東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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分野を越えて知恵を出し合い、火災被害ゼロの社会を目指す-国際火災科学専攻・松山賢教授に聞くー

火災安全工学を専門とする松山賢教授が、火災被害ゼロの社会を目指し、分野を越えいろいろな領域の専門家とともに考えていくことが大切であることを語って下さいました。

火災安全工学を専門とする松山賢教授は、火災をよりよく理解し、防災・減災につなげるために、研究を重ねてきました。火災がどのような現象を引き起こすかは、社会環境の変化や技術の発展に伴って変化します。そのため、常に新たな研究が必要であり、また、分野を越えていろいろな領域の専門家とともに考えていくことが大切になる。松山教授は、そのような観点から、「創域」という意識の高まりに期待します。火災被害ゼロの社会を目指して――。

松山賢(まつやま けん) 東京理科大学理工学部建築学科卒業、同大学理工学研究科建築学専攻 修士課程修了。博士(工学)。専門は火災安全工学。東京理科大学理工学部建築学科助手、同大学大学院国際火災科学研究科准教授、教授を経て、2018年度より現職、2021年度より総合研究院火災科学研究所 所長(併任)。

誰もわからない火災現象を実験によって明らかにする

――松山先生の研究の概要を教えてください。

私が所属する国際火災科学専攻は、その名の通り、火災に関する研究をする人たちの集団です。その中で私は、火災が引き起こすさまざまな現象について研究しています。火災を考える上でまず大切なのは、火災は燃焼とは違うという点です。燃焼は、ガスコンロやガスバーナーなど、コントロールされている状態を指すのに対して、火災は、同じ燃焼を伴う現象でも、コントロールできなくなり消火活動が必要な状態を指します。その火災について、実験的にアプローチして、そこで起きるいろんな現象を解明していくというのが私の専門分野です。特に、物に火がつく現象から火炎が拡がっていく挙動、さらに火災によって発生する煙の流動などを対象としてさまざまな実験を行い、そのメカニズムを解明するべく研究を進めています。

松山教授

――火災が起きて火炎や煙がどう広がるかについて、いまでもわかってないことは多くあるのでしょうか。

火災は、「乱流拡散火炎」と呼ばれる燃焼状態を扱っています。すなわち、非常に大きな規模の火炎であり、またそれは大きな揺らぎを伴っていることから、乱れも大きく、予測が非常に難しくなります。そのような状態に関しては、実大スケールで実験をしないと、なかなか本質的な現象には出会えません。しかしそのような実験はそれほど多く行われているわけではありません。また、実際の火災は、空間の中で発生することが一般的ですが、天井や壁がある状態と屋外では燃える様相はかなり違います。現在でも、実際の空間の中でそれが起こった場合にどのような現象が起きるかについては、わかっていないことが多くあります。

たとえば最近、ガソリンを使って多くの死者を出した放火事件が複数起きています。ガソリンは非常に燃えやすい液体だといわれていますが、さらに閉鎖的な空間の中でガソリンに火をつけた場合、どれぐらいの煙量が発生し、どれぐらいの濃度の一酸化炭素が空間に充満するかということは、実際の実験データは少ないため、本当のところは良くわかっていません。そういった状況において何が起きるかを理解するためには、実験をして現象を解明しておく必要があります。

実験室で火災実験をしている様子
実験後の様子

時代によって火災もその対策のあり方も変化する

――なるほど、これまでにないような規模や方法による火災が起きたときに、何が起きるかは、なかなかわからないものなのですね。時代によって建物が変化する影響もあるのでしょうか。

建物の構造や、使われてる材料が変わってきていることも大きいと思います。5年、10年というスパンで見ると大きな違いがあり、また室内に置かれている物の材料にも変化があり、現在の建物で火災が発生したときにどういう現象が起きるのかはその都度実験してみないとわからない。最近ですと、省エネやエコという社会変化の中で、建物が高気密・高断熱という傾向が強まっています。それは、環境に対してはいい方向に働きますが、火災に対してはネガティブな方向に働くことが多くあります。断熱効果を高めることは、火災時において室内の温度が上がりやすくなります。つまり、空間内の局所的であった火災が、短時間のうちに「フラッシュオーバー」と呼ばれる空間内で爆発的に延焼する現象を引き起こりやすくなるとも言われています。また、高気密な空間では、酸素の供給が少なくなるために、一酸化炭素を多く発生する傾向になりやすく、一酸化炭素による中毒が増える可能性も指摘されています。そのような現代ならではの問題も解明していく必要があります。

――火災科学研究所は、世界トップレベルの規模の実験施設を持っていると聞いています。そのような大きな施設を持つことの意味がわかりました。

本学では2005年に火災実験専用の実験棟ができて、非常に大きな空間での火災実験ができるようになりました。この施設で実大スケールに近い実験を行えるようになったことで解明できたことも多くあります。さらに、防災・減災という意味では、現象の解明に加えて、火災にはどのようなリスクがあるかを広く知ってもらうことも大切です。そのために、このような実験施設で実験を行い、起こり得る現象を映像で収め、教材のように使ってもらえるようになったのも、大きな意味を持っていると思います。

