
有機半導体のメカニズムをより深く理解するために―先端化学科 中山泰生准教授に聞く―
電気を通す性質をもつ「有機半導体」は、柔らかく加工しやすいという特長から、有機ELや太陽電池などへの応用が進んでいます。中山泰生准教授は、有機物の「バンド幅」に着目し、電子がどのように移動するのかを測定することで、有機半導体が電気を通す仕組みの解明に取り組んでいます。
電気を通す性質をもつ「有機半導体」は、柔らかく加工しやすいという特長から、有機ELや太陽電池などへの応用が進んでいます。中山泰生准教授は、有機物の「バンド幅」に着目し、電子がどのように移動するのかを測定することで、有機半導体が電気を通す仕組みの解明に取り組んでいます。

電気を通す有機物である「有機半導体」は、「柔らかい」「印刷可能」など、シリコンなどの無機半導体にはない特徴を持っているため、現在、有機ELや有機太陽電池など、様々な新しい技術へと応用が進んでいます。しかし、なぜ有機半導体が電気を通すのか、その根本原理はいまだ完全にはわかっていません。中山泰生准教授は、様々な有機物の「バンド幅」を測定し、その物質内部で電子がどのように移動しているかを明らかにするなど、独自の技術を駆使して有機半導体の未知のメカニズムを解き明かしていくことを目指しています。有機半導体とはどのようなものなのか、バンド幅を測定するとはどういうことなのか。研究の方法やその面白さを含めて、中山准教授に聞きました。
中山 泰生(なかやま やすお)1999年 東京大学理学部化学科卒業、2005年 同大学大学院理学系研究科化学専攻 博士課程修了。博士(理学)。科学技術振興機構CREST「ナノファクトリ」領域研究員、千葉大学先進科学センター特任教員、同大学大学院融合科学研究科助教を経て、2015年より東京理科大学理工学部工業化学科講師。2021年に現職へ。

私の研究は、大きな枠組みとしては材料科学に含まれます。この分野の研究は、材料を作る研究、その使い道を模索する研究、そして材料の性質・特徴を調べる研究の3つに大きく分けることができますが、私はその中でも3つ目の、材料の性質や特徴を調べる研究を主に行っています。調べる対象としているのは有機半導体です。有機ELディスプレイや有機太陽電池など、有機エレクトロニクスに利用されている材料です。
有機半導体とは、その名の通り、有機化合物(=炭素を主要な要素とした化合物)でできた半導体です。イメージとしては、プラスチックみたいな物質で電気を通すもの、という感じです。もともと有機物は電気を通さないと考えられていたのですが、条件によっては電気を通すものがある、つまり半導体になる有機物があることがわかってきて、近年その研究が進むようになりました。ちなみに有機物が電気を通すことを発見して2000年にノーベル賞を受賞したのが白川英樹氏ですが、いずれにしても、そうして電気を通す有機物の研究が進んだ結果、「柔らかい」「印刷可能」「発光する」といった特徴を持つ有機半導体が人工的に作られるようになり、折り曲げることができるディスプレイなども開発されるようになりました。
ただ、有機半導体が電気を通すメカニズムは、完全に解明されているわけではありません。つまり、「この有機半導体物質はよく電気を通す」ということが知られていても、なぜそうなのかがわかっていない場合が多くあります。私たちの研究室では主に、そういう物質に対して、なぜそれがよく電気を通すのかといった性質を明らかにし、有機半導体をよりよく理解することを目指しています。
――有機半導体が電気を通すメカニズムについて、どんなことがわかっていて、どんな点がわかっていないのでしょうか。また、シリコンなど、無機半導体との違いも教えてください。
シリコンなどの無機半導体は、原子が規則正しく並んだ結晶構造になっています。そのままの状態では自由に動くことができる電子がほとんどなく電気を流しにくいのですが、リンやホウ素を少量混ぜる「ドーピング」という操作を行うと、電気をよく通すようになります。一方、有機物というのは、有機分子(炭素を含む分子)が集まったものですが、分子と分子の間を電子が移動することが難しいため、電気は流れにくい。ただ、有機物によっては、分子が比較的規則的に並んでいるなどの特徴から、分子と分子の間を電子が飛び移るように移動して電気が流れる場合があります。それが有機半導体と呼ばれるものです。
つまり、無機半導体と有機半導体では、電気が流れる基本的なメカニズムが異なっています。無機半導体の場合は、原子と原子の間を電子がスムーズに移動でき、それは専門的に言えば、電子は「波動」の性質を示すということになります。一方、有機半導体では、電子が分子と分子の間をスムーズには移動できず、その場合は、電子が「粒子」の性質を示す、と言います。そのように、電子の移動の仕方が異なることで、無機半導体の方が有機半導体よりもよく電気を通すといった違いが生じています。

