東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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粉末状の導電性ダイヤモンドで社会課題を解決に導く―先端化学科 近藤剛史教授に聞く―

地球上で最も硬く化学的にも安定したダイヤモンドにホウ素を加えた導電性ダイヤモンドは「BDD(Boron-Doped Diamond)」と呼ばれ、電気化学分野で広く使われています。近藤剛史教授は、これを粉末化したBDDパウダー(BDDP)を開発し、バイオ系センサーや水浄化、燃料電池など多様なデバイス・材料への応用を進めています。

ダイヤモンドは、地球上で最も硬い物質であるだけでなく、化学的にとても安定していて耐久性が高いなど、様々な優れた特性を持っています。そのダイヤモンドにホウ素を加えて電気を通すようにした導電性ダイヤモンドは、「BDD(Boron-Doped Diamond)」と呼ばれ、電気化学の分野で広く利用されています。近藤剛史教授は、その用途をさらに広げるべく、BDDを粉末化したBDDパウダー(BDDP)を作り、様々な新しいデバイスや材料の開発を進めています。バイオ系センサーの高感度化や水浄化システムへの活用、燃料電池の高耐久化など、多様な場面でダイヤモンドの優れた特性が活かされるようになりそうです。

近藤 剛史(こんどう たけし)1999年 東京大学工学部応用化学科 卒業。2004年 同大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程 修了。博士(工学)。東京理科大学工学部 助手、同助教、Drexel University Visiting Research Professorなどを経て、2019年 東京理科大学理工学部 准教授。2023年、学部改称により同大学創域理工学部 准教授、2024年4月より現職。

粉末状の導電性ダイヤモンド「BDDP」とは何か

――近藤先生の研究の概要を教えてください。

私の専門は電気化学です。電気化学は、化学反応によって電気を生み出す「電池」や、逆に電気を利用して化学反応を起こす「電気分解」を柱として、それらの過程で生じる様々な現象を扱う分野です。私は、その電気化学に応用できるダイヤモンド材料の研究開発を行っています。

ダイヤモンドは、本来は電気を通さない絶縁体ですが、結晶を構成する炭素の一部をホウ素に置き換える「ドーピング」という方法によって電気を通すようになります。この導電性ダイヤモンドはBDD(Boron-Doped Diamond)と呼ばれ、シリコンなどの基板の上に薄膜としてBDDを成膜させ、電極(=電気化学反応が起こる場所)の材料として利用するといったことが広く行われています。というのも、ダイヤモンドには様々な優れた特性があるからです。地球上で最も硬い物質として知られるほか、化学的にとても安定しているため、高電圧でも分解・腐食しにくいなど耐久性が高く、毒性がなく生体への影響も少ない。また、目的とする反応の進行と競争する水の電気分解が起こりにくいこと、さらには炭素という比較的ありふれた元素からできていることも強みです。 これらの特性から、電極材料として利用すると多くの利点があります。

そうした中で私たちは、BDDを電極としてより広く使えるようにするために、粉末状にしたBDDパウダー(BDDP)を開発し、新しい材料やデバイスに応用するという研究に取り組んでいます。BDDをパウダー状にするという研究例は少ないので、私たち独自の材料やデバイスを開発することを目指しています。

――ダイヤモンドを粉末状にするとどんな利点があるのですか。

電気化学においてダイヤモンドが薄膜として利用されるのは、電気化学の反応が基本的には電極の表面で起きているからです。つまり、電極全体をダイヤモンドにしなくても、基板表面に薄膜のダイヤモンドを成膜させれば、ダイヤモンドの利点が発揮されるということです。しかしながら薄膜の場合、平らな板の上に成膜した形でしか使うことができません。そこで私たちは、粉末状のBDDPを開発し、それを樹脂バインダー(=接着成分)と混ぜることでBDDのインクを作り、いろいろな形状の基板に塗って使えるようにしました。また、粉末として使うと薄膜よりも表面積が増えて反応が進みやすいため、それも利点になります。

高感度のセンサーや水再生システム、そして燃料電池の開発にも

――BDDPを使って具体的にどんな材料やデバイスを作っているのですか。

私たちはBDDPの活用方法を複数検討しています。まず一つが、電気化学センサーへの活用です。この場合、電気化学センサーの電極表面にBDDPを塗工・印刷するのですが、粉末は薄膜よりも表面積が大きくなるため、反応できる場所が増えて感度を高くすることができます。血中グルコース濃度や尿中の薬剤など、生体関連の物質を測るバイオ系のセンサーは安くて高感度のものが求められているので、そうした分野で有用だろうと考えています。

