
伊藤 香織教授 ITO Kaori
人が幸せに生きられる都市を目指して
都市は、人が集まって暮らす物理的な空間の形式やシステムとして、長い時間をかけて常に進化してきました.都市が機能的であることは大事なことではありますが、都市は第一義的には人のためにあるものなので、ただ便利なだけでなく、ここで暮らしていて幸せだと思える都市であることが重要です。そこで、都市の研究の一環で、シビックプライド(都市に対する市民の誇り)に関する研究をしています。

シビックプライドを醸成する接点づくり
シビックプライド(civic pride)は都市に対する市民の誇りという意味ですが、単なる郷土愛やまち自慢だけではなく、ここをより良い場所にするために自分自身が関わっているという、当事者意識に基づく自負心というニュアンスがあります。もともとは、市民社会と近代都市の萌芽期であった19世紀のイギリスにおいて、特に商工業で勃興した地方都市で重要になった概念です。市民自身が都市づくりに関与できるようになってきた状況に対して、それぞれが関与することを誇りに思ったのです。さて、市民参加の制度が充実してきている現代の都市でも、あらためてシビックプライドが見直されてきています。やらされるのではなく、シビックプライドをもって自分たちでアイディアを出しながら自分たちの力で都市をつくり運営していくことで、その都市らしい力が発揮されるからです。そのために、人と都市とのどのような接点づくりがシビックプライドを高めるか、シビックプライドのどのような側面に効くのか、などを研究しています。

抽象的思考と具体的実践を行き来する
都市に関わる研究室では、研究について非常に抽象度の高い議論をする一方で、実際に住まい手や子どもたちと一緒に話しながらまちづくりに関与することもあります。抽象と具体を行き来しながら都市を考え都市を構想していくわけです。どちらも重要で、どちらも真剣に取り組めば取り組むほど楽しいものです。
