東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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“奇跡”を持続するための仕組みを―情報計算科学科・滝本宗宏教授に聞く―

近年急激に広まっている深層学習型とは異なる論理型AIの領域の研究を進めAIの課題解決を目指している滝本教授。また、副学部長として「創域」に対する熱い思いを語ってくださいました。

プログラミング言語や言語処理の技術を軸として、滝本教授は、コンパイラ、移動エージェントからAIまで幅広い領域の研究に携わってきました。特にAIの研究では、近年急激に広まっている深層学習型のものではない、論理型AIの研究を進め、現状のAIが持つ課題に挑戦しています。一方、4月からスタートを切った創域理工学部では副学部長を務め、当学部の「創域」への取り組みをさらに確固たるものにするべく、仕組み作りに邁進。ご自身の研究について、そして創域の今後について、滝本教授に聞きました。

滝本 宗宏 (たきもと むねひろ)1992年 慶応義塾大学理工学部計測工学科卒業、1999年 慶應義塾大学理工学研究科計算機科学専攻博士課程満了。博士(工学)論文。東京理科大学理工学部講師、カリフォルニア大学アーバイン校在外研究員、東京理科大学理工学部准教授などを経て、2013年より現職。

プログラミングから派生した広範な研究

――先生のご研究の概要を教えてください。

僕のそもそもの専門は、プログラミング言語や、プログラムを処理するツールに関する研究です。たとえば、プログラムを機械の言葉に変換するソフトウェアをコンパイラと言いますが、より速い機械語を生成できるコンパイラを作るにはどうすればいいか、といったことを研究してきました。

20年ほど前になりますが、COINS(「並列化コンパイラ向け共通インフラストラクチャの研究」プロジェクト)という、コンパイラに関するプロジェクトに参加しました。それまでコンパイラは、新しいものを作るためには、その人自身で必要なものを最初から最後まで全部作らないといけなかった。それゆえかなりの時間がかかるため、なかなか学生が携われず、結果この分野を習得した学生が減り、日本の言語処理系の分野の層が薄くなってしまいました。

その状況を変えるべく立ち上がったのがこのプロジェクトでした。プロジェクト名の通り、コンパイラの分野におけるインフラのようなもの、つまり、それを使えば、誰でも自分のアイディアによって比較的簡単に新たなコンパイラを作ることができる基盤のようなものを構築しました。このプロジェクトに参加したことが自分のルーツのようになり、その後いろんな研究へと発展していきました。

――なるほど、それは日本の研究環境に大きく貢献するプロジェクトですね。その後にされてきた研究についてもいくつか教えてください。

たとえば「高位合成」というものがあります。これは、コンパイルによって言語から機械語を生成するのではなく、プログラムから直接、論理回路を生成させるというものです。それはつまり,そのプログラム専用のCPUを自動的に生成することに等しいので,CPUが要らなくなる。効率は汎用のCPUに劣る場合もありますが、生成する回路はシンプルで、消費電力が少なくてクリーンなものが作れるという利点があります。

また、プログラムの一部を複数のコンピュータに分散させたり、並列に動かしたりすることで処理を高速化するタイプのプログラミング言語が一時期流行ったのですが、その流れの中で研究するようになったのが「移動エージェント」です。

移動エージェントというのは、ネットワークを通じてコンピュータからコンピュータへ自律的に動き回ってミッションを行うプログラムです。これを使って、たとえば、ビルなどのフロアで火事が起きた時に避難経路を教えてくれるシステムが作れないかと考えています。スマホを持って避難口へと移動している人がフロア内に複数いるとします。その中で、避難口がわからないと思った人が、移動エージェントを生成して飛ばす。すると移動エージェントはWi-Fiを使って他の人のスマホへと次々に飛んでいく。そして避難口まで行って戻ってくる間にその移動過程を記録して、避難経路を浮き上がらせるというイメージです。

