東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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昆虫や鳥に学び、羽ばたく小型飛行体を作る―機械航空宇宙工学科 青野光准教授に聞く―

昆虫や鳥のように翼を羽ばたかせて飛ぶ小型飛行体の実現を目指す青野光准教授。開発中のハチドリ型飛行体の仕組みから、生物の飛行メカニズムの解明、将来の実用化や惑星探査へ向けた取り組みまで、多様な研究について伺いました。

航空宇宙工学を専門とする青野光准教授は、昆虫や鳥のように翼を羽ばたかせて飛ぶ小型飛行体の実現を目指し、機体の設計・製作から、生物の飛行メカニズムの解明まで、幅広い研究に取り組んでいます。なぜ小さな飛行体には羽ばたき翼が適しているのか。どのようにして生物の巧みな飛行を人工の機体に取り入れるのか。現在開発中のハチドリ型飛行体の仕組みや、低圧環境での昆虫の飛行実験、さらには将来の実用化や惑星探査へ向けた取り組みなど、青野准教授の多様な研究について伺いました。                                                                                                                                                                                                                

青野 光(あおの ひかる)2004年 千葉大学工学部卒業。2008年同大大学院自然科学研究科 博士課程修了。博士(工学)。ミシガン大学工学部航空宇宙工学科 博士研究員、宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 招聘研究員、東京理科大学工学部機械工学科 嘱託助教、信州大学繊維学部機械・ロボット学科 准教授を経て、2026年4月より現職。

なぜ羽ばたき翼の飛行体を作るのか

――青野先生の研究の概要を教えてください。

私の専門は航空宇宙工学といわれる分野で、現在は小型飛行体を作り、それを飛ばすことを目的とした研究を行っています。作っているのは、昆虫や鳥のように羽根や翼を羽ばたかせて飛ぶ機体で、いずれはそれを発展させて火星などの惑星の飛行探査に使えるものにするべく、実際に機体を設計・製作するとともに、様々な基礎研究や要素研究に取り組んでいます。また一方、羽ばたき翼というのは生物に由来したものなので、生物の飛行を実際に観測・計測して分析したりする研究も行っています。そうした研究を通じて昆虫や鳥の飛行のメカニズムをよりよく理解して、その知見を小型飛行体の設計へと活かす方法を考えています。

研究の中身をより具体的にお話しすると、私はこれまで、羽ばたき翼の小型飛行体として、カブトムシ、ハチドリ、チョウという3種の生物を模した機体の設計・製作を行ってきました。それぞれ実際の生物の飛び方を観察・分析し、その動きをモーターと機械的な機構で再現すべく、当時勤務していた信州大学の学生たちとともに試行錯誤を重ねて、機体を製作してきました。現在は、その中でも最も発展の可能性が高いと思われたハチドリ型の機体を中心に研究を進めていて、自律飛行できる機体を完成させることを目指しています。

青野先生が製作した、カブトムシ、ハチドリ、チョウの構造を模した小型飛行体とその構造

――羽ばたき翼を持つ飛行体というのは珍しいように思うのですが、羽ばたき翼に特化して研究されているのはなぜですか。

きっかけは、私自身が元々生物の飛んでいる姿を見るのが好きだったということですが、羽ばたき翼について実際によく知っていくと、羽ばたき翼の飛行体には、回転する翼を持つドローンなどとはまた違った可能性があることがわかり、研究を深めることには大きな意味があると考えるようになりました。例えば、昆虫くらいの小さな飛行体を作る場合には、回転翼では十分な飛行性能が得られないため、羽ばたき翼にするのがよいと考えられています。

小さな飛行体にはなぜ羽ばたき翼の方がよいのかと言えば、空気や水などの流体に関するパラメータに「レイノルズ数(Re)」というものがあります。それは、慣性力と粘性力の比として表され、わかりやすく言えば、「流体の流れの勢い」と「流体の粘り気の強さ」の比ということになります。

