前澤 創准教授 MAEZAWA So
生殖細胞ができるメカニズムを明らかに
生殖細胞は、生命の連続性を担う大事な細胞です。精子や卵は、その元になる細胞(幹細胞)が変化して作られます。その過程では、数千もの遺伝子の発現が調整されています。私たちは、生殖細胞が作られていく過程の遺伝子発現を調整する仕組みについて、細胞核内の染色体構造変化「クロマチン構造変化」と、使う遺伝子と使わない遺伝子を決める機構の変化「エピゲノム変化」に注目して、その制御機構の解明を目指しています。
栄養環境の記憶が生殖細胞に刻まれ、次世代へ継承される仕組みとは
個体発生や細胞分化は、遺伝子発現の変化によってもたらされます。個々の細胞では、ゲノムDNAに刻まれた遺伝情報を必要に応じて取り出しています。エピゲノムは、遺伝子のOn/Offを制御するための目印で、DNAやヒストンに形成される化学修飾です。細胞の中では、DNAはヒストンというタンパク質に巻き付いたヌクレオソームを形成しています。そして、ヌクレオソームが集合した構造体をクロマチンといいます。エピゲノムによって、クロマチン構造が変化し、遺伝子のOn/Off、すなわち使われる遺伝子が決まります。私たちの体をつくる細胞は、基本的に体細胞と生殖細胞に分類されます。体細胞は、脳や内臓、筋肉や骨、皮膚といった体を構成する細胞のことで、一世代限りの分化を遂げます。一方、生殖細胞は、精子や卵に分化し、受精後に次世代の個体を作り出す能力を再獲得することができます。生殖細胞では、その分化過程を通して、全能性を再び獲得するための特殊なエピゲノムが形成され、それが生命の連続性に重要な役割を担っています。
生殖細胞の性分化、配偶子形成、受精を経て生殖サイクルがまわることにより、生命に連続性がうまれます。生殖サイクルに異常が生じることにより、不妊症が増加し、大きな社会問題になっています。ヒトだけでなく、畜産業界でも受胎率の低下が問題になっています。ヒトと動物に共通した社会問題である不妊症の要因には、環境などの外的要因や、遺伝などの内的要因が関係しており、不妊症の改善を目指した生殖細胞分化、受精、着床といった生殖サイクルの分子機構の解明が求められています。
栄養環境などの外部環境要因は、エピゲノムに揺らぎをもたらします。未解明な部分が多いこの学問領域において、どんな栄養成分が生殖細胞のエピゲノムに影響し、その情報が次世代へ継承されるのかを調べています。栄養成分が代謝経路に影響を与え、記憶として生殖細胞のエピゲノムに刻まれる仕組みを明らかにしたいと考えています。
細胞のあらゆる情報を網羅的に読み解き、生殖サイクルの解明を目指す
生殖細胞においてどのようにエピゲノムの変化が開始し、その後の様々な現象を引き起こすのか。私たちは現在、マウスやマーモセットなどの細胞を用いて、エピゲノムやクロマチン構造の変化をもたらす要因について精力的に研究を進めています。生殖サイクルには、生殖細胞へと細胞の運命を決定づけるために、一番乗りにやってきてエピゲノムの変化を導くカギとなる因子が存在するはずです。パイオニア因子と呼ばれるその因子を見つけ出し、エピゲノムを人為的に書き換えることで生殖細胞を創出する技術の開発に役立てます。
また、エピゲノム解析に加え、どのような遺伝子がいつどれくらい発現するのかを調べるトランスクリプトーム解析、どのようなタンパク質が発現しているのかを調べるプロテオーム解析、さらに代謝物を網羅的に調べるメタボローム解析などを組み合わせた多階層解析を進めています。細胞のあらゆる情報を網羅的に読み解き、生殖細胞形成に関わる分子の全貌とその関係性を明らかにすることで、生殖サイクルの解明を目指しています。今後は、遺伝子発現、エピゲノム、クロマチン構造、代謝物などのオミクスデータを活用して、生殖細胞が形成されていく数理モデルの構築に取り組みます。将来的には、栄養環境変化などの外的要因や遺伝的要因が生殖細胞形成へ与える影響を、in silicoで評価できるシステムを構築したいと考えています。将来、研究の成果が生殖医療分野や畜産分野へ役立つことを期待しています。
生命の連続性の謎を解く鍵を見つけよう!
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