――実用化されたら、とても有用そうですね。

移動エージェントは、コンピュータウィルスと原理が近いので、セキュリティの問題であまり研究されなくなってしまったのですが、閉じられたネットワークの中だけで移動させるなど、工夫次第で有用な使い方があるのではないかと考えています。

結果が説明可能な論理型AIを実用レベルに

――その他に特にいま力を入れている研究があれば教えてください。

最近はAIの研究にも取り組んでいます。特徴的なのは、AIと言っても、いま主流の深層学習(ディープラーニング)によるものではなく、論理に基づいたAIを扱っていることです。深層学習型のAIは、人間の脳を模した仕組みを作ることで、根拠はよくわからないけどうまく機能するというものです。一方、論理型のAIは、知識をためて、論理を身に付けていくことで賢くなる。つまり、導き出す結果が論理に基づいているため説明可能なのです。

論理型AIは、かつては広く研究されていたのですが、深層学習型AIが発展していく中で、主流ではなくなっていきました。ただ本学には、この研究を長年続けてきた蓄積があり、いまも引き継がれています。僕はもともとAIの研究はしていなかったのですが、この大学に来てそのことを知って、論理型AIに興味を持つようになりました。自分が培ってきたプログラミング言語や言語処理系の技術を投入し、かつ現在の情報技術を生かせば、深層学習型のAIとは異なる可能性を切り開けると思っています。

――論理型AIはどのような原理なのでしょうか。また、どのように利用できるのかも教えてください。

私たちが作っているAIは、事例と知識を与えると、自動的にプログラムを生成します。簡単に言えば、そうして新しい知識を与え、プログラムを新たに作るということを繰り返すことでどんどん賢くなっていくというものです。

いま私たちは、この論理型AIを使い、がんと遺伝子の関係の分析を行っています。がんを専門にするある医療機関の患者さんデータをもとに、がんの経過や余命が遺伝子とどう関係するかを分析しています。このような分析は、普通の数学的な方法では計算が膨大すぎて現実的な時間で解くのは不可能なのでAIが有効なのですが、深層学習型AIにやらせると、答えは得られたとしてもなぜそうなるのかがわからない。それではその先の発展が望めません。そこに論理型AIを用いる意味が出てきます。

私たちの論理型AIは、生物にならったアプローチを採用しています。たとえばアリは、砂糖を見つけて自分の巣に持って帰る際に、フェロモンを置いていきながら仲間で何回も行き来することで最短距離を見つけます。そのように世の中の生き物は、普通の数学では解けないような複雑な事柄を、群の知識によって当たりをつけて、答えを導いています。同じような考え方で当たりをつけて解を得ようと考えています。すると解が得られた理由もわかる。そのようなAIを構築することを目指しています。

――説明可能というのはとても重要ですね。一方、深層学習型のAIがものすごい発展を遂げている中で、論理型AIが確立したとして、その立ち位置はどうなっていくと考えられますか。

人がものを考える時は、直感と論理の両方が大切です。つまりAIに置き換えたら、深層学習型のAIと論理型のAIの両方があるということ。この両者がきちんと発展して結び付いた時に、AIの信頼度は格段に高まり、人間相当になりうると僕は思っています。論理型AIの研究をしていくことはとても重要だと考えています。

“奇跡”を持続させるための仕組みを作る

――滝本先生は、上記の他にも、仮想世界と現実世界をつなぐ研究など、幅広く研究を手掛けられています。そんな点とも関連しそうに思いますが、続いて「創域」について聞かせてください。4月から「創域理工学部」がスタートしました。本学の「創域」の現状を、先生はどう捉えていますか。

