東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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建物の耐久性について探求し、建物の新しいあり方を探る―建築学科・兼松学教授に聞く―

建物はどうすれば長持ちするか。 中性子線を利用した研究、ドローンによる新しい点検・調査方法の開発、建物外装の3Dプリンティング技術の応用など…様々な成果を生み出している兼松教授にお話を聞きました。

兼松教授記事メイン画像

建物はどうすれば長持ちするか、メンテナンス、点検や調査のためのよりよい方法はないか。

私たちの生活と密接にかかわるこの問いに新たな答えを提示するべく、兼松教授は、建物の耐久性への興味を発端に、さまざまな研究を続けています。建物の耐久性に水がどう影響しているかについて中性子線を利用して明らかにする研究、ドローンを使った新しい点検・調査方法の開発、建物の外装づくりへの3Dプリンティング技術の応用……。それぞれの研究で新しい成果を生み出している背景には、教授が持つ「創域」的な意識が垣間見えます。各研究の内容、そして分野横断的に研究することの意味などについて、聞きました。

兼松学(かねまつ まなぶ) 東京大学工学部建築学科卒業、同大大学院工学系研究科 建築学専攻博士課程中退。同研究科助手、2006年より現職。

鉄筋コンクリートが劣化するメカニズムを中性子を利用して解明する

――兼松先生の現在の研究の概要を教えてください。

私が一貫してやってきているのは、建物を長持ちさせるための研究です。つまり、建物の劣化現象やそのメカニズム、また、メンテナンス、点検や調査に関することを研究してきました。そして、そこから派生した研究として、最近では、ドローンを利用した建物の点検方法の開発や、建物の表面に任意の形やテクスチャを与える3Dプリンティング技術についての研究などにも取り組んでいます。

――まずは、建物を長持ちさせるための研究について教えてください。具体的にはどのようなことをやってこられたのですか。

一言で言えば、建物の耐久性についての研究ですが、長く続けていることのひとつに、鉄筋コンクリートの状態を中性子を使って調べる研究があります。これは、X線を使って人間の身体の内部を見るように、中性子線を使って建物の内部を見ようというもので、ちょうどこの大学に着任した2006年から始めて、もう15年ほどやっています。

鉄筋コンクリートは、経年とともにひび割れが生じる場合がありますが、そこから水が染み込むと水漏れが発生したり、さらなる劣化の要因になります。後者は染み込んだ水によって内部の鉄筋が腐食するためで、そのことは以前からわかっていましたが、実際に水がどのように染み込んでいくのかを詳細に知る方法はありませんでした。そこで、中性子線を照射して水を定量的に測定することを試みたところ、実際にコンクリートのひび割れ中に水が入っていく様子を捉えることができました。それが、下図の下側の連続した画像です。つまり、中性子を使うとコンクリート構造物の内部に水がどう染み込むかが詳しくわかることが示せました。いまも色々と引用していただく研究になりました。

上の二つの画像は、中性子によってコンクリ―トの内部が可視化できることを示している。下はコンクリートのひび割れ中に水が入ってくる様子を捉えた画像。兼松先生が東京理科大学に来た最初のころに得た結果だが、いまも広く引用され続けている

そしてさらに研究を積み重ねる中で、コンクリート中の水の挙動や劣化現象に関する理解を深めるとともに、建物の設計法にどのようにつなげるかを考えてきました。そこで得られた最新の知見を、学会の指針や仕様書などに反映したりする仕事も行っています。結果として、建築物の設計の仕方も変わりつつあります。