この値は、飛んでいる物体の大きさに依存し、一般に、大きな物体の周りを流れる流体はレイノルズ数が大きく、小さな物体の周りでは小さくなるのですが、それはすなわち、小さい飛行体ほど、空気の流れの勢いよりも空気の粘り気に強く影響されることを意味しています。そして、そのような空気の粘り気の影響が大きい環境では、固定翼(一般の飛行機の翼)や回転翼(プロペラなど)では大きな揚力(翼が空気中で上に押される力)を出すことが難しく、羽ばたき翼の方が有利であることがわかっています。つまり、昆虫のような小さな飛行体を作る場合には、回転翼などにするよりも、羽ばたき翼にする方がよいのです。

現在私たちが製作しているハチドリ型の飛行体は、翼を広げた時の幅が20センチ程度の手乗りサイズで、まだそこまで小さくはないのですが、例えば災害現場などで人間が入り込めないところに入り込んで情報収集するという目的で昆虫のような飛行体を作るとすれば、羽ばたき翼にすることが有力な選択肢となるはずです。また、手乗りサイズくらいの大きさの飛行体の場合でも、回転翼のブレードは硬く、また回転も速いため、人の近くで飛ばすためには安全と騒音に関する何かしらの対策が必要となります。羽ばたき翼は柔らかい素材で作られ比較的ゆっくり動くためそうした対策を考える必要がなく、羽ばたき翼を使うことはそのような実用上のメリットもあると考えています。

自律飛行を実現するために必要なこと

――ハチドリ型の飛行体はどのようなメカニズムになっているのですか。また、現在製作されている機体がどのくらい飛べるのかといったことも教えてください。

現在私たちが開発を進めているハチドリ型の飛行体は、左右それぞれの翼にモーターが一つずつついています。それらのモーターの回転する向きを、正転、逆転と交互にスイッチさせることで翼が羽ばたきます。翼は実際のハチドリと同様に、大体20~30ヘルツぐらい、つまり1秒間に20~30往復するような速さで動きます。また、翼は左右独立に動かすことができます。

一方、現状ではまだ機体にバッテリーを搭載できていないため、ワイヤーで給電する形を取っていますが、いまのところ、自律的に姿勢を制御しながら4秒間くらいは飛ぶことができます。今後、バッテリーを積んでワイヤーなしで飛ばすという段階へと進めていく予定です。

――バッテリーを搭載するということの他に、これから具体的にどのような点を検討・改良することが必要になるのですか。

まず、バッテリーを搭載すると重量が増すため、より大きな揚力を出せるような翼にしたり、構造を軽くしたりといった改良が必要になります。また、多彩な飛行モードを実現させるために、翼や胴体の動きをうまく生かして飛行を制御するといったこともできるようにしたいと考えています。さらに、簡単には墜落しないロバスト性(強さや安定性)を持たせたく、例えば突風が吹いても墜落しないように、センサーを付けて風速を計測し、それを計算に入れながら姿勢を制御するというようなこともできるようにすべく、そのような目的の実験も行っています。実際昆虫は、羽根や体にたくさんのセンサーが付いていて、その情報を利用することで、突風が吹いても墜落せずに飛び続けられます。人工の飛行体の場合、載せられるセンサーの数や種類は限られるので、少ないセンサーでいかに良い制御するかというところもさらに研究していきたいです。

生物の飛行を探究し、惑星探査への可能性を追う

――機体の製作とは別に、実際の生物の飛行メカニズムの研究もされているとのことですが、それはどのような研究なのですか。

こちらの研究では、実際の生物を対象としてシミュレーションや実験を行っています。シミュレーションとしては例えば、昆虫の羽根の動きとその周りの空気の流れをモデル化、計算し、飛行中に昆虫にかかる力や空気の流れを分析するといったことを行いました。昆虫は、羽根の上面側に「剥離渦」と呼ばれる渦が生じることで揚力を得ていることがわかっていますが、どのように渦が生じて、昆虫がそれをどのように利用しているのかをシミュレーションによって詳細に把握し、その知見を機体の設計に活かせないかと考えたりしています。またこれはスケーリング則と言って、ある大きさの昆虫の羽根にかかる空気力がわかれば、その何倍の大きさの飛行体では翼にこれくらいの力がかかるはずといったことも予測できるので、シミュレーションからそういった知見を得て、機体の設計に活かしたりもしています。

