電極で起きる反応を調べ様々な技術を作りだす―先端化学科 板垣昌幸教授に聞く―
板垣教授が専門とする電気分析化学は、電極で起きる反応について考える学問です。電極の反応について知るとはどういうことか。それはどんな形で私たちの生活とかかわっているのか。この分野の発展に多大な貢献を果たしてきた板垣教授に聞きました。
2024年10月、執行部の学部長と副学部長のメンバーが変わりました。今回は新たら執行部の3人の先生に、創域理工学部のこの1年半を振り返ってもらうとともに、その未来について語ってもらいました。
2023年4月に「理工学部」が「創域理工学部」へと生まれ変わってから一年半が過ぎました。その間に、教員、学生、学科の連携によってさまざまな”創域”的な試みが進んできたことを、この創域Journalでも紹介してきました。それらの試みをさらに深めていく段階へと入りつつある今年10月、執行部のメンバーが変わりました。学部長に、経営システム工学科の堂脇清志教授が、副学部長に、情報計算科学科の宮本暢子教授と社会基盤工学科の加藤佳孝教授が、それぞれ新たに就任します。今回はこの3人の先生に、創域理工学部のこの1年半を振り返ってもらうとともに、その未来について語ってもらいました。それぞれのキャラクターが前面に出る”本音”トークが展開しました。
堂脇 清志(どうわき きよし) 早稲田大学理工学部資源工学科卒業、東京大学工学系研究科地球システム工学専攻博士課程修了。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構職員、地球環境産業技術研究機構主任研究員、米国ハワイ大学客員研究員などを経て、2012年より本学理工学部経営工学科教授。2023年に学部改称によって現職へ。
加藤 佳孝(かとう よしたか) 東京大学工学部土木工学科卒業、同大学院工学系研究科社会基盤工学専攻修士課程中退。博士(工学)論文。建設省土木研究所 研究員、東京大学生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター 准教授などを経て、2011年に東京理科大学理工学部土木工学科 准教授。2016年より同教授。2023年に学部改称によって現職へ。
宮本 暢子(みやもと のぶこ) 大阪女子大学学芸学部応用数学科卒業、筑波大学大学院社会工学研究科経営工学専攻博士課程修了。博士(経営工学) 。1999年から東京理科大学理工学部情報科学科助手。同学科にて助教、講師、准教授を経て、2019年より同教授。2023年に学部改称によって現職へ。
堂脇:最初のころは「何をやる学部かわからない」といった声もいただきましたが、一年半にわたって創域的な実践を進めてきた中で、いまでは、自治体や企業などの学外の方からも高く評価していただく学部になってきました。
環境問題やSDGsに代表されるように、現在、いろんな分野の専門家が連携して新しい技術やソリューションを開発することがとても求められています。そのような中、創域というコンセプトを明確に意識し、実践していることが評価されているのだと感じます。特にいま、人口減少が急激に進みながらも、各大学で新学部ができています。それは、専門分野の細分化が進んでいることの表れでもあり、各種問題の解決のためには、分野を越えて共響(きょうめい)、連携していこうという創域の考え方の重要性がかつてなく高まっていると言えます。そのような時代に私たちは、国内のみならず世界における連携のハブとなることを目指して、これからさらに創域の取り組みを深化させていきたいと思っています。
加藤:私が所属する社会基盤工学科は、学問的には土木という分野になりますが、専門の基礎的な内容をフルセットで教えることをカリキュラムの核としています。そのため学生は、土木分野を学ぶことに集中している印象でしたが、2017年に「横断型コース」とともに「6年一貫教育コース」もでき、自分の専門以外にも他の学科の授業を受けたり、他の学科の学生たちと一緒に学んだりする機会が増えたことで、学生たちの視野が広がったように感じています。そうした土壌が固められてきた中で、1年半前に創域理工学部となり、その流れを加速させていく段階に入ったと思います。10月からは自分もその執行部の一員となったわけですが、その流れを学内だけでなく地域や企業といった学外へも広げ、普及させていくことが、これから大切になると考えています。
宮本:まだこの役職に就いたばかりで、自分が何をしていけるかを模索している段階ですが、両先生が話されたように、分野を越えた教員と学生のつながり、そして、研究と社会のつながりをさらに広げていけるように、自分なりに役割を果たしたいと思っています。新しい仕掛けなどを生み出せるかはわかりませんが、まずは、現在1年生全員に受けてもらっている「創域特別講義」をより充実させ、学生や先生方がともに共創を進められる環境づくりに貢献できたらと思っています。
