東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

理工学部 理工学研究科

2023年4月より「創域理工学部」へ名称変更

分野横断の協力で、1+1を2以上にする-先端化学科・寺島千晶教授に聞くー

「大切なのは、さまざまな分野の研究者と互いに足りない部分を補い合いながらともに研究を進めること」。そう話す寺島教授が考える「創域」とは――。

寺島千晶教授は、プラズマや無機化学の分野で長年研究を重ねてきました。それらの研究の蓄積をもとに、いま、複数の新しい技術の確立を目指しています。宇宙で、そしてアフリカで、人間の生活に貢献しうる技術です。「大切なのは、さまざまな分野の研究者と互いに足りない部分を補い合いながらともに研究を進めること」。そう話す寺島教授が考える「創域」とは――。

寺島千晶(てらしま ちあき) 東京理科大学理工学部物理学科卒業、東京大学工学系研究科先端学際工学専攻 博士課程修了。博士(工学)。名古屋大学大学院工学研究科 特任准教授、東京理科大学光触媒国際研究センター 教授などを経て、2021年より、東京理科大学理工学部先端化学科 教授。専門は、無機化学、無機工業材料(ダイヤモンド材料、プラズマ化学)。

プラズマと光触媒の技術で、人間生活への貢献を目指す

――ご研究の概要を教えてください。

寺島:私たちの研究室では現在、主に、プラズマと光触媒の2つに関する研究を行っています。プラズマとは、固体,液体,気体に続く第四の状態で、気体の分子が電離してイオンと電子に分かれ、自由に動き回っている状態を指します。高いエネルギー状態にあって、さまざまな反応を起こす力を持っているので、それを利用して新しい化学的変化を実現させたり、新しい材料を開発したり、ということを行っています。また、光触媒というのは、光を当てると触媒作用を示す物質のことで、こちらもいろいろな可能性を持っています。この2つを活かして、実生活に活用できる技術を生み出すべく研究を進めています。

――具体的には、どのような形でプラズマと光触媒を利用しているのでしょうか。まずはプラズマから教えてください。

寺島:私たちが研究しているのは、水の中でプラズマを発生させる「水中プラズマ法」という技術です。これを用いると、空気中の窒素と水から窒素肥料を作ることができます。じつはこれは、雷と同じことを人工的にやっているんです。雷は、落ちる時に、大気中の空気と雨の水分を分解して、窒素肥料を作っています。そのため、雷が落ちた場所には窒素肥料が降りつもり、野菜や稲が豊作になると言われます。雷が「稲妻」と呼ばれるゆえんです。この雷の性質を模して開発した水中プラズマ法で、私たちは液体の窒素肥料を作っていて、それを「プラズマ機能水」と呼んでいます。その特徴は、空気と水から肥料を作ったということだけではありません。水耕栽培において問題となる藻の発生を防ぐ効果があることもわかったのです。いまは、プラズマ機能水になぜ「防藻効果」があるのかの解明を進めつつ、実用化に向けた装置の開発などを行っています。

研究男性2名画像
機材を覗き込んでる研究者2名画像

――雷と同じ反応を人工的に、というのはすごいですね。また、防藻効果はどのように役立つのか、教えてください。

寺島:閉鎖された空間の中で野菜などを作る植物工場では、水耕栽培が利用されるため、藻の発生が常に問題になります。藻は農作物の生育に影響を与えるからです。その問題が、プラズマ機能水の防藻効果によって解決できるかもしれません。植物工場は、宇宙空間、あるいは南極や離島、災害地など、閉鎖的な空間や、物資を届けるのが簡単ではない場所での食料生産の手段としてその可能性が期待されています。プラズマ機能水がそこで重要な役割を果たせるのではないかと考えています。

――とても意義の大きな技術ですね。光触媒の方はいかがでしょうか。

寺島:光触媒には除菌や抗菌効果があります。コロナ禍もあって空気清浄機では広く使われるようになっていますが、私たちはこの光触媒を、海で漁師さんたちが使うような網、つまり、ネットにつけて使うことを考えています。そのネットを水に浮かべておくだけで、太陽の光で水がきれいになるという技術の確立を目指しています。この技術があれば、高価な設備やエネルギーなどがなくとも、水瓶の中の水を浄化し飲み水として利用できるようになります。きれいな水を得るのが簡単ではない途上国などでこの技術を広めたいと思っていて、その実現を目指して研究を進めています。

研究員男女の画像

複数の研究者が協力して、宇宙やアフリカの問題解決に取り組む

――プラズマと光触媒、両テーマとも、社会と密接にかかわる研究ですね。実用化へと至るためには、幅広い分野の知見が必要そうに感じます。他の先生や研究者と共同で進められている部分は大きいのでしょうか。