ただし、有機半導体の電気が流れ方は一様ではありません。実は有機半導体にも「波動」の性質を示すものもあり、その辺りのメカニズムはよくわかっていません。私たちの研究室では、そのような有機半導体の未知の部分に着目して研究を進めています。

有機半導体の電子が「波動」的なのか「粒子」的なのかに関わるのが、「電子の重さ(有効質量)」です。一般に電子の重さと言えば、真空中に静止している電子の重さのことで、それは一定の値を持ちますが、例えばシリコン結晶中の電子は、見かけ上軽くなります。または、軽くなったように振る舞います。この「見かけ上の重さ」が、ここでいう「電子の重さ」で、これが軽いほどその物質中で電子は動きやすい、すなわち、その物質は電気を通しやすいということになります。それゆえに、簡単に言えば、電子が「波動」の性質を示す場合は電子が軽く、「粒子」の性質を示す場合は電子が重い、ということになります。

ここで具体例として、よく知られた有機半導体、ルブレンの単結晶を見てみましょう。この分子の結晶では、方向によって電子が移動する速度,つまり電気の流れやすさが大きく変わります。
例えば,写真に示したような結晶では,横方向へは縦方向より5~10倍も電気が流れやすいことが報告されているのですが、その理由は「バンド幅」を調べると知ることができます(下図)。バンド幅とは、電子のエネルギーがどれくらい分散しているか、言い換えれば電子の波がもつ波長を変えたときのエネルギーの変動幅を表すもので、物質に紫外光やX線を当てる実験で測定することができます。バンド幅が広い(=波のようなものが見える)と、分子同士が“つながった”状態になっているということであり、つまり、電子が分子間を移動しやすく、電子が軽いということになります。逆に、バンド幅が狭い(=波が見えない)と、分子と分子が“つながっていない”状態であり、つまり、電子が分子間を移動しづらく、電子が重いということになるのです。すなわち、バンド幅を測定し、その幅の広さを見ることで、有機半導体の電気の通りやすさを知る上での重要な手がかりを知ることができるのです。

シリコンのような無機物の結晶材料のバンド幅を測定する実験はいろいろな研究室で行われていますが,有機半導体のバンド幅の測定に関して豊富な経験とノウハウを持っているのは,私たちの研究室の他には世界でも片手で数えられるほどしかありません。そのため、これまで調べられてこなかった有機物のバンド幅を測定し、電子の重さを実験的に知ることができ、それが私たちの一つの強みとなっています。このような方法で、近年では例えば、ペンタセンという物質の単結晶が「波動」と「粒子」の中間的な性質を示すことを実証することができました。平易な言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、例えばこのようにして、有機半導体の性質をよりよく理解することを目指して様々な研究に取り組んでいると考えていただければと思います。

そうですね。今の自分の研究が必ずしも新しい材料の開発へとつながっているかはわからない部分もありますが、すでに使われているいい材料が、なぜ“いい材料”なのかを理解できると、その知見が、新たな材料を開発する上でのヒントになるということはあると思います。一方、私は実は、新たな材料の開発につながるかどうかということ以上に、この材料はなぜいい材料なのか、そのメカニズムはどうなっているのかをただ知りたい、解明したい、という気持ちが強くあります。そういう意味では、個人的な探求心が、自分にとっては研究を進める上でのより大きな原動力になっているようにも感じます。
ただ最近、私たちの研究をこれまで以上に新材料の開発へと活かす可能性を広げうる成果を出すことができました。というのも、先にお話ししたバンド幅を調べる私たちの方法は、これまで、溶媒に溶けにくい有機半導体でしか行うことができていませんでした。しかし実際には、溶媒に溶ける有機半導体であれば、印刷によって回路を作るといったことも可能で応用範囲も広いため、そのような有機半導体でもバンド幅を測定できるようにしたいと考えてきました。そして最近ようやく、溶媒に溶ける物質でもその測定を実現することができました。まだ一つの物質だけですが、この成果を皮切りに、バンド幅を測定する私たちの方法がより広く活用されるようになるよう、研究を重ねていきたいと思っています。