――「建築物の設計の仕方が変わる」というのは、たとえばどのように変わるのでしょうか。

たとえば、コンクリートには「中性化」という現象があります。大気中の二酸化炭素が内部に入り込むことでコンクリートのアルカリ性が失われていく現象で、コンクリートが中性化すると、鉄筋が腐食しやすくなるため、「中性化」自体が劣化現象で建物の寿命を決めると考えられてきました。しかし、上記のような研究によって、たとえ中性化しても、水が入ってこなければ鉄筋は腐食しないことがわかってきました。最近、環境配慮型のコンクリートの開発が進んできているのですが、その中にはあらかじめ二酸化炭素を吸収させるようなものもあります。もちろん中性化しやすく、従来の考え方では使えないのではと思われていたのですが、水が入らなければ問題ないことを確認すれば、使える道が開けてきます。そのような変化が一例です。

コンクリートの試験体は、あらかじめ定められた方法で精密に制御された環境下で保管され、様々な試験や分析に用いられます。

実際の建物から採取したコンクリートを試験・分析することも重要な研究項目のひとつです。これまで、名もない一般的な建物から、西洋美術館や国立競技場、軍艦島の建物などの歴史的構造物に至るまで、様々な建物の分析を行ってきました。

ドローンの利用で建物の新しい点検方法を開発する

――なるほど、広くいろんな建物に関わる重要な研究ですね。一方、ドローンや3Dプリンティング技術に関する研究というのは、どのようにつながってくるのでしょうか。まずはドローンに関連する研究について教えてください。

ドローンを扱うことになった経緯からお話すると、もともと私が建物の耐久性に関する研究を行う上で頭にあったのは新築の建物でした。しかし、研究を進めるうちに、必然的に、実際の建物がどうやったら傷むのかを調査する機会が増えていきました。するとそのうちに、既存の建物の状態をどう評価するかや、建物の維持管理をどうすべきかということにも関心が広がっていきました。そうした中で、「ドローンを使った建物の点検方法の開発をやってみないか」と誘われて、ドローンに関する研究を始めることになったのです。

――ドローンを利用した建物の点検というのは、どういうものなのでしょうか。

大きな建物の点検は、多額の費用をかけて建物の周りに足場を組み立てる以外は、従来、四角い箱のようなゴンドラや、ブランコのようなイスを、建物の上から吊り下げて、そこに人が乗って目視するか、または、下から双眼鏡で見る、という方法で行われてきました。しかしそうした方法ですべての場所を見るのは困難です。そのため、近年ドローンが社会に広く浸透してきた中で、建物の点検にもドローンを使おうという流れがでてきたのですが、実際にやってみると安全に飛ばすのは意外と大変なことがわかってきました。そこで、ドローンを使って安全に建物の点検する方法が検討されるようになったわけです。

3Dスキャナを用いたドローン用アタッチメントの設計

ドローンが特に有用なのは、人によるアプローチが困難な高い建物になりますが、高い建物の場合、上空では風が強い場合が多く、ドローンが建物にぶつかる危険性も高くなります。その危険を回避するためにどうすればいいかがいろいろと考えられてきました。その中では、建物の屋上と地上の2点を釣り糸のようなラインで結び、そのラインにドローンをつなぎとめて上下方向に限定して飛ばすという方法があるのですが、それを面的に移動できるように、3点や4点で係留するような装置を他機関と共同で開発しています。さらにドローンに、壁にドリルで穴開けたりできる機能を持たせ、建物の壁一面を点検しつつ、必要な場所に行って必要な作業をする技術の開発に取り組んでいます。

――実現したらとても有用そうですね。

そうですね。たとえば超高層ビルでは、数年から10年に一度くらいの頻度で定期点検を行うのですが、ゴンドラを使うことも容易ではなく、大規模な修繕のタイミングにあわせて膨大なコストをかけて調査されることがほとんどで、それまでは外壁の状況を正確に把握できないことが想定されます。ドローンで点検ができればコストはぐっと抑えられるし、かつ、地震などの災害時にも早急の対応が可能です。加えて、そうしてドローンを使うことで、これまで見えなかったところが見えるようになったり、新たな補修ができるようになったりもするはずで、そうなったら、建物の日常的なメンテナンスが大幅に効率化するだけでなく、建物の耐久性や安全性の向上につながると期待しています。