研究室の様子

火災時の排煙をより効率的に行うための新たなアイディア

――火災現象を研究する中で、松山先生が最近特に注力されているテーマがあれば教えてください。

いろいろなテーマを並行して研究していますが、いま特に集中的に取り組んでいるのは、建物の中で火災が起こったときの排煙の方法についての研究です。火災が起きたときに煙がどう移動するかは、建物の規模や構造によって変わってきます。火災が発生した階で煙は水平方向に流れますが、エレベーターシャフト(エレベーターが移動する竪穴空間)や階段室に入り上の方向に流れる場合もあります。排煙の方法にはさまざまなものがありますが、その建物の特徴を生かした効率の良い排煙システムがあることが望ましいと言えます。そのような新しいシステムについて研究しています。

――具体的にはどのようなシステムを考えられているのですか。

いまは特に、超高層建築物の排煙システムについて考えています。高層の建物では、火災時の避難経路を確保するために、竪穴空間には煙を入れないというのが設計の基本です。つまり、階段室やエレベーターシャフトには煙が入らないようになっています。階段室は、火災時に在館者が上から下へと移動してくる通路になるので、安全な空間にしておかなければいけません。当然そこに煙を入れてはいけません。実際、高層ビルの階段などでは、その手前に「付室」というバッファとなる空間があり、煙が階段室に入るのを防いでいます。

しかし、エレベーターシャフトは事情が異なります。火災の避難時にはエレベーターは使わないのが現在の原則なので、ここに煙を入れないようにする必要はじつはないのではないかと考えています。むしろここに積極的に煙を入れ、煙突効果を使って、竪穴の上の方から煙を出してしまう方が安全な場合もあるのではないか。そのような考えの元で、私は、エレベーターシャフトを積極的に使った排煙システムが作れないかと思っていて、現在、模型スケールでの実験を行ったりしています。さらに、煙の粒子は非常に小さいですが、この粒子の中にはさまざまな特性を持っているので、この特性を利用して煙粒子を誘導できないか模索しているところです。こうした新しい技術を既存の技術と組み合わせることでより効率的な排煙方法の開発を進めています。

検査機材を操作している男性

分野を越えた融合によって、火災被害ゼロを目指す

――「創域」という話に移らせていただきますが、先生はご研究される中で、創域という言葉をどのようにイメージされていますか。

国際火災科学専攻は、学部を持たない大学院だけの組織となります。その点では学内でも珍しい組織なのですが、それは火災という研究分野が、あらゆる学問領域と関連する分野であるということと強く関係しています。つまり、いろんな分野が融合してこそ、火災の研究という分野は成り立つのです。そのため、物理、化学、数学、建築、機械、電気、など、いろんなバックグラウンドを持ちながら火災を研究するということがありえます。私は、創域とは、分野融合して新たなものを作っていこうということだと理解しているので、この言葉はまさに我々にぴったりだと思っています。

――実際にどのようなバックグラウンドの学生がいるのですか。

理工学研究科に加入したのが2018年のことですが、それ以来、理工学部のあらゆる学科の学生に我々の存在を認識してもらえるようになったと感じています。いま、理工学部には10学科ありますが、ほとんどの学科から学生が来ています。その多くが、自身が学部で学んできたことを活かす形で火災の研究を進めています。

――来年度から創域理工学部となることによって、さらにこういう“創域的”側面は強まりそうでしょうか。

最近は、「マルチハザード」という言葉がよく使われます。たとえば、東日本大震災のときには、“津波火災”といった言葉が出てきました。環境の変化などによって、いままであまり想定されてなかった複合的な災害が生じる可能性が高まっていると言われています。また、別の例でいえば、近年は、鉄道が高速化されていますが、その背景の一つに車体を軽くしているということがあります。それは金属のような不燃材料で作っていたものが軽くても強い材料に変わっているという技術のめざましい進歩である一方、それは可燃材料を含むことから、火災の潜在リスクも高まっていると言えます。

創域という意識が高まり、分野融合がますます進むことで、そのようなマルチハザードや新しい火災に対してアプローチできる環境がさらに整っていくことを期待しています。私自身、最近、理工学研究科のいろいろな専門の先生方と会話をする機会が増えています。分野を越えたつながりをこれまで以上に強めて、新しい時代に対応した研究を進めていきたいと思っています。

研究室で作業をしている松山教授と研究室の男性2名

――火災を研究する上での「ゴール」がもしあれば、教えてください。

究極の目標としては、いつか火災を完全になくせたら、と思っています。それが無理だとしても、火災による被害者がゼロになる世の中にしたい。その目標に一歩でも近づけるように、いろんな分野の人とつながりながら、どんどん新しいことに取り組んでいきたいです。

――最後にこれから研究者を目指す若い人へ、メッセージをお願いします。

好奇心を持つことの大切さをいま強く感じています。好奇心を持っていれば、何事にも突き進めていこうという気持ちを持てるし、それが研究者としてやっていくための意欲へとつながっていきます。そういう意味で、若い時からいろんなものに好奇心を持って欲しいですね。火災の研究ということについて言えば、繰り返しになりますが、いろんな学問領域と直結するという特徴があります。そのため火災は、さまざまなベクトルの好奇心を活かしながら学ぶことができます。また、火災を学べば、その後にどんな分野にも進んでいけるのではないかとも感じています。ぜひいろんな人と知恵を出し合い、みなで火災ゼロの社会を作っていきたいですね。

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