
図形の本質を捉え、その性質をより深く理解するために―数理科学科 馬場蔵人准教授に聞く―
平面や球面、ドーナツの表面など、曲面にはさまざまな種類があります。これらの違いや本質的な性質を明らかにし、図形を深く理解する学問が幾何学です。馬場蔵人准教授は、その中でも曲面の性質を解析する「微分幾何学」を研究しています。
平面や球面、ドーナツの表面など、曲面にはさまざまな種類があります。これらの違いや本質的な性質を明らかにし、図形を深く理解する学問が幾何学です。馬場蔵人准教授は、その中でも曲面の性質を解析する「微分幾何学」を研究しています。

平面、球面、ドーナツの表面……。曲面には様々な種類がありますが、それらにはどのような違いがあり、それらを隔てる本質的な違いはどのように表せるのか。曲面のみならず様々な図形について、そうしたことを探求し、図形を深く理解しようとするのが、幾何学です。馬場蔵人准教授はその中でも、「微分幾何学」を専門として研究されています。幾何学を研究するとはどういうことか、そして馬場准教授が今取り組んでいる、「極小曲面」とは何か。難解と思われる研究の基本的なところを、そして数学研究者が異分野の研究者と交わる意味などについても、平易な言葉で語ってくださいました。
馬場 蔵人(ばば くらんど)2004年 東京理科大学理学部数学科卒業、2009年 同大学大学院理学研究科数学専攻博士課程修了。博士(理学)。福島工業高等専門学校一般教科准教授などを経て、2016年に東京理科大学理工学部数学科講師。2022年4月に現職へ。
図形の本質を探り、その性質を調べる「幾何学」とは

私が研究しているのは、数学の微分幾何学という分野です。数学は大きく、代数学、幾何学、解析学に分かれるのですが、幾何学の一分野として微分幾何学があります。幾何とは図形のことですが、大学に入ると図形をより抽象化・一般化した「多様体」という言葉が使われるようになります。つまり、幾何を研究するとは、簡単に言えば、多様体を研究することです。私は微分幾何学なので、特に「微分できる多様体について研究している」ということになります。
細かい定義などは置いておいて、簡単に、幾何学とは何をする学問かをお話しすると、幾何学とは、「図形がどう曲がっているか」と「図形のつながり具合がどうなっているか」の2点を調べる学問ということができます。
まず一つ目の「図形がどう曲がっているか」について説明します。例として2次元の曲面を考えると、平面と球面とでは「曲がり」が違っていて、その曲がりは「曲率」というものであらわされます。曲率の代表的なものが「ガウス曲率(K)」で、例えば、平面の場合はK=0、球面の場合はK>0(半径1の時、K=1)になります。また馬の鞍のような形をした曲面ではK<0です。そのように、図形の曲がりは、ガウス曲率によって数学的に表すことができます。そしてここで重要な点は、ガウス曲率は、曲面の見た目の形が変わっても変化しないということです。つまり、平面は、丸めて円筒にしてもK=0のままです。一方、球面を切って広げても絶対に平面にすることはできませんが、それは、「両者はガウス曲率が異なり、同じものにはなり得ないから」という言い方もできます。すなわち、「どう曲がっているか」はその図形の本質的な性質の一つであり、それを表す指標としてガウス曲率があるということです。

次に「図形のつながり具合」について。例えば、ドーナツ型の立体の表面のことをトーラスと言いますが、トーラスはどう変形しても球面になることはありません。それは、トーラスには穴があいていて、球面にはあいていないからなのですが、そのことを、両者の「つながり具合が異なる」と言います。一方、持ち手のあるコップ(コーヒーカップ等)は、変形してトーラスにすることができます。これはともに穴が1つあるからです。つまりつながり具合が同じなのです。このように、図形のつながり具合とは、簡単に言えば、図形が持つ穴の数として捉えることができ、これもまた図形の本質的な性質の一つです。

幾何学とは、この「曲がり」と「つながり具合」という、図形の2つの本質的な要素を調べて図形の性質を良く知ろうとする学問だとひとまず言えます。ただし、ここまで話したのは2次元の曲面による例で、実際にはこの曲がりとつながり具合に相当するものを、3次元、4次元など、より高次元の世界でも考えることになります。その時、図形が抽象化され、「多様体」という概念を用いることになります。また、曲がりとつながり具合を結びつける重要な定理があり、それが「ガウス=ボンネの定理」です。この定理は、一つの図形上のガウス曲率を積分する(=ガウス曲率は点ごとに計算でき、それらをすべて足し合わせること)と、穴の数に深く関係する指標が求められる、というものです。この定理もまた、幾何学において重要な役割を果たします。
この辺りが、幾何学を学ぶ際の最も基本的な部分でもあり、こういった考え方をベースに、いろいろな図形の性質だったり関係性だったりを考えるのが幾何学、と思っていただけたらと思います。

とてもざっくり言えば、私は、ある種の曲面の形について研究しています。簡単な例として、石けんの膜を作る実験を思い浮かべてみてください。まず、バケツを用意して洗剤を溶かして石けん液を作ります。そこに針金で作った枠を入れ、引き上げる。すると、枠の中に石けんの膜が張りますが、膜はなぜその形になるのでしょうか。物理学的には、表面張力が最小になる形になると説明でき、それは同時に、膜の面積が最小になる形でもあります。ではそれを数学的に表現するとどうなるでしょうか。