また、底部にフィルターを設けたシリンダーのようなものにBDDPの粉末をいっぱいに詰めた、水の浄化や再生のためのデバイスも開発しています。このシリンダー内のBDDP充填層に電圧をかけて水を通すと、水が電気分解されてOHラジカルが生じ、それが水中の有機物を分解して水をきれいにしてくれます。その際、BDDが電気分解の場となるのですが、パウダー状のBDDPは、粒子と粒子の間に隙間があるため、ちょうど多孔質の電極のように機能して、OHラジカルを多く発生させることができます。その結果、高い浄化作用を発揮するのです。宇宙で尿から飲料水を作るためのシステムや、近年問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)を水の中から除去する浄化システムへの利用を視野に開発を進めています。

――粉末状にすることで、表面積が増えたり隙間ができたりして反応性が高まり、より高性能なデバイスを作ることができるのですね。

そういうことになります。一方、私たちは、BDDPよりも格段に粒子が小さい粉末基材を用いた、BDND(Boron-Doped Nano Diamond)も作っていて、現在、これを利用して燃料電池の性能を上げる研究にも取り組んでいます。BDDPの基材粒子が数百ナノメートル~数十マイクロメートル程度なのに対してBDNDの基材粒子は4~5ナノメートル程度です。

固体高分子形燃料電池は、正極(カソード)で酸素が還元されて水ができる反応(O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ → 2H₂O)が生じますが、この反応が十分に進むようにするためには、高性能の触媒が必要です。その触媒としては一般的に白金(Pt)が使われ、その際に、白金を保持する土台(担体)としてカーボンブラック(炭素の微粒子)を使いますが、このカーボン担体が徐々に劣化してしまうために触媒の機能が低下します。そのため、より耐久性のある担体が求められているのですが、そこにBDNDを活用できると考えています。ダイヤモンドは非常に耐久性が高いからです。BDNDで白金を保持する担体(Pt担持BDND)を作るためには、まず、BDND自体を作り、さらに複数の工程が必要になります。乗り越えるべき課題はまだありますが、研究はよい方向に進んでいます。

――ところで、BDDPはどうやって作るのですか。その方法にはやはり独自の技術や工夫があるのでしょうか。

基本的には、市販されている工業用ダイヤモンドの粉末を用い、CVD(化学気相成長法)装置を使って、粒子の表面に導電性ダイヤモンドを成長させるという方法で作っていきます。元々は薄膜のBDDを作るためにCVD装置を導入したのですが、粉末でもできるかなと思って条件を調整してやってみたらできたという感じでした。失敗すると装置の内部を粉末で汚してしまうので、できるかわからないまま企業さんに依頼してやってもらうのは難しかったでしょうが、そこは自分たちの手持ちの装置だったので思い切ってやってみることができました。うまくいかなかったら自分たちで解体して掃除すればいい、という考えで試すことができたので。今では手順や条件がはっきりわかったので、私たちの研究室では学生誰でも作れるような形になっています。

――研究の難しさはどのようなところにありますか。

ダイヤモンドの優れた性質が十分に発揮されるようにするための方法や条件を見つけることがやはり難しいです。どんな材料と組み合わせたらいいのか。BDDのインクを塗布する際はどれくらいの量を塗るのがいいのか。そういった点を、手を変え品を変えやっていき、用途ごとに最適な方法、条件を探っていくのですが、それが容易ではありません。また、実用化へと導くためには、BDDPやBDNDを低コストで量産する方法も見つけなければなりません。今後はそのための取り組みも必要で、まだやるべきことはいろいろとありますが、実用化されればとても有用な技術だと思っているので、ぜひその段階に到達できるよう、ますます頑張っていきたいです。

「横断型コース」は学生・教員双方にとっての“創域”の場

――近藤先生の研究は、ダイヤモンドの新しい活用法をいろいろと作り出しているという点で、他の分野の研究者との関わりも多いのではないかと思います。そういったことを踏まえて、“創域”についてのお考えを聞かせてください。

