東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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ただ面白いからと深めた研究が、社会に不可欠な技術を生み出す数学という学問―数理科学科・青木宏樹教授に聞く―

保型形式とは、ひとことで言えば、「保型性」という条件を満たす関数のこと。応用の方法はあまりないということながら、情報通信の技術にもつながりそこには「創域」の可能性が広がっています。数学の研究とは、そしてそこから生まれる創域について青木教授にお聞きしました。

青木教授の専門分野は代数学で、特に「保型形式」をテーマに研究しています。保型形式とは、ひとことで言えば、「保型性」という条件を満たす関数のこと。さまざまな興味深い性質があり、それをより深く理解したいと思い、青木教授は長年研究を重ねてきました。数学の研究は、何かの役に立つか立たないかではなく、純粋な知的好奇心から進められる場合が多いですが、結果としてそれが社会に不可欠な技術の誕生につながることが多々あります。では保型形式はどうなのか。「応用の方法はあまりない」ということながら、青木教授の研究は、情報通信の技術にもつながり、そこには「創域」の可能性が広がっています。数学の研究とは、そしてそこから生まれる創域とは――。青木教授に聞きました。

青木 宏樹(あおき ひろき) 1994年 京都大学大学院 理学研究科 修士課程入学、2000年 京都大学大学院理学研究科 数学・数理解析専攻修了。博士(理学)。立命館大学理工学部 助手、京都大学数理解折研究所 教務補佐員、東京理科大学 理工学部数学科講師、同准教授を経て、2022年4月より現職。

役に立つからではなく、ただ面白いから研究する

――先生のご研究の概要を教えてください。

私は数学の代数学という分野が専門ですが、中でも「保型形式」について研究しています。保型形式とは、ひとことで言えば、「保型性」という性質を満たす関数のことです。定義は、下のようになります。

でもこれを見て、「そうか!」と理解できる人は少ないと思います。ざっくりとしたイメージを伝えるとすれば、保型形式とは、上のようなとても短い式で書ける保型性という条件を満たすだけの関数だと言えます。そして保型形式はごく少数しか存在しません。それは、この条件によって関数の自由度がとても制限されるということであり、それは数学的にはなかなか興味深いことなんですね。そこで、ではそのように限定される保型形式が具体的にはどのような関数なのだろう、というところに興味がわき、それを知りたいということを動機として、保型形式の研究を続けてきました。

保型形式について詳しく知っていくことは、数学的にはどのような意味があるのでしょうか。

保型形式は、数学のさまざまな問題を解く道具として、かなり強力なツールになります。例えば、有名な「フェルマーの最終定理」(<3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない>というもの。17世紀の数学者フェルマーが予想し、解かれるまでに300年以上がかかったことで知られる定理)を解くのにも役立っています。そのため、何か解きたい問題がある人が、そのための道具として保型形式を研究するということは少なからずあります。が、私自身は特にそういうわけではありません。保型形式を使って何かの問題を解きたいというよりは、保型形式の性質自体に興味があり、それをよりよく理解するためにあれこれ研究しているという立場です。それが数学的にどういう意味があるのかと言われると、正直なところ、わかりません。あるかもしれないし、全くないかもしれません。ただ私が、式として面白いと感じるからやっている、というか……。

保型形式について研究を深める、とは

――数学の研究は、役に立つからではなく、純粋に興味があるからやっているという方が多いと聞くので、納得です。何かの役に立つとすれば、それは結果としてのことである、という場合が多いと。ところで、先生はどのようにして、保型形式に興味を持たれるようになったのですか。

大学院に進学する際に、私は「複素解析を勉強したい」と考えて、その方面に進みました。複素解析というのは、複素数(実数と虚数を組み合わせた数)上で微分や積分を行う分野です。一見ややこしそうに聞こえるかもしれませんが、複素数ならではの事情があって、じつはそう複雑にはならないんです。直感と答えが一致する場合が多く、それが面白くて、大学院でこの分野をやろうと思いました。そして複素解析を学ぶ中で、保型形式に出会いました。保型形式は複素解析の分野に登場してくる関数だからです。

