
山本 隆彦准教授 YAMAMOTO Takahiko
安全安心なワイヤレス電力伝送システムを目指して
体内埋込み型人工心臓をはじめとするインプランタブルな医療機器を安全・安心に人々が使用するための研究を行っています。たとえば、機器が動作するためには駆動用電力が必要となりますが、直接ケーブルを用いて電力を供給すると感染症リスクに患者は曝されます。非侵襲的な電力伝送を実現することでこれらの問題は解決しますが、いくつかの課題が残ります。私たちは、生体内部へのワイヤレス電力伝送において生じる諸課題を克服するための研究を行っています。
電磁ファントムの開発とワイヤレス電力伝送システムの電磁両立性
体内埋込み型医療機器におけるワイヤレス電力伝送の安全安心な利用に関する課題の一つに、機器の性能を低下させることなく外部に放射する電磁波を低減し、さらに外部から侵入する電磁ノイズに対する耐性を確保することが挙げられます。これを電磁両立性と呼びます。これらの試験を実使用に近い状態で行うためには、機器を生体内に埋め込んで実験を行う必要があります。しかしながら、再現性やコスト、倫理的な問題から、動物を用いることなく実験を行うことが望ましいといえます。これには、電気的特性を人体と合致させた材料の中に機器を埋め込み、電磁両立性の試験を行うことが有力です。このため、様々な周波数帯域に対応した模擬生体(電磁ファントム)が必要となります。一方で、数百kHz以下に対応した電磁ファントムの作成はこれまで十分に行われていませんでした。私たちは、低周波数帯を対象とした電磁ファントムの研究開発を進めると同時に、これを使用したワイヤレス電力伝送システムの電磁両立性についても研究を進めています。
(写真は、人工心臓用経皮エネルギー伝送システムの体内部分を電磁ファントムの中に埋め込み、放射性の電磁ノイズを測定している様子を示しています。)

電磁波の生体作用を解明する
ワイヤレス電力伝送を人体近傍で使用する際には、その安全性を明らかにすることが不可欠です。近年では、電磁波が生体に与える影響について多くの人が関心を寄せており、世界中で電磁波による生体作用に関する調査が行われています。この分野においては、世界保健機関や国際非電離放射線防護委員会がその結果を継続的にまとめています。しかしながら、電磁波が生体に与える影響については未だに解明されていない点が多く存在します。
電磁誘導を用いたワイヤレス電力伝送は、数十kHz〜数百kHzの周波数帯を使用しており、これらの周波数帯は、電磁波の生体作用に関する基礎研究が不足しているとされています。私たちは、薬学部の研究者と共同して、データの蓄積が求められる生体の交流磁界ばく露に対する影響について調査を行っています。特に電磁波が生体に対してポジティブな作用を与える場合は医療への応用が期待でき、一方でネガティブな作用を与える場合は安全性担保のためのガイドラインの作成が必要です。これらの研究は、電磁波に関する不安を不必要に煽ることを抑止するだけでなく、電磁波の安全な利用に貢献するものと考えています。
(写真は、学内に設置された電磁波を外部に漏えいさせないシールドルーム内において、実験用小動物を用いた磁界影響調査を行っている際の様子です。これには、学内倫理審査委員会の承認を受けて実施しています)

異分野との融合研究と醍醐味
電気電子情報工学科と聞いてみなさんは何を思い浮かべるでしょうか。電磁波やワイヤレス電力伝送を思い浮かべる人はいるかもしれませんが、医療や生体を思い浮かべる人はおそらく少ないと思います。現代の研究は、一人の単独研究者がおこなうには限界があるものが多い一方で、複数の研究者・学生が集い、英知を結集することではじめて実現できるものが多くなっています。異分野融合においては、はじめは他者とコミュニケーションをとることすら難しいかもしれません。このような中で、異分野の研究者・学生に認められるためには、まずは自身の専門をしっかり持ち、そして互いにリスペクトの気持ちを持つことが大切です。電気電子情報工学は、どの分野においても不可欠な工学技術を扱う学問体系であり、融合研究の宝庫です。創域の理念のもとで異分野の研究者と融合してみませんか。