2026.07.12 修了生が紹介するMOTの講義
基盤科目「研究方法論」(加藤晃教授)|第1回:リサーチ・デザイン
【2026年夏学期】
理科大MOTでは学生全員が1年次の後半から研究室(ゼミ)に所属し、技術経営に関する研究の成果を「グラデュエーションペーパー(GP:いわゆる修士論文に該当、※1)」として執筆・発表する。修了要件でもあるGPは個々の学生が抱える課題やテーマに応じて、より研究論文に近い「技術経営論文」、所属企業・部門への提案や自身の起業案である「ビジネス企画提案」に区分されている。本科目「研究方法論」では、いずれの区分や各々のいかなるテーマにおいても必要なツールであり、GPを作成するためには欠かせない研究の基礎を身につけることを目的としている。

今回聴講の機会をいただいた第1回講義は加藤晃教授(※2)が担当。加藤教授は2024年度まで理科大MOTの専任教授として講義だけでなくゼミでの指導もされており、筆者も経営戦略などの講義で教えを受けた一人である。貿易商社や保険会社で実務に携わりながらビジネススクールで学び、さらには博士課程でも研究を続けられた加藤教授の語る研究方法論は、同じように働きながらMOTに通いGPの完成を目指す学生にとって大きな助けとなることだろう。

第1回のテーマはリサーチ・デザインだ。学術的な意義を備えた内容に研究を仕上げるには、「我流」の方法論ではほとんど不可能である。MOTのGPにおいても、学外の研究者・実務家から指導を受けることができるので、技術経営論文・ビジネス企画提案とも可能な限り学会発表が推奨されている。専攻内の審査はもちろん外部の学会で評価を受けるには、研究として一定のアプローチや作法を踏まえることが不可欠だ。こうした方法論は往々にしてゼミごとの「一子相伝」であり、統計学などのツールも必要に応じて随時習得することになりやすい。今回は「研究と勉強の違い」という大前提から、自然科学と比較した際の経営学や社会科学の研究課題の特質、定性および定量の各手法や研究倫理など全8回の初回として研究をめぐる全体像が解説・議論された。
研究のプロセスでまず重要となるのがリサーチ・クエスチョン(RQ)の検討だ。加藤教授は学術的な「研究」について英語のresearchをもとに、re-searchすなわち「再び」「探し求める」に分解し、既存知識で説明できないことを再び調べて「新たな知識を創造すること」と説く。とはいえ、単に情報収集を行うだけの調査報告では、生成AIの活用が広がる昨今は実務上も学術的にも価値を失いつつある。一方で、今なお人間にしかできない価値創造の営みのひとつが、独自の鋭い切り口で問いを立てることだ。範囲が広く漠然とした「研究テーマ」を、具体的で興味をそそる問いに「絞り込んで深くしていく」ことこそ「RQ」だと加藤教授は語る。
もっとも、当初設定したRQで最後まで研究が進むことはほとんどない。研究課題の選定や用いる理論、推論の技法、実際に得たデータといった諸要素の間で、リサーチ・デザインは絶えず練り直しを迫られる。このように研究活動は予定通り進まない、という事実もこれからGPに取り組む学生へのメッセージのひとつだ。講義では、京都大学がん免疫総合研究センター長の本庶佑氏が日本経済新聞に連載した「私の履歴書」のある回を題材に、免疫システムに関するリサーチプロセスの練り直しや変遷を読み解く場面もあった。こうした教材も本科目のユニークなところであり、学生には普段目にする記事を違った角度で読み解くヒントともなるだろう。
学術的な要素を備えるだけでなく、理科大MOTのGPとして重要なポイントもある。加藤教授はGPのRQのポイントとして、①キャリアアップに資する、②データの入手や人脈の活用は可能か、③在学期間中の完成、を挙げる。これらの観点にはアカデミアから受ける評価だけでなく、実務上の便益や一定の期間内に成果を出すというビジネスパーソンとして重要な要素も反映されている。本科目を受講する学生には、習得した方法論や執筆の作法を活かし、実務と学術の両面で評価を受けるGPに取り組まれることを期待したい。
次回以降は第2回を岸本太一准教授(※3)、第3回を日戸浩之教授(※4)が担当され、それぞれの先生方の方法論を学び、その後は再び加藤教授の指導によりグループワークや過去の修了生の発表映像を通じて理解を深めるとのことである。この「研究方法論」は筆者が修了してから新たに設けられた科目だが、今回の聴講ではゼミを超えた学びの機会を得られる現在の在学生をうらやましく思うと同時に、より有意義でレベルの高い研究プログラムへと理科大MOTも進化を続けていることが感じられた。
執筆:2022年度修了生(損害保険業勤務)
※1 グラデュエーションペーパー:https://dept.tus.ac.jp/mot/gradationpaper/
※2 加藤晃教授:https://dept.tus.ac.jp/mot/facuity/akirakato/
※3 岸本太一准教授:https://dept.tus.ac.jp/mot/facuity/taichikishimoto/
※4 日戸浩之教授:https://dept.tus.ac.jp/mot/facuity/hiroyukinitto/