私たちは、基本的にはダイヤモンドという素材の性能をいかに上げられるかという研究に注力していますが、社会実装するためには、それをいかにデバイス化、システム化するか、というところが問われます。そしてそこは自分たちだけではできないので、その際に“創域”という意識を持つことが私たちにとっては重要になってきます。一方、そのような具体的な目的がない場合にも、ただ分野が違う研究者の方たちと交流を持つことで、自然と新しいアイディアが生まれ、新しいコラボレーションが誕生する、というような“創域”もあり、それも重要だと考えています。

創域理工学研究科には、異なる専攻の教員、学生が一緒に研究を行う「横断型コース」という仕組みがあります。私はその中の「エネルギー・環境コース」に所属しているのですが、ここで他の分野の先生や学生と交流できることが私にとってとても貴重な機会となっています。例えば先のPFAS除去の話で言えば、現在は、PFASを吸着して燃やすという処理がされていますが、この方法では二酸化炭素が排出されます。そのため、なるべく二酸化炭素を出さないシステムが求められていて、その候補の1つとして先にお話しした電気分解の方法を考えているのですが、しかし、もし電気分解する方がかえってエネルギーコストが高くなってしまうということであれば、意味がありません。そこで、コスト計算のようなことを以前、経営システム工学科の先生に相談し、フィードバックをいただいて、全体的なシステムについても考えを深めることができました。そういったつながりも横断型コースから生まれています。

――「横断型コース」は、学生の学びの場であるとともに教員同士の交流にとっても重要な場になっているのですね。

まさにそのように思います。基本的には修士の学生が一緒に共同研究のアイデアを出し合ったりする場としてあるのですが、教員同士が近づく場にもなっていますし、また私自身は他専攻の学生と話をすることでアイディアが浮かんだりということもよくあります。こういう場があることは、創域理工学部・創域理工学研究科の強みだろうと感じます。

ダイヤモンドで社会課題を解決する

――今の研究の面白さはどんなところに感じますか。

ダイヤモンドを使った研究をしている人は多くないので、おそらくオリジナリティの高い研究ができていて、その点でやりがいや面白さを感じています。ダイヤモンドという材料は本当に素晴らしく、うまくアレンジできれば他の材料よりもいい結果が得られることが多々あります。その性質を引き出して社会課題の解決へつなげるために、手探りで研究を行ってきましたが、苦労しながらも少しずつ道を切り開いていくことには何とも言えない楽しさがありますね。

――研究の今後の展望を教えてください。

社会のエネルギーコストを下げることや、環境を保全すること、水を浄化すること、など、現代の社会には喫緊の課題がたくさんあります。少しでもそうしたことに自分たちの研究で貢献できたらと思っています。これからはますます、ダイヤモンドと他の材料をどう組み合わせて有用なデバイスを作っていくか、というところに注力していくつもりです。

そうした思いで取り組んでいる研究をもう一つ紹介すると、軽くて強い材料として知られるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)のリサイクルの研究があります。これは、旭化成さんとの共同研究で、廃棄されたCFRPの樹脂部分だけを溶かして炭素繊維を回収するという技術を確立することを目指しています。濃硫酸を電気分解して強力な酸化剤を作り、そこにCFRPを浸けて樹脂だけを溶かすのですが、その際にBDD電極が力を発揮します。通常の電極だと強力な酸化剤によって電極自体が腐食してしまうのですが、ダイヤモンドであればその心配がないのです。そのように、ダイヤモンドだからこそできることがいろいろとあるので、そうした技術を少しでも多く社会に提供できるよう、これからも力を尽くしていきたいです。

――最後に、創域理工学部を目指す高校生や、研究に興味のある若い世代へのメッセージをお願いします。

創域理工学部では、最初はそれぞれの専門分野の基礎を学び、学年が進むごとにだんだんと専門性が深まっていくのですが、同時に“創域”的な部分がどんどん広がっていくのが特徴で、それがこの学部の大きな魅力だと思っています。つまり、しっかりと基礎を学び、専門性を高めながらも、学年が上がっていくにつれて他の専門分野に触れる機会も増えていきます。また、我々の先端化学科は特にそうですが、先の例のように企業との共同研究も数多くやっています。そのため、修士までの6年間を創域理工学部で学ぶと、専門を深く身に付けられるとともに広い視野を得ることができます。興味ある人にはぜひがんばって入学してもらって、一緒に研究に取り組んでいきましょう!

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