“創域”とは、1つの分野にとらわれずに分野横断的に新しいことをやっていくことと私は捉えていて、私自身、他の分野の研究者との共同研究も多く、そのような分野横断、異分野融合の重要性を強く感じています。ただ、本学部の先生方はもともとそのような異分野融合的なことには積極的だった印象で、私も、物理系の先生と一緒にゼミを行ったりということを理工学部時代からやっていたため、創域理工学部になったことで教員同士の取り組みが大きく変わったという印象は特に受けていないというのが正直なところです。
その一方、学生たちにとっては、創域理工学部では「横断型コース」などの仕組みがあることで異分野の研究に触れる機会がいろいろとあり、それはとても貴重なことだと感じます。自分が学生だったころを振り返ると、隣の研究室が何をやっているかということもなかなか知る機会がありませんでした。その点、現在の創域理工学部の学生は、他の分野の先生の研究を見て、その方法を自分の研究にも取り入れてみよう、などと思いつく機会もきっと多いはずなので、うらやましくも感じます。ぜひこの環境を活かして、これまでにない新たな研究を切り拓いていってほしいですね。

私にとってなぜ有機半導体が興味深いかと言えば、それは、有機半導体が物理学と生物学の間くらいに存在するものであるからのように感じます。化学の研究者である私個人の印象としては、物理学は、現象のできるだけ本質だけを取り扱って普遍性のある理論体系を確立することを重視する傾向がある一方、逆に生物学で取り扱うような対象は、例えば蛋白質のような基本的な物質であっても理論的な計算だけで全てを説明したり予測したりするには複雑すぎる分野のように感じています。その印象がどこまで正しいかはわからないのですが、そうだとすると、有機半導体のような分子の世界というのは、その間くらいにあるのではないかと思います。生物学で対象とするような分子よりはずっと単純化されてはいますが,それでもまだ物理学的な理論計算やシミュレーションで厳密に予測できるところまでは至っていない。そのため、それぞれの学問分野が持つ異なった側面を同時に体感できるような面白さがあると感じています。そのように考えると、有機半導体という対象自体が、異分野融合的な要素を持っているとも言えるかもしれませんね。
あまり説教くさいことを言うのは嫌なのですが(笑)、効率性が重視される昨今の風潮を見ていると、私としては、効率などは考えずに、とにかく自分が面白いと思うこと、興味が沸くことを探して、それをやっていくのがいいのではないかなとよく感じます。現代のインターネットやSNSは、「これは面白いですよ!」と外から言ってくるような情報であふれていて、そうやって「面白いと思わされたもの」にどうしても意識が向いてしまいがちですが、おそらく実際には、一人ひとり、自分が面白いと思うものってもっとそれぞれ違っているはずだと思っています。他の人が面白いと言ってなくても、自分で能動的にすごく面白いと思えるもの。そういうものに出会えたら、きっとのめりこめるし、楽しいはずです。おそらく研究も、そうやって自分で面白いと思ったテーマに取り組めるのが一番です。ぜひそういう対象を見つけてもらえたらと思っていますが、一方で大学に入学してくる段階で自分が本当に面白いと思えるテーマを既に見つける機会に恵まれていた、という人もそう多くないと思います。そうした意味で手前味噌にはなりますが、多くの学科を横断して融合研究を進める土壌のある創域理工学部は大学入学時に決まる学科の枠にとらわれず、面白いと思えるテーマをあれこれ探していける環境なのではないかと思いますので、ぜひ多くの方にチャレンジしていただきたいですね。
