。本学MOTの特徴の一つが、いわゆる修士論文に相当するグラデュエーションペーパー(以下、GP)の執筆するための研究であり、ゼミではその研究の進捗を議論することが中心となります。。日常の様々な仕事上の業務に加えて、授業への参加だけではなく論文執筆が加わるわけですから、学生の皆さんには、かなりタフな経験になることは間違いありません。

砂川:確かに思ったように研究時間が取れず、夜中に先生に草稿をお送りすることも一度や二度ではありませんでした。正直、毎日ギリギリでしたね(笑)。

日戸:それにしても砂川さんの集中力には目を見張るものがありました。理科大MOTのGPには、研究として取り組む「技術経営論文」と新規事業などを構想し提案する「ビジネス企画提案」の2タイプがあります。当初は技術経営論文を念頭に研究・イノベーション学会で発表されていましたが、途中でビジネス企画提案に切り替えられて、気がつけば研究成果に基づく新たな事業提案がまとまってきていました。

砂川:アカデミックなアプローチから、ターゲットとするスコープをMaaS(Mobility as a Service)領域に絞り、実際のビジネス企画を作っていくことになりました。回り道のようでしたが、振り返ってみれば技術に関する研究にも取り組めましたし、一粒で二度美味しい研究ができたと思っています。

日戸:新規事業の構想を固めながら、多数の関係者へのインタビューや東京都の助成金への申請などを同時進行で進めていく、砂川さんの進め方のスピード感には同じゼミで学ぶ同期の学生も驚いていましたね。結果として、分散ストレージ技術を活用したMaaS事業の提案をGPとしてまとめ上げ、修了後の今は社会実装に向けて動いていらっしゃると伺っています。

砂川:はい、GPで構想したことが着々と形になりつつあります。現在、デバイスなどの試作品開発がまもなく完了するところです。この事業のコアは、ドライブレコーダー等から収集したデータを、クラウドではなく分散型エッジストレージで管理する仕組みです。商用のクラウドサービス上の管理はコストやセキュリティリスクが高く、位置情報という経済安全保障上も重要なデータを海外のプラットフォームに委ねる懸念もあります。私たちのシステムでは、車載ドラレコのデータをM2Mで近傍デバイスに分散保存します。加入者が増えるほど容量も増え、ハッキングも困難になるでしょう。すでに複数社が参加を検討してくださっています。

日戸:それはすばらしい取り組みです。GPから芽吹いた事業が、これから大きく花開くことを願っています。

砂川:入学前と現在を引き比べ、知的財産に関する知識と実行力は飛躍的に増大したと感じます。事実、私自身の手で特許申請を4件行い、うち2件の受理に成功しています。これは理科大MOTで学んでいなければ絶対に出せなかった成果だと思います。

日戸:複数のスタートアップ企業を軌道に乗せてきた砂川さんに、改めて伺いたいのですが、起業家、アントレプレナーが本学MOTで学ぶ意義はどこにあると思いますか。

砂川:実務に即した学問領域を体系的に学べることの重要性は言うまでもありません。ただ、それと同じくらいに価値を感じているのが同志の存在です。経営者やミドルクラス以上の位置にいる企業人が、利害関係のない立場で率直に議論できる場というのは、なかなか得がたいものです。また、専攻全体で2月初めに開催されたグラデュエーションペーパー(GP)の最終審査発表会で、そうそうたる助言委員の方々から客観的なフィードバックをいただけたことも大きかったです。経営者でいると、どうしても社内では批判的な意見が得にくいものですが、理科大MOTに忖度なく指摘してくれる仕組みがあったからこそ、精度の高い企画になったと思っています。

日戸:ゼミではよく議論しましたし、ゼミが終わった後もゼミのメンバーを中心に、よく神楽坂のお店に行きましたね。

砂川:ええ、ワインの栓がどれほど開いたことか(笑)。思えば先生方は、同じ仲間として接してくださる方ばかりでしたね。学生の専門領域に対して、先生方が敬意を払ってくださっていると強く感じました。理系の方々と議論できたことも、文系出身の私にとっては大きな収穫だったと思います。というのも、アイデアを出す段階では抽象的な発想が必要ですが、社会実装の段階ではロジックに落とし込む必要があります。文系的な発想と理系的な整理力の両方が噛み合うことで、アイデアが具体的な企画に変わっていく。理科大MOTは双方の素養がそろっている、理想的な環境だと感じました。

日戸:最後に今後の抱負を聞かせてください。

砂川:300年先にも続く「無形の競争優位」を日本に構築することです。人口減少が進む中、世界から信頼され続けるための鍵はデータにあると確信しています。「世界で最も安全にデータを預けられる国・日本」——その認知こそが、最強の競争優位になる。その未来を手繰り寄せるために、分散型エッジストレージを5〜10年で必ず実用化する。それが私の使命です。

日戸:ぜひその使命を実現していただきたいです。そのために、また後輩の学生のために、理科大MOTの授業やゼミに機会をみつけて議論をしにきてください。本日はありがとうございました。