東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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More is different 〜未知の超伝導現象に挑む―先端物理学科 矢口宏教授に聞く―

特定の物質を超低温に冷やすと電気抵抗がゼロになる「超伝導」は、リニアモーターカーや医療用MRIで知られる一方、その発現メカニズムには今なお多くの謎が残されています。物性物理を専門とする矢口宏教授は、従来の理論では説明しきれないルテニウム酸化物超伝導体や鉄系超伝導体に注目し、その解明に取り組んでいます。

特定の物質を超低温に冷やすと電気抵抗がゼロになり、磁場を物質内部から排除するというマイスナー効果と呼ばれる現象を示します。それが「超伝導」です。リニアモーターカーや医療用MRIなどへの応用でその名は広く知られるものの、それが起きるメカニズムには今なお多くの謎が残されています。物性物理(固体物理)を専門とする矢口宏教授は、ルテニウム酸化物超伝導体や鉄系超伝導体という、従来の理論では説明しきれない超伝導現象に注目し、研究に取り組んできました。超伝導とは何か。また、その研究はどのような歴史をたどって現状に至るのか。“More is different(多は異なり)”という言葉に象徴される物性物理の奥深さを含めて、矢口教授に聞きました。

矢口 宏(やぐち ひろし)1991年 東京大学理学部物理学科卒業。1996年 同大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。Clarendon Laboratory, University of Oxford (U.K.) 博士研究員、東京大学物性研究所 博士研究員、京都大学大学院理学研究科 物理学第一教室 助手を経て、2007年 東京理科大学理工学部物理学科 准教授。2011年 同教授。学部改称により、2023年4月より現職。

超伝導とは何か

――矢口教授の研究の概要を教えてください。

私が専門としているのは物性物理あるいは固体物理という分野です。その名の通り、固体の物質が持つ様々な性質について研究しています。固体とは基本的に、原子が互いに強く結合して周期的に並んだ状態になっているもので、その中で電子がどのような挙動を示すかによって、電気的、磁気的、光学的など様々な性質が決まってきます。例えば、電子が自由に動けると金属になり、電子が動けないと絶縁体になる、という具合です。また一方、電子が自由に動ける金属でも、温度を低くすると電子の挙動が変わり、その結果、電気抵抗がゼロになり磁場を外に追い出したりすることがあります。それが「超伝導」と呼ばれる現象で、私は、この超伝導が生じる物質(=超伝導体)について主に研究しています。超伝導体には、様々な物質がありますが、私は特に、ルテニウム酸化物超伝導体と鉄系超伝導体の研究に取り組んできました。ではなぜそれらの物質について研究するか。その点を理解してもらうため、先に少し超伝導研究の歴史についてお話します。

超伝導という現象が初めて発見されたのは、今から110年以上遡る1911年のことです。当時、金属を冷やしていったら最終的に電気抵抗はどうなるかということに多くの研究者が関心を持っていたのですが、そうした中、オンネスが、水銀を絶対温度(単位は、K(ケルビン))で約4.2 K(= 約マイナス269 ℃)という低温まで冷やしたところで突如として電気抵抗がゼロになる現象を発見しました。それが初めて観測された超伝導現象です。以来、水銀以外にも多くの物質が超伝導体であることが発見され、その後1950年代には、「BCS (Bardeen-Cooper-Schrieffer)理論」によって、超伝導が生じるメカニズムの基本的な解明がなされました。そして1970年代になると、超伝導は研究されつくしてもうあまりやることは残ってないとも考えられるような雰囲気があったようですが、1986年に大事件が起きます。それまでの超伝導の常識を破るような30 Kという高温で、銅酸化物(La₂₋ₓBaₓCuO₄)が超伝導を示すことを、ベドノルツとミュラーが発見したことで、超伝導の研究は爆発的に盛んになりました。これが、いわゆる高温超伝導フィーバーです。それまで、超伝導が起きる「臨界温度(Tc)」は、先の水銀のように数K程度や、高くても20 Kくらいでした。Tcが高ければ、応用の可能性もぐっと広がりうることもあって、その後、このような「高温超伝導」の研究が活発になり、その2年後には90 K程度の臨界温度を示す物質も発見されます。さらには、従来とは異なるタイプの超伝導現象(=非従来型超伝導)であるという点も注目され、BCS理論だけでは超伝導のメカニズムが説明できなくなってきました。また、質的に新しい超伝導現象も観測され、今もなお、盛んに超伝導研究が行われているというわけです。