堂脇:創域理工学部を立ち上げるにあたって、創域のコンセプトを実現するための仕組みをどう作り、どう持続させていくか、ということを特によく考えました。その一つの形が、創域理工学部の誕生に併せて開設した「サステイナブルアーバンシティセンター(以下、CSUC=シーサック)」です。これは、創域のコンセプトを基盤として地域貢献や社会貢献を実践するための組織で、本学部の学生や教員が参加する形で様々な活動を行ってきました。例えば、地域の方たちとの交流会や起業家セミナーのようなイベントがあり、こうした場が多数できてきたことが、大学内外にこれまでにない人のつながりを生んだ要因の一つだと思っています。
一方、私はこの活動を始めてから知ったのですが、本学の学生たちは、すでに周辺の自治体の方々と様々な交流を持っていました。例えば、「坊ちゃんLab.」というサークルが小中高生向けに教育活動イベントを以前から行っていたり、また、野田キャンパスの近くを流れる利根運河のイベントにも学生がかなり貢献していたり、ということがあります。そして地域の人たちに聞くと、学生の評判はとてもよかった。「皆さんよく考えているし、『一緒にやりたいんです』って言ってくれた」といった声を聞いています。そのような土壌がすでにあったから、CSUCの“連携する“活動は非常にやりやすかった。教員たちもやはり、積極的に頑張っている学生たちを応援したいと思うので、それぞれ自分の専門を生かしながら何かできないかと考える。そうやって学生と教員が互いを巻き込み合いながら一緒に何かやっていくという、よい機運が生まれてきているのを感じます。
ちなみにそうした活動をしている学生には、創域理工学部の学生が多かったのですが、その理由はおそらく、本学部の学生は、横断型コースが始まったころから、いろんな人と交流して一緒にやっていこうという意識を持つようになってきたからなのではないかと思っています。CSUCでいまどんどん新しい企画が立ち上がっているのも、そうした基盤があってこそだと感じます。
宮本:創域理工学部になってからというより、それ以前、横断型コースができてからですが、各種発表会やコース修了審査会、普段のミーティングなどで、他学科の先生方と顔を合わせる機会は明らかに増えました。その結果、教員同士のつながりが強まり、これまでになかった交流を生み出しているというのはとても感じています。
加藤:学部に設置されている「将来構想検討委員会」を拡張したものとして、月に一回、意見交換会という夜の部の集まり、つまり飲み会(笑)があります。誰でも参加できる場で、よい交流の機会になっています。横断型コースの発表会など真面目な創域の場だけでなく、このようなフランクな交流の場も用意されているので、教員たちが自然に交流を深められているというのは感じますね。
堂脇:この講義については、まだ発展途上かなあと思っています。講義を通じて学生たちが実際に創域的な意識を高めているのかは、まだ何とも言えません。研究活動を始めていない段階の1年生には、創域と言われてもまだピンと来ないということもあるのかもしれません。もっと目に見える形で、創域的な学びを実践するメリットを伝えていかないといけないのかもしれませんし、ここはもう少しじっくり見ていきたいですね。
加藤:この授業を受けたからと言って、一学年千数百人の全員が創域のマインドになるなんてことはそもそもありえないですよね。ただ、その中の10%でも創域の面白さを感じてくれたら、それでも100人を超えますし、その人たちが各学科に創域のマインドを広めてくれたら、その力はすごいはずです。即効性は期待せずにこの授業を継続し、5年、10年経ってみたら何となく全体の雰囲気が創域的になってきた、というのが理想のように思います。
堂脇:一方で、創域の面白さに目覚めている学生も確実に出てきています。これはいま創域理工学研究科の大学院で電気に関する研究をしている学生の例ですが、彼は、自身の横断的な研究が楽しくて、しかも自分の研究で起業できる可能性が出てきたこともあって、決まりかけていた就職をやめて、博士課程に進学しました。彼の場合、横断的な学びを続けるうちに、この先生の知識を借りたら自分の研究がどう発展しそうかといったことが想像できるようになっていったようでした。そうした中で、先端化学科の井手本康先生が会長である電気化学会の「事業創出ピッチコンテスト」に事業化の計画を出してみないかと言われ、実際に所属している横断型コースの先生にもご支援を頂き、応募してみると賞が取れた。それがきっかけで彼は起業する方向に舵を切り、本学のスタートアップエコシステム“TUSIDE”(トゥーサイド)の支援を受けることも視野に入れ事業化を進めていくことになったんです。
堂脇:そうなんです。まだ数は多くないですが、目覚める学生は彼以外にもいます。そうした学生には、様々な場で発表してもらったり、共同研究に積極的にかかわってもらったりと、いろんな機会を提供できます。私たちとしても学生が目覚めるのを見るのは嬉しく、そういう学生を増やしていくためにできることをやっていくのが自分たちの一番の役目とも言えるかもしれません。