――なるほど。ではいま、保型形式の中でも特にどういうところに興味を持って、どんな研究をされているかを、可能な範囲でわかりやすく説明していだければありがたいです。なかなか簡単ではないと思いますが……。

比較的わかりやすい例を1つ挙げると、下のような、オイラーの五角数定理という定理があります。

左辺のΠは無限個の掛け算を表します。つまり(1-q)×(1-q2)×(1-q3)×…とずっと掛けていったものが左辺です。一方Σは無限個の足し算を表すので、右辺は、Σの右側に書いてある式を無限個足していったものになります。この定理は、その両者が等しいことを表していて、オイラーによって1700年代に証明されて定理となったのですが、後に、この定理が保型形式と密接な関係があることがわかりました。両辺のそれぞれに保型性があることを示すと、この定理は簡単に証明できてしまうのです。つまりこの定理は、保型形式が問題を解決する道具として有用であることを示す1つの好例になっています。私はいま、この定理に似た別の式をいろいろと作っていて、それらを、保型形式を使って証明できないかということを研究テーマの一つとしています。それが、ある対称性にすごく関係しているらしいことが最近わかってきて、いま、さらに研究を深めているところです。

モノづくりにも情報通信にも、数学は欠かせない

――先生のご研究は、数学の世界だけにとどまらず、情報通信の技術にもつながっていると伺っています。この点について教えてください。

保型形式自体は、特に何かの技術開発に役に立つものではなく、情報通信の技術に応用できるというわけでもありません。ただ、保型形式の具体的な形を作ろうと研究を進めていくと、ある部分で離散数学が関わってきます。離散数学とは、連続ではないとびとびの数字を扱う数学の分野で、デジタル技術、そして情報通信の技術と深い結びつきがあります。それゆえに、保型形式と情報通信は、離散数学を使うというところが共通していて、私も、情報通信の技術についてもいろいろと知っていくようになったという具合です。

私の研究室に来てくれる学生も、数学そのものに興味があるという人と、数学を何か別の技術に活かすために学びたいと考える人に分かれます。特に最近は、離散数学を学んで情報通信の分野をやっていきたいという学生も多く、そうした学生には、情報通信と関連したテーマで、論文を書いてもらったりしています。

――学生が実際に行った研究で、数学を情報通信に活かすようなテーマの例がありましたら教えてください。

例えば今年の2月に提出された修士論文では、保型形式を作るために使われているある種のデジタル信号(=符号)を題材にした研究がありました。その符号をまず数学的に勉強したあと、現在の情報通信で実際に使われている様々な符号と、その学生が勉強した符号とで、どちらの方が通信効率を高められるかを、コンピュータでプログラムして比較するという内容です。ちなみに、「符号」について少し詳しく説明すると、それは、「0と1をランダムに並べて作った何桁かの数字の列のうちで、特別ないくつかを取り出した集合」ということになります。デジタル情報を正確かつ効率的に伝えるためには、このような符号が重要な役割を果たしていますが、この学生のような研究を行うことで、そこに数学の符号理論がどう活かされているかといったことを実感してもらえると思っています。

――この辺りの研究は、分野横断的であり、「創域」的であると感じます。研究室として、創域を意識して行われている取り組みがありましたら教えてください。

創域的な取り組みとして私たちがいま行っていることの一つに、情報計算科学科の宮本暢子先生の研究室との「ダブルラボ」があります。これは、「数学と情報科学の両方がわかる人材の育成」を目標とした両研究室共同の活動です。宮本先生の研究室も同じく符号理論を扱っておられて、学生たちは離散数学を学んでいますが、宮本研究室では、それを社会にどう実装していくかという意識が強い。一方、私の研究室では数学の立場から符号理論を学びます。それぞれの観点を共有し合うことで、よりその両面の理解を深めてもらおうというのが狙いです。