超伝導になる単体⾦属を⽰す周期表。(超伝導の発⾒の年代で⾊分けしてある)
図 は 、「科学フォーラム」( 2023 年 10 ⽉ 号通巻 437 号 30-35 )より。
(“SUPERCONDUCTIVITY: A Very Short Introduction” Stephen Blundell( 2009, Oxford
University Press)などを参考に作成)

――先生が研究されているルテニウム酸化物超伝導体と鉄系超伝導体も、超伝導の謎に迫れる超伝導体ということでしょうか。

はい、両方とも広く研究されている超伝導体です。それぞれに未解明の部分があり、また新たな現象も観測され、このような研究を深めることで、メカニズムを含め新しい超伝導の物理に迫れるだろうと考えられています。

――ちなみに、BCS理論によって説明される超伝導のメカニズムとは簡単に言えばどういうことになるのですか。

超伝導のメカニズムをきちんと理解しようとすれば、熱力学や電磁気学に加えて量子力学や統計力学の知識が必要になります。簡単に伝えるとすれば、次のように説明できるでしょう。常温のような高温では自由にバラバラに動いている電子が、超低温では「クーパー対」と呼ばれるペアを作ります。BCS理論において、クーパー対は結晶格子を構成している原子の振動を媒介として形成されます。その大量のペア全体が一つの波のようにそろって動くことで電気抵抗がゼロになります。また、磁場中に置いたとき、超伝導体の表面では磁場を打ち消す電流が抵抗ゼロで自然に流れ、磁場が中に入り込めなくなります。これが、BCS理論が説明する超伝導のメカニズムの概要です。しかし、ルテニウム酸化物超伝導体や鉄系超伝導体の超伝導は、BCS理論の枠内だけでは説明できず、そのメカニズムを解明するためにいまも研究が進められているということです。

ルテニウム酸化物超伝導体と鉄系超伝導体の謎の解明に挑む

――ルテニウム酸化物超伝導体については、どのような研究をされているのですか。

先ほど言ったように、銅酸化物の高温超伝導の発見が超伝導の研究に与えたインパクトは大きく、類似の結晶構造を持つ超伝導体の探索が精力的に行われました。そういった中で、銅を含まない超伝導体として、1994年に、ルテニウム酸化物Sr₂RuO₄が超伝導を示すことを前野らが発見しました。この物質は、最初の銅酸化物高温超伝導体のLa₂₋ₓBaₓCuO₄と同じ結晶構造を持つものの、臨界温度Tcが1 K程度と低かったこともあって、当初は、銅酸化物高温超伝導体の参照物質的な位置づけという捉えられ方が強かったようです。ところが、この超伝導が、従来のものとはかなり性質を異にするものだったことが判明するにつれて注目を集め、世界中で様々な研究が広く進められてきました。ちなみに、私は京大での前職の時代に前野グループのメンバーとして、共に研究する機会に恵まれました。そういったつながりもあり、私もこのルテニウム酸化物の研究を東京理科大でも継続して行うようになりました。具体的には、一方向だけから圧力(=軸性圧力)を加えたり、元素置換を行ったりすることで臨界温度TCなどの性質がどのように変わるか、といったことを研究してきました。これまでに広く行われてきた研究によって、多くの重要な結果が蓄積されてきています。この物質については、超伝導の発見から30年以上が経ちますが、いまだにその本質の理解について未解決部分を残しています。

ルテニウム酸化物超伝導体Sr₂RuO₄(左)と鉄カルコゲナイド FeTe(右)の結晶構造。FeTe
の Te(テルル)の⼀部を S(硫⻩)で置き換えたFeTe₁₋ₓSₓは超伝導体。(図は、⽮⼝研ホ
ームページより。(VESTA [Momma and Izumi, 2011] で作成))

――絶対零度に近いような超低温の状態で、圧力を加えたりしてその挙動を観察するという、実験そのものがとても大変そうですね。一方の鉄系超伝導体の研究についても教えてください。

ルテニウム酸化物超伝導体 Sr₂RuO₄の単結晶

鉄系超伝導体は、2006年に細野らが発見したLaFePOが始まりですが、Tcが4 K程度だったこともあり、必ずしも大きな注目を受けなかったという印象があります。しかしながら、先に、超伝導の性質の一つとして「磁場を外に追い出す」ということを挙げたように、磁性と超伝導は競合するので、磁性の象徴的元素でもある鉄を含む物質が超伝導体となることは、衝撃的な発見でした。その後、細野らが2年後の2008年に報告した鉄系超伝導体LaFeAsO₁₋ₓFₓでは、Tcが26 K程度を示し、これを契機に鉄系超伝導ブームが起きます。その後、いろいろな鉄系超伝導体が発見されていきました。私たちの研究室では、鉄セレン(FeSe)という、2種類の元素だけで構成される鉄系超伝導体や、鉄テルル(FeTe)の、テルルの一部を硫黄で置き換えた鉄系超伝導体(FeTe₁₋ₓSₓ)について研究してきました。こちらについても、軸性圧力を用いた実験や超音波を用いた測定、結晶中における超伝導体の割合を高める超伝導体のバルク化と呼ばれるような方法を発展させるなど、地道に研究に取り組んでいる状況です。