先ほど、ガウス曲率(K)についてお話ししましたが、ここでもう一つの曲率である「平均曲率(H)」を考えます。ガウス曲率は、平面ならK=0、半径1の球面ならK=1というように、その図形自体が持っている性質だと言いましたが、それはつまり、外部の条件では変化しないということです(=内在的な曲がり)。一方、平均曲率は、外から見た時にその図形がどう曲がっているかに関係し、外部の条件によって変わります(=外在的な曲がり)。石けんの膜で言えば、膜の形は重力や大気圧といった外の影響を受けるので、その意味で、平均曲率が関係していることも直感と合致すると思います。そして膜は、理想的な状況では平均曲率H=0となる形になることがわかっています。つまりH=0は、曲面の面積が最小となる状態を数学的に表したものであり、微分幾何学の世界では、H=0の曲面を「極小曲面」と呼びます。……と、ここまで説明するとようやく私の研究にたどり着くのですが、私は、どうすれば極小曲面を作れるか、その方法を探る研究をしています。

といっても、イメージするのはなかなか難しいかもしれませんが、いろいろな形に変形する曲面を想像してみてください。極小曲面は、その曲面の面積が最小になった時の状態です。そのため、面積を減らす方向に曲面を変形する方法があれば、極小曲面を作ることができると考えられます。そこで私は今、「平均曲率流」という、面積を最も効率よく減少させるような曲面の動きを記述する方程式(2階の偏微分方程式)を利用して、その方法を考えています。今はまずシンプルな曲面(=対称性が高いなど)について、それをどうやって平均曲率流で変形していくかを考えています。それができたらより複雑な曲面に挑戦して、理論を拡張していく、というように研究を進めていくつもりです。
現在は、この極小曲面に関する研究が私のメインテーマとなっていますが、そのほかにも、対称空間の幾何学、キャリブレート幾何学、といった領域の研究も行っています。どちらも微分幾何学の中の話で、極小曲面の研究とも少なからず絡んでいます。いずれにしても、このように数学の中にある何らかの問題に着目し、それを解くべく試行錯誤し、新しい定理などを見つけられないか考えているというのが私の研究と言えるかと思います。

この研究が進めばこんなことに応用できる、といったことをあらかじめ考えて研究しているわけではありませんが、微分幾何学は物理学とも深く関係していて、例えばアインシュタインの一般相対性理論には微分幾何学が不可欠です。そのため自分の研究が、結果として物理学などにおいて有用な研究手段を提供するという可能性はあり、それは微分幾何学を研究する意義の一つだと言えるかもしれません。ただ自分としては、この分野における未解決問題として知られている極小曲面の問題を自分の手で解決へと導きたい、という純粋な数学への探求心が強いです。また、私が研究している分野は、幾何学だけでなく、代数学や解析学とも関係が深く、いろんな数学が絡んできます。その意味でも、純粋に研究すること自体が面白く、やはりその気持ちが研究の原動力になっているように思います。

私は学生時代からずっと数学科で純粋数学を学び、研究してきたのですが、最近は様々な分野の先生の話を聞いて、数学という学問が決して数学者だけのものではなく、いろんな人が様々な研究に使っているものなんだなということを改めて実感するようになっています。特に私はいま、本学の総合研究院の「幾何学と自然科学融合研究部門」に所属しており、まさに幾何学と様々な自然科学分野の融合のような話を聞く機会が多くあり、よくそう感じます。物理学であれ工学であれ、数学以外の分野の研究者の数学に対する考え方はやはり自分とは異なる場合が多く、それが私にとっては刺激的で、最近はすごく影響を受けています。数学をどうやって活かしていくか、という視点を持つことで、数学をより多面的に見ることができるようになった気がします。そういう意味で、“創域”というマインドを持ち、異分野の研究者と積極的につながっていくことの大切さを日々感じています。
一方、私自身は、創域理工学部の先生たちと何か研究でコラボレーションを、ということは、研究内容的にもなかなか難しく、実現できていないのですが、この学部にいる学生たちはきっと、横断型コースやダブルラボなど、様々な形で自分の専門分野以外の教員や学生と接していることと思います。それはおそらくいろんな形で彼らの将来に活かされていくことだろうと思っています。

わからなかったことがわかるようになっていくということが、やはり数学を研究する上での一番の楽しさ、面白さだと感じます。私は以前、対称空間の理論において、この分野の一番の功労者である数学者カルタンが発見した「双対性」というものを一般化するという研究を、共同研究者とともに行いました。この成果は、自分としては比較的インパクトの大きなもので、新しい発見ができたという喜びがあったと同時に、他の人にも評価していただけて、少しは人類のために役に立てたかな(笑)、と感じることができたのもうれしかったですね。こういうような経験をこれからも積み重ねていけたら、と思います。
今の時代、早くから「目標を持て」と言われることが多いのではないかと思いますが、私は、そんなに若いうちから目標を持とうとしなくてもいいのでは、とよく感じます。自ら「こういうことをやってみたい」と思えるようになるにはやはり時間が必要ですし、逆に目標をあまり早くから絞り込まずにいろんなことを勉強することも大切なように思います。そして大学に入ってから、自分が本当にやりたいことは何かをじっくり考えるのもよいのではないかと。私自身、本気で数学を研究したいと思うようになったのは大学に入ってからです。入学してから、数学好きな友人たちと数学について語るようになり、ある友人が幾何学について熱く語っているのを聞いて、幾何学への興味が強まりました。いまの私はその延長線上にいるという感じです。数学を学んだ人のニーズは現在とても大きいですし、私の研究室の学生も様々な進路を選んでいます。また、創域理工学部では、数学と他の分野を一緒に学んだりもできるので、ぜひいろんな学生さんに来てもらえたらうれしいです!