一方、実験としては例えば、減圧した環境下で昆虫を飛ばし、気圧が低い場合に昆虫がどのように飛ぶのかを観察したりしています。この実験は、空気を少し抜いて気圧を低くしたチャンバーの中にスズメガという昆虫を飛ばすことで行ったのですが、この時スズメガは、羽ばたきの振幅も周波数も大きくなりました。つまり、減圧する前に比べて、羽根を大きくかつ速く羽ばたかせていました。気圧が下がると、空気の密度が下がり、その結果空気力も小さくなります。しかし体の重さは変わらないので、より大きな揚力を生み出さないと飛べません。そのため羽根を大きくかつ速く羽ばたかせていたというわけです。このスズメガは、標高2000~3000メートルくらいの場所と同等なレベルまで気圧を下げても、特に苦労なく飛ぶ様子が観察できました。

――気圧が低い環境での昆虫の飛行実験というのは、飛行体を将来、惑星探査に使うということを意識されてのことなのですか。

はい、その通りです。火星大気の気圧は100分の1気圧、つまり地球の100分の1の気圧なので、いずれはそのような低圧環境で実験を行わないといけないのですが、まずは地球上で昆虫が飛んでいそうな領域の中で特に気圧が低そうなところを想定して実験を行いました。火星の環境は、気圧以外にも様々な点で地球と大きく異なるため、実際に惑星探査に使える機体を作るためには様々な側面を検討しなければならず、道のりはまだ長いです。その前にまずは、地球上で使える羽ばたき翼の小型飛行体を完成させたいと考えています。

今後の大まかな予定として、2030年くらいまでには、バッテリーで完全に自律飛行できる飛行体を完成させたいです。そしてその後、地球上で人が入り得ないような場所での情報収集や計測が可能な、実用的な小型飛行体を世に送り出されたらと思っています。その際には、異なるセンサーを積む多数の飛行体を一気に飛ばして、それが群として機能して役割を果たすようにできないかといったことも考えています。

「飛ぶものをつくる」面白さを原動力に

――とても夢があってやりがいもありそうな研究だなあとお話を伺いながら感じましたが、改めて、先生はこの研究のどんなところに面白さや楽しさを感じられているか、教えてください。

そうですね、一番はやはり単純に、飛ぶものを作るのはすごく面白いです。思ったように飛ぶ場合も、飛ばない場合も、どちらも楽しさを感じながら研究に取り組んでいます。一度、東北大流体研の火星大気風洞を借りて、3分の1気圧下で飛行体を飛ばす実験を行ったことがあるのですが、最初は全然飛びませんでした。でもそれから、なぜ飛ばなかったのかを学生たちといろいろと議論して、改良して臨んだところ、今度はちゃんと飛んで、その時は思わず「おお!」って声が出てしまいました(笑)。やはり、重力に打ち勝つためにいろいろと考えて手を動かすのは本当に楽しく、うまくいったときの喜びは格別だなあとその時改めて感じました。

また、私はまだ創域理工学部に着任して間もないため、まだ他のどの先生とも“創域”的なことはできていませんが、本当にいろんな専門分野の先生がいらっしゃるので、これからいろいろなことを一緒にやっていけるのを楽しみにしています。航空宇宙工学は、まさに様々な学問分野が絡み合う“創域”そのものという分野なので、ぜひ自分から積極的に動いていろんな先生方とつながっていきたいです。

――最後に、研究を志す若い世代や高校生へ向けてメッセージをお願いします。

高校生などからよく、「いま勉強していることがどう役に立つのかわからない」といったことを聞かれます。そういう時に私はいつも、「いまはわからないかもしれないけれど、どの勉強もやっておいて損はないよ」と答えるのですが、いまになって改めて、どんな勉強も本当に、やっておいて損はない、ということをよく感じます。高校や大学で勉強していた物理学や数学は、いまの研究においてもあらゆるところで出てきますし、私の研究の場合、羽根の動かし方ということで生物もとても関係してきます。そのように、研究をするとなると自然に様々な分野が関わってくるので、若いうちに幅広い知識や考える力を身に付けておくことはいろんな形で後々になって生きてきます。そう思って、ぜひ積極的にいろいろな勉強をしておいてください。そしてもし私が作っているような飛行体に興味があれば、いずれ一緒に研究しましょう!

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