
骨がどう形作られるかを、数理モデルと観察の両面から解き明かす―生命生物科学科 坂下美咲嘱託特別講師に聞く―
魚の骨は力に応じて形成されるのか――。坂下美咲嘱託特別講師は、工学理論を応用したシミュレーションと細胞レベルの観察を通して、魚の椎骨がウォルフの法則に基づいて形成される仕組みを解明しています。さらに、その研究を生物進化や古生物の運動様式の理解へとつなげようとしています。
魚の骨は力に応じて形成されるのか――。坂下美咲嘱託特別講師は、工学理論を応用したシミュレーションと細胞レベルの観察を通して、魚の椎骨がウォルフの法則に基づいて形成される仕組みを解明しています。さらに、その研究を生物進化や古生物の運動様式の理解へとつなげようとしています。

骨はどのようなメカニズムで形づくられるのか。その問いに対し、「骨は力に応じて作られる」というウォルフの法則が知られていますが、魚の骨についてもそうであるかはこれまで確かめられてはいませんでした。そこで坂下美咲嘱託特別講師は、工学の理論を応用した方法で数理モデルを作成し、魚の椎骨がウォルフの法則に従って形成される過程をシミュレーションで再現。と同時に、魚の椎骨が実際にウォルフの法則に基づいて作られていることを観察によって細胞レベルでも検証しました。そのように、シミュレーションと観察・実験の両方によって、坂下嘱託特別講師は、骨が形成されるメカニズムを明らかにしようとしています。いずれは、生物の進化や古生物の運動様式の解明へとつなげていくことを目指しています。
坂下 美咲(さかした みさき)2016年 大阪大学理学部生物科学科卒業。2021年大阪大学生命機能研究科生命機能専攻博士課程修了。博士(理学)。同年4月より東京理科大学理工学部応用生物科学科 助教。2026年4月より現職。

私の専門は、生物の外見的な特徴などについて研究する「形態学」と呼ばれる分野で、私は特に、生物の骨がどのように形作られていくのかということを調べています。骨は、加わる力に応じて作られることが知られていて、それは、19世紀にドイツのウォルフという解剖学者が最初に提唱した説のため「ウォルフの法則」と呼ばれています。つまり、力が加わった時には骨が発達し、力が加わらない骨は逆になくなっていくということです。
このウォルフの法則は、例えば宇宙飛行士が宇宙滞在によって骨密度が下がり、帰還後に再度重力に晒されると骨が作られるということが観察されているように、これまでの様々な研究によって観察レベルでは正しいと認められています。ただ、様々な生物種の骨について実際にこの法則が成り立っているかが確認されているわけではありません。そうした中で、私は、この法則が魚の骨についても成り立っているのかを確かめるために、ウォルフの法則をベースとする数理モデルを作り、シミュレーションによって魚の骨が作られていく様子を再現するという研究を行ってきました。研究の対象としたのは魚の背骨を形成する「椎骨」という部分で、それが形成される様子を数理モデルで再現することが数年前にできるようになりました。つまり、魚の椎骨がウォルフの法則に従って形成されているということの一つの裏付けを、シミュレーションによって示せたということです。その研究を発展させ、今は哺乳類についても同じようなアプローチで数理モデルを作って再現できないか、という研究を進めているところです。


骨の形成には、骨芽細胞と破骨細胞という2つの細胞が関わっていることがわかっています。骨芽細胞は、骨に力が加わると活性化して骨を作り、逆に、骨に力が加わらなくなると破骨細胞が活性化して骨が分解されるということが、これもまた宇宙飛行士に対する実験などによって細胞レベルでも観察されています。つまり、力がかかる部位の骨は、力に抵抗できるように骨が強化され、力がかからない部位の骨、つまり使われていない骨は破壊することによって、骨を新しく生まれ変わらせる仕組みが生物に備わっているということです。

第一の理由は、魚類の方が、陸生の哺乳類などに比べて骨が受ける力が単純で、数理モデルを作るのが簡単だと考えられるからです。というのは、魚類は水のなかにいるため陸生生物に比べて重力の影響が小さく、そのため、魚の骨が受ける力は、主に泳ぐ時に発生する力だと仮定してモデルを作ることができます。つまり、魚類の方が、モデル化が容易なのです。それゆえにまずは魚類をやってみて、うまくいったら、重力を含めてより複雑な力を考慮しなければならない陸生の哺乳類のシミュレーションへと進んでいこうと考えました。
また、陸生の哺乳類の椎骨は、種が違っても外見の構造が似通っている場合が多くあります。それに対して魚の椎骨は、見た目の形が種ごとにかなり異なり、違いが一目瞭然です。そのため、シミュレーションの結果が実際の骨の形に合致するかを確かめるのには、魚の骨が適しているということもありました。ちなみに、なぜ魚の骨は種ごとに大きく異なるかと言えば、陸で生きる生物は、種の特性とは関係のない重力の影響を強く受けて骨の形が決まるのに対して、魚は重力の影響が比較的小さいので、泳ぎ方や生態という、種ごとに固有の特性に応じて骨の形が決まってくるからではないかと考えられています。