具体的には、両学科の教員からのレクチャーに加え、実験実習というのが主な内容になっています。2023年度は、前期、後期それぞれ、「実験計画法」と「QRコード」を題材として、それらの中で数学がどのように活かされているかを学んでもらいました。前者の実験計画法とは、モノを作る際などに、どのような実験を行えば効率的で精度の高いデータが得られるかを知るための手法で、統計学、そして離散数学も関わってきます。その実験実習として学生たちは、事前に実験の意義や方法を学んだのち、実際に紙ヘリコプターを作って飛ばし、その飛行時間を測りました。そして得られた測定値をコンピュータで解析し、測定値に影響をおよぼす要因について調べることを通じて、実験計画法に数学がどう使われているかを学びました。一方、後者のQRコードにも数学がとても深く関係しており、特に先の、符号理論が重要な役割を果たしています。紙に書かれたQRコードがボロボロになっても読み取れるのは、符号理論に基づくかなり複雑な機構を利用して、誤り訂正能力を高めているためなのです。そうしたことを、実際にQRコードを作成することを通じて学んでもらいました。

――なるほど、モノづくりにおける実験やQRコードの作成にどう数学が使われているかをこのような形で学ぶと、数学がいかに私たちの生活においてなくてはならないものなのかをとても実感できそうですね。

数学を社会に活かせる人材を育てていきたい

――創域理工学部へと改称して1年になります。「創域」というワードが入ったことによって、先生や学生たちの意識がこのように変化した、といったことがあれば教えてください。また、今後このような方法で創域という側面を強めていきたい、といったことはありますでしょうか。

名前が変わったことによって私自身も学生の方も、やはり意識が変わってきたと思います。自分としては、学生を指導するにあたって、数学を学んでそれを何らかの技術として社会に実装できる人材を育てたい、という思いが強くなっています。その一つの試みが、ダブルラボなのだと言えます。また学生の側もいまは、わりと早い段階で数学を学ぶと何ができるかということを考えている人が多いように感じます。たとえばシステムエンジニアや数理ファイナンスの専門家など、具体的な仕事を意識しながら私の研究室で数学を学んでいる学生も増えています。学生たちのそうした期待に応えられるように、これからも様々な機会を提供していきたいです。

また、自分自身の研究についても意識が変わった部分があるように思います。私はずっと純粋数学の研究をしていますが、既存の問題を解くよりも、新たな問題を見つけることに興味を持ってきました。新たな問題を見つけるためには、自分の専門分野だけを見ていてはだめで、常に周りを見渡していることが大事ですが、創域理工学部になって、学生に対していろいろな数学分野、そして社会との関わりなどを意識してもらおうとする中で、自分の視野も自然に広がったように思います。それが今後、自分の研究にとっても新たな刺激になったら嬉しいですね。

――最後に、創域理工学部を目指す高校生や、数学に興味を持つ若い世代などへのメッセージをお願いします。

高校までの学習で、確かに数学の基礎は一通り習います。大学ではその先のことを学ぶわけですが、大学に入って数学を学ぶとおそらく、高校時代にイメージしているよりもずっと広くいろんな分野があるのを感じられるのではないかと思います。その一例が、先に話したダブルラボで扱ったテーマだったりするわけですが、他にも本当にいろいろあります。

つまり数学は、高校の延長線上にまっすぐ一本の道が続いているわけではなく、無数に枝割れしています。その先には幅広い分野があり、様々な進路が待っています。高校の時点で数学に興味があるのであれば、ぜひ、大学でいろいろな数学に触れてもらって、その中で自分の持ち味を生かせそうな分野を見つけて、勉強を深めていってほしいです。創域理工学部の数理科学科には、多様な分野の教員が揃っています。皆さんがそれぞれ自分の希望する進路に進むために必要な環境を、きっと提供できると思います。

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