寺島:はい、とても大きいです。たとえば、プラズマ機能水で言えば、なぜ防藻効果が得られるのかという点は、工学的な知見だけでは見えてきません。そのため、生物を専門とする理工学部の先生に協力してもらって、一緒に知恵を出し合いながら解明を進めています。また現在、宇宙空間で農作物を作って自給自足することを目指す「スペースアグリ技術」に関する研究にも参加しています。この中で水中プラズマ技術と光触媒技術を生かすべく実験などを行っていますが、この研究も、複数の企業や大学がそれぞれの技術を持ちよることで初めて可能になっています。

――光触媒のネットの開発もやはり、共同研究という形なのでしょうか。

寺島:そうですね。ネットに光触媒を付加するというところがこの技術の肝なのですが、ネットは高分子化合物で、光触媒は酸化チタンという無機物です。私の専門は無機化学のため、この両者を一体化させるところは私一人の力では実現させることは困難でした。そこで、高分子などを扱う有機化学を専門とする先端化学科のもう一人の先生と一緒に進めることで問題をクリアすることができました。また、この研究は信州大学とも一緒に行っています。いまはアフリカのケニアとタンザニアでの実用化を目指して、互いに足りない部分を補い合っている感じですね。

実験中の手元画像

――個々の研究者が持っている技術を組み合わせると、社会を大きく動かせる可能性が生まれるのですね。他にも取り組まれている共同研究がありましたら教えてください。

寺島:もう一つ別の例としては、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで慶応大学と石炭フロンティア機構とともに行っている、カーボンリサイクルの研究があります。発電所などから排出される二酸化炭素を回収して、資源に戻せるようにしようという試みです。より詳しくいえば、広島県の島にある火力発電所を舞台に、煙突から出てくる二酸化炭素を、ダイヤモンド電極を使ってギ酸という物質に作りかえる技術を開発しています。二酸化炭素を大量に処理するには、大きなダイヤモンド電極が必要です。そのために、アルコールの中でプラズマを発生させ、アルコールを分解してダイヤモンドに変える技術を確立させることを、いま私たちは目指しています。大きな目的のために異分野の研究者が集まると、できることは本当に広がっていくと感じます。

「創域」によって、1+1が2を超える

――理工学部は、「創域」や「共響」という言葉を打ち出し、横断型コースなどの仕組みを取り入れることで、分野横断的な動きを後押ししようとしています。理工学部のそのような動きは、寺島先生の研究にも影響していますか。

寺島:私自身はもともと、学内外いろんな研究者と連携して仕事をしてきましたが、理工学部において「創域」や「共響」という言葉が出てきたことによって、共創する、連携する、ということをさらに意識するようになったと思います。以前は、連携といっても分野が近い人同士の場合が多かった。でもいまは、全く違う分野の人と積極的につながっていこうという発想が出てきたように思います。近い分野の人とは、いくら一緒にやったところで自分が持っているものに少し上乗せされるぐらいなのですが、全く違う分野の人同士で一緒にやると、1+1が2より全然大きくなったりするんです。「創域」的な効果と言えるかもしれませんね。

――学部が積極的にそのような姿勢を持つことは大切なのですね。

寺島:そう思います。また、野田キャンパスという空間も、理工学部の共創という面に寄与している部分が大きいと感じます。広くてのびのびとした雰囲気の中にいろんな学科の先生方や学生たちが集まっているこの環境は、ちょっとしたやりとりや相談がとてもしやすいんです。実際のデータや現場を見せたり、見せてもらったりといったことも比較的スムーズにでき、それが共創の発端になったりもしています。

――改めて、寺島先生が考える「創域」とはどういうものか、教えてください。

寺島:自分に足りないところは、できる人を見つけて補ってもらう。その意識を持って積極的に異分野の人とつながって、新しい世の中に役立つ技術を作っていくこと。それが私にとっての「創域」といえるかもしれません。来年度、理工学部が「創域理工学部」に変わることで、教員にも学生にもさらにそのような雰囲気が広がることを期待したいですね。加えて、私の気持ちとしては、創域という意識が、理工学部だけにとどまらず、他学部、さらには他大学や企業に対しても広がっていってほしいと思っています。

教授と研究員の方々の画像

――最後に、これから理工系の進路や研究者の道を考えている若い世代に一言メッセージをお願いします。

寺島:研究者になりたいという若者は、いま決して多くはありません。日本で研究者として生きていく環境は、いいとはとても言えないのでそれも仕方ないでしょう。なので、ぜひ研究者になってほしいとは簡単には言えませんが、私自身にとっては、大学で研究する日々は本当にワクワクするし、楽しいです。そのことはお伝えしておきたいと思います。いずれにしても、この大学は楽しいので、できれば修士課程までは進んで色々と体験してもらった上で、それぞれ自分が納得する道を歩んでいってほしいですね。

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