見た目と耐久性を向上させる新しい方法

――3Dプリンティング技術の研究についても教えてください。

近年、3Dプリンタを使うことで、これまでになかった形状の建物が作れるようになっています。しかし表面がどうしても粗い状態になってしまうのが課題でした。そこで、建物の外装材として使えるいろいろなテクスチャを持つ材料を、3Dプリンティング技術によって作るというのがこの研究です。石、タイル、金属、木材などのように見え、かつ表面の凹凸なども本物のように再現することに挑戦しています。

この研究は、アイディア自体は、本学に来て間もないころから考えていたものですが、当時は、3Dプリンティングの技術が十分ではなく実現が困難でした。それが近年格段に向上したことで、実現可能性が見えてきました。

この方法は、建物の見た目を美しくすることと耐久性を高めることの2つの機能が期待できますが、最近では、特に耐久性を高めるという点で有用なものを作ることを意識しています。

3Dプリンタは素材の高性能化が進んでおり、グラスファイバーで補強したプラスチックを利用して研究に用いています。研究スピードをアップし、創造性を高めるのには必要不可欠な装置となっています。

他の分野の人からチェックしてもらうことが大事

――いずれの研究も、建築学や材料学だけでは完結しない内容で、「創域」的だなあという印象を受けました。

お話した研究は、それぞれ確かに創域的だと思います。中性子もドローンも、自分はもともと全く知らない世界なので、その分野の専門家とともに研究を進めてきました。テクスチュアの3Dプリンティングについては、概ね自分だけでやってきました。というのも、もともと私は、「耐久性の世界はマニアックだし人に伝えにくいから、もっとわかりやすい研究をやりたいなあ」という気持ちがあり、それが3Dプリンティングを始めるきっかけになっていて(笑)。ただ、いまはある企業との共創プロジェクトの中で進めているので、その意味で創域的ではあるかと思います。

――ご自身の専門ではない分野のことを始めたり、他の分野の研究者とコラボしたり、といったことは、現在、理工学部内に創域的な空気が醸成されてきたことによってやりやすくなっているというのはありますか。

あると思います。やはり、他の分野に目を向けることが歓迎されるという雰囲気があるので、やりやすいですね。「創域」への意識は、建築学科の中でも強くあります。もともと建築学科って、構造、環境、意匠、防災、材料など、分野の幅が広いんです。以前は、自分の分野を掘り下げるのに精いっぱいで他の分野の人とつながろうという空気はあまりなかったように思いますが、最近は、みなでつながって一緒にやっていこうという意識は強くなっていますね。

たとえば、建築学科では最近、「スタジオ制」という教育プログラムを始めています。これは、複数の分野の教員がそれぞれの専門に関連する設計プログラム(スタジオ)を設定し、学生は分野をまたいだ設計法を修得するというものです。外部から実務者の先生をお招きしたりして、それぞれの専門性に加えて実際に「モノを作る」ということを意識した指導をおこなってもらっています。そして、そのための総合的な視点を身に付けてもらうことを目指して指導しています。「創域」ということが私たちの意識の中にあることで、こういうプログラムが立ち上がったように思います。

また、研究者としても、他のいろんな分野の人から異なる目線でチェックしてもらうのは、すごい大事だと思うので、こうして横でつながって一緒にやっていくというのは非常に有意義だと感じています。

――最後に、これから研究者を目指す若い人などへメッセージをお願いします。

やろうと思う分野に対して、しっかりと興味を持つことがまず大事です。「面白いな!」「研究したいな!」と思うこと。その上で、ぜひ、違う分野のことについても広く学んでほしいです。

これからの時代、ますます、いろんな分野の人と融合することが大事になってくるでしょう。やはりそのためには、いろんな分野を知ってつながり、受け入れる力が重要となります。広い視野を持ちながら、自分のやりたい道を切り開いていってほしいなと思います。

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