ベースとなる考え方はもちろんウォルフの法則なのですが、モデルで実際に使っているのは、「トポロジー最適化」と呼ばれる、工学における設計理論です。これは、橋などの構造物や車の部品、人工骨など、様々な分野の設計で使われているもので、簡単に言えば、どういう形にするのが最適なのかを導いてくれる理論です。例えば、トポロジー最適化を用いて「軽くて丈夫な部品」を作るとすると、力がかかる部分は材料を多くして強化して、力がかからない部分は材料を削って軽くする、というように形状が作られ、材料や力の条件に応じて最適な形が出力されます。この理論をもとにしてウォルフの法則に従うモデルを作ることができ、実際にそのようにして骨の形を再現したという研究論文がいくつか出ています。そのため、私もこの方法で魚の椎骨のモデルを作ることにしました。するとうまくいったのです。

はい、私はシミュレーションと観察の両方の研究を行っています。というのも、私の魚の椎骨のシミュレーションは、骨芽細胞と破骨細胞が働いて骨が作られるということを仮定してモデルを作っているのですが、実際に魚の椎骨が骨芽細胞と破骨細胞によって形成されていることを実証するような研究はこれまであまりありませんでした。つまり本当にそうなのかは確認されていないということになるので、それを確かめる必要がありました。そこで私は、クロマグロという種の椎骨が成長する過程を、マイクロCTという骨の内部構造を見るための装置と、骨芽細胞と破骨細胞を標識する組織染色法を用いて観察し、実際に骨芽細胞と破骨細胞が働いて骨が形成されていることを確かめました。この研究によってはじめて、シミュレーションで採用した仮定が正しいことが示されたことになるので、こちらもどうしてもやらなければならない研究でした。

それは特にないつもりです。学部時代まで遡ると、私は元々数理や理論について考えるのが好きで卒業研究はシミュレーションをやったのですが、修士課程と博士課程では、シミュレーションと実験のどっちもやる研究室に所属していて、当時から両方を行っていました。シミュレーションだけでは、仮定している理論が本当に正しいかがわからないし、実験結果だけがあっても、背景にどういう理論があるのかがわかりません。そのため両方できるようになりたいと思い、学生時代からそのようにやってきました。それゆえに自分としてはどちらがメインということはなく、これからも反復横跳びをするように、両者を交互に行き来しながら、両方の研究を進めていきたいと思っています。
私自身の理学的な興味としては、どのようにして骨の形がこんなに多様化していったのかを理解したいという気持ちがあります。陸上の生物と魚とでなぜこんなに骨の形が違うのかも気になりますし、その中間に位置する両生類や爬虫類の骨についても知りたいです。そのような研究を積み重ねて、骨の形が多様化していく進化の過程を明らかにできたらと考えています。
またもう一つ、これは、すでに共同研究として着手している研究ですが、これまでやってきたことの逆のことができるようになりたいと思っています。どういうことかと言えば、これまで行ってきたシミュレーションは、入力として「力」を入れて、出力として「形」を得るというものでした。しかし今後モデルが洗練されて予測精度が上がっていけば、逆に「形」を入力として入れたら、出力として「どのような力が加わっていたか」を予測することができるのではないかと考えています。それが可能になれば、例えば骨しか残ってない恐竜についても、その恐竜がどんな動き方をしていたかを予測できるようになる可能性があります。現在は、その基礎となる研究を進めています。まずはトポロジー最適化で、いろんな力を加えていろんな形を作る。それを教師データとして機械学習させて、「形」を入力として入れた時に「どんな力がかかっているか」を出力する機械学習モデルを作ることを試みています。
確かに自分の研究は一般の人にも比較的イメージしやすいので、面白がってもらえることは多いように感じます。私はこの方法によって、多様な生物の中にある、共通する原理を見つけられたらと思っています。これからも粘り強く取り組んでいきたいです。

そうですね、まさに自分の研究は、理学と工学をまたぐ学際的な面があるので、工学応用のようなことができないかというのは常々考えています。例えば、これはまだ夢物語のような話ですけど、何かしらの構造物を作る時に、“骨芽細胞ロボット”と“破骨細胞ロボット”のようなものがあって、現場の環境に応じて最適な構造物を作り出すようなシステムが作れたらうれしいなみたいなことは思っていますが、なかなか具体的には動けていません。
一方、創域理工学部では、一昨年度と昨年度、「創域の芽プロジェクト」の企画を自分が代表となって立ち上げました。構造力学の先生と応用数理の先生と3人で、いろんな先生をお呼びして講演してもらうということを行ったのですが、異分野の先生同士がつながる機会を作ることができ、また自分自身もいろんな先生と話したりすることができて、とてもいい機会になりました。創域理工学部は、こういうプロジェクトを実施する仕組みがあるという点でも、また、他の分野の人と何か一緒にやりたいと考えている先生が多いという点でも、学際的なことをやりたい研究者にとってはとてもいい環境だなあと感じています。

自分は大学で生物学を専攻したのですが、高校では物理・化学の選択で、生物は学んでいませんでした。でも、生物学の先生の面白い講演を聞いたのをきっかけに「生物、面白そうだな」と思って大学では生物をやることにしました。そのため私は、生物の知識で抜けている部分もありそうなのですが、その一方で、高校で物理をやっていたからこそ、シミュレーションの研究を抵抗なくできたように思っています。その経験から私は、あまり早いうちから「自分はこの分野に進むから他の科目はもうやらない」みたいには思わずに、学べるものは何でも学んだ方がいいと思っています。それがあとからどんな風に役に立つかはわからないので。ぜひいろんなことを学び、柔軟な気持ちで、進路を考えていってもらえたらと思います。がんばってください!