自身の研究を深めていくことが結果として応用につながれば

――超伝導と聞くと、リニアモーターカーや医療用MRIのような応用が思い浮かびますが、矢口先生の研究も何か工学的な応用のようなイメージがその先にあるのですか。

私自身は、正直なところ応用についてはあまり具体的には考えていません。もともと理学部出身ということもあってか、超伝導という現象自体に興味があって、その多彩な超伝導現象の理解やメカニズムの解明に寄与したいという気持ちがまずあります。ただ、超伝導のメカニズムが解明されたら、様々な形で新しい技術の開発が進んでいくことが期待されます。その意味で、私たちの研究も応用への道と確実につながっているとも言えますので、それぞれが最も興味のあることをやっていけばいいのではないかと私自身は思っています。ちなみに、リニアモーターカーや医療用MRIに使われる「超伝導磁石」は、超伝導線で巻かれたコイルを利用した電磁石です。主に使われる線材はニオブチタン(Nb-Ti)合金です。超伝導体には様々な物質があり、それぞれに特性も違います。今後、思わぬ応用の可能性のある超伝導体も新たに見つかるかもしれません。

――矢口先生は、理工学部時代から長くこの学部にいらっしゃいますが、創域理工学部に変わってからの変化、または現在の雰囲気についてどのように感じていますか。

そうですね、先ほども言ったように私自身は、応用を考えるよりも一つの現象を深く追求したいと思う方なので、正直なところ、あまり積極的に“創域”的な取り組みを行っている方ではないと思います。でも、創域理工学部になる前の2017年から、異なる学科どうしが一緒に研究などをする「横断型コース」という取り組みが始まっていて、それは、“創域”を象徴する取り組みであると考えています。今後、物理を中心とした横断型コースも作っていくのがよいだろうと思います。そのためにも、まずは自分の専門をしっかり深めることが重要だと私は考えています。

More is different(多は異なり)”

――今の研究の面白さはどんなところにありますか。

物理というと、多くの人がイメージするのは宇宙や素粒子といった領域なのではないでしょうか。実際、学科の新入生が入学直後に興味を持っているのは、そのような分野に集中している傾向にあるように感じます。一方、それに対して物性物理や固体物理というのは、ともすれば地味なイメージを持たれがちなように思います。しかし、アンダーソン(1977年ノーベル物理学賞)が“More is different(多は異なり)”という言葉で、物性物理の面白さや重要性を表現したことはよく知られています。それは、物質の構成粒子がたくさん集まったときに思わぬ振る舞いを示すということ。つまり、個々の粒子を究極的に突き詰めていって深く理解することができたとしても、その粒子がたくさん集まって集団となったときにどんな振る舞いをするかはわからない、ということです。固体中の電子の振る舞いが変化することによって生じる超伝導は、まさにその典型的な例といえる現象であり、そこには何か予測のつかない独特の面白さがあります。私たちが生きている世界の多くの現象は、無数の粒子が集まった結果として起きているものです。そういう意味で物性物理は、非常に面白く、研究し甲斐のある分野だと感じています。

――最後に高校生や研究に興味のある若い世代の人たちへのメッセージをお願いします。

これは研究とは直接関係ありませんが、若い人たちにいま伝えたいと思うことは、なるべく若い時代のうちに自分の能力を目いっぱい試すようなチャレンジや努力をしてほしい、ということです。この年齢になってみて、若い時代というのは思っていたよりもずっと短いものであるとつくづく感じます。ですから、ぜひ今のうちに、全力で何かに打ち込んで、自分の能力を引き出す努力をする経験をしてほしいと思います。自分がそうはできなかったという反省を込めて、強くそう思います。その一方で、年を取ってからでもできることはたくさんある、と言い聞かせながら最近は生きていますが…。みなさんにとって、打ち込みたいと思えるものが研究であり、さらに物性物理や超伝導の世界に興味があれば、ぜひ一緒にこの世界を切り開いていきましょう。

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