まず、自分自身についても言えることですが、研究者というのは通常、自分の興味のあるところ以外にはあまり入っていかないものだと僕は思っています。なかなか別の分野への敷居が超えられない。でも、本学の旧理工学部は、どういうわけか違う領域に飛び込むことを怖がらない人たちが集まっていた。そして、分野を越えて研究組織や教育組織を作りましょうという動きがボトムアップに立ち上がり、2017年に横断型コースが始まり、今年、創域理工学部がスタートしました。僕はこの流れは、ある意味、奇跡のようなことだと思っています。

でも、奇跡だとすると持続しない。僕は、それを持続可能にする仕組みを作ることが大切だと考えてきました。その一つが、小中学校のプログラミング教育へ協力するという試みです。それは、横断型コースの取り組みを活用して、学生たちに小中学校の教育活動に参加してもらうというもので、2021年から千葉県流山市で行っています。これが学校教育への貢献となることを目指すのはもちろんなのですが、同時に、私たちの奇跡の持続にも役立ってほしい。たとえば学生にとっては、この事業に参加することが、同じくこの事業に協力する複数の企業とつながりを作る機会にもなる。そのように、社会に貢献すると同時に何らかの形で学生や教員にとってインセンティブとなるシステムを作ることで、いまの奇跡を持続させていけるようにと模索しているのが現在の状況です。

――「創域」を実践していくのは大切だけれど、持続させていくのは簡単ではない。それゆえに、創域を続けていくための現実的な仕組みが必要ということですね。

そうですね。個人の意思ややる気を後押しするのはもちろん大切ですが、しかし、やはりシステムを作らないといずれ廃れます。そのシステム作りが大切だと思います。また、この教育活動への協力事業についてもう一点加えておくと、この場自体が、創域の場にもなっています。いろんな学生が同じ教室でプログラミング教育というものをベースに協働することで、新たなつながりができていく。そこに生まれる小さな創域の芽が、新たな展開を作っていくこともあるのではないかと期待しています。

野望と疑問を

――先生が取り組まれている研究についても、創域的な側面がありましたら教えてください。

がんと遺伝子の分析プロジェクトは、もともと薬学の先生から相談を受けたのがきっかけでした。自分が興味を持ってきたAIの研究にニーズがあることを知り、そうであれば一緒にやりたいと思って始めたのですが、まさに異分野の融合によって新たな可能性を生み出す機会になっていると思います。

そのような経験から思うのは、異なる分野の人が融合し、創域していくためには、ニーズとシーズがマッチすることが大切だということです。特に、ニーズをきちんと持って来る人がいると、シーズも集めやすい。それゆえ、大学が創域的であり続けるためには、ニーズとシーズの両者をつなぐ「サイエンスマネージャー」とでもいうような人材を大学が持ち、組織として、ニーズとシーズをマッチさせられるような仕組みを構築していくことが大事だと考えています。現在、副学部長という立場としても、そのようなことを創域理工学部で実現できたらと思っています。

――最後に、創域理工学部を目指す高校生や、研究者を目指す学生へのメッセージをお願いします。

僕が小さいころは、子ども向けの雑誌や図鑑によく、テレビ電話やロボットなどがある未来都市みたいな絵が載ってた記憶があります。それを見て、いつかこんな世界になるのかなと想像したりしていました。でも、最近はあまりそういう絵とかはないのではないでしょうか。若い世代の多くは、いまの世界でもう十分と思っているような印象があります。

しかし、社会を変える技術や、世界をあっと驚かせる発明は、まだいくらでもあるはずです。だから若い人には、野望を持ってもらいたい。火星に立ってやろうとか、時間を逆に回してやろうとかでもいい。そういうものを持っていてほしいです。そしてもうひとつ、疑問を持つことが大事です。なぜスマホで地図が検索できるのか。なんでChatGPTはあんな文章を作れるのか。目の前のものをただ受け入れるのではなくて、なぜだろうといつも疑問をもってほしい。

その2つ、野望と疑問を持って大学に来てくれれば、我々は応えます、野望は一緒に抱きましょう。疑問には答えます。大学はそういうところだと思って、来てもらいたいですね。

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