堂脇:確かに、研究における異分野交流は、どこでもやっています。ただ、それが研究者単位でばらばらに行われるのではなく、大学として方向性を明確に打ち出しているところはそう多くはないと思います。例えば先ほど言ったCSUCは、地域、企業、海外、といった学外の人たちと、どういうチームを組んでどのように取り組みを進めていくか、といったことを考えるファシリテーターの役割を果たします。しかもそれが、著名な先生の個の力に頼るような形にならないよう、幹部は全員若手にして、将来を見据えて人材を育てていくことを意識しています。そういう仕組みを整えてきた中で、企業の方などから「一緒にやりましょう」と声をかけていただく機会も増えました。単体の研究だけではない、広いつながりができつつあって、それが創域理工学部ならではの価値になっていると考えています。
加藤:堂脇先生のお話にもう一点加えると、本学部には、創域特別講義のような、異分野の学生や先生が自然に融合できる環境があることがとても大きいと思います。というのは、そのような環境では、特定の研究を目的に異分野の人間が集まるのではなくて、目的なしで異分野の人が集まった結果、新たな研究が生み出されるという可能性があるからです。それは、目的があって集まった人たちから生まれる研究とは本質的に異なる研究を生み、これまでになかった人材を生み出す可能性があると思うんですね。しかも本学部は、10学科・11専攻という巨大なマスを持っていて、掛け合わせの分野数も人数も多い。今後、多様な人材がたくさん育っていくのではないかなと楽しみにしています。
――来年の春からは3年目に入ります。新しい執行部として、これから実現していきたいことを教えてください。
堂脇:ここまでの1年半の課題としてはまず、創域理工学部としてやろうとしていることが学生にも教員にもおそらく十分に伝わってないという点があります。そこで、10月からの執行部には、若手の先生方に多く入っていただくようにしました。若手の先生たちに、運営に直接関わってもらいながら学部のビジョンを知ってもらい、その経験をもとに、学生や教員たちに、自らの言葉でビジョンを伝えていってもらえたらと思っています。
そしてもう一つは、外の仲間をさらに増やしていくことです。先ほど、地域の人たちとの融合が進んできたと言いましたが、いまはまだ近隣の地域に限られています。それをさらに広げていきたい。例えば、本学部の関係先として、奈良県や佐賀県の都市とも連携協定などを通じ、そういった地域の人たちともつながり、地域へ貢献するとともに、学生たちに新たな機会を提供していくことを目指したいです。
あとは、いま以上に広く創域理工学部について知ってもらうことですね。高校生や学校の先生、保護者の方たち、そして企業の人や地域の人にも、もっと知ってもらいたい。知ればきっと、入りたい、一緒にやりたい、と思ってもらえる要素がたくさんある学部だと確信しているので、知ってもらうためにもっといろんな工夫をしていかないとと思っています。
宮本:私自身は、副学部長として、いま進みつつある動きをより大きなウェーブにするために力を尽くすことが役割だと思っています。そのために自分にどういうことができるのかはまだ模索中ですが、先ほど加藤先生がおっしゃったような、目的があって集まるのではなく、集まった結果新しいものが生まれるような場を、学生たちにもっと提供していけるような仕組み作りの部分などで、ぜひ貢献していきたいです。
加藤:これまでの話の流れと少し違うことを言わせてもらうと、私は、創域の取り組みを推進していく大切さを感じる一方で、全教員が揃って創域的な活動をする必要性はないとも思っています。研究者はその時々の状況によって、いまは自分の専門分野をより深く掘り下げたい、という時期も当然あります。学部のマインドとしては創域の促進を目指しつつも、個々の教員のスタンスは尊重し、いまは創域のタイミングじゃないという人たちも一緒に入ってやっていける雰囲気作りも大切だと思います。なんといっても、堂脇先生は走りまくる学部長なので(笑)、そういう点のケアを僕が副学部長としてできればと思っています。
堂脇:そうですね。創域がうまくいくために一番重要なのは、何と言っても、それぞれの教員や学生が、自分の専門分野の基礎をしっかりさせておくことだと思っています。僕は立場的にも、先頭に立って走りまくっていくつもりですが(笑)、学生たちにはいつも言います。上っ面な理解だけで新しいことをやろうとしても絶対にうまくいかない。新しいことにトライする中で、本当に問われるのは基礎の力なんだと。その意味でも、創域を進めていくためには、加藤先生のようなスタンスの方が一緒にやって下さることには大きな意味があると感じています。いい形で役割分担をしながら、この学部をみなで発展させていきたいですね。
堂脇:ありがとうございます。なんだか僕ばかりが話し過ぎてしまったかもしれませんが(笑)。
宮本:それで全然よいと思います(笑)。
加藤:うん、堂脇先生の”独演会”的なくらいでちょうどよいかと(笑)。執行部の意向というのは、やはり学部長の明確な意向があってこそです。堂脇先生の強いリーダーシップがまず必要で、それを宮本先生と私、そして他の先生方がサポートしていくような形がきっと一番いいように思います。
堂脇:ありがとうございます(笑)。いい関係の執行部になっていきそうで嬉しいです。新体制となった創域理工学部を、どうぞよろしくお願いします!