東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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計算の力で、河川による災害を防ぐ―社会基盤工学科・柏田仁助教に聞く―

学生時代から河川の流れをより正確に求めるための計算手法の研究にたずさわってきた柏田助教。ご自身の研究について、そして、創域についていま思うことについて、柏田助教に聞きました。

柏田助教は自身の学部時代から、河川の流れをより正確に求めるための計算手法の研究にたずさわってきました。その結果出来上がったソフトウェアは、その後、河川の安全性を高めるために社会で広く使われるものとなり、助教はさらに現在、また別の方法で、河川による災害を防ぐための技術の開発に取り組んでいます。そうした経験を経たことで、創域理工学部のこれからについても見えてきたことがあるようでした。ご自身の研究について、そして、創域についていま思うことについて、柏田助教に聞きました。

柏田仁(かしわだ じん)2009年 東京理科大学理工学部土木工学科卒業。パシフィックコンサルタンツ株式会社に就職し、学部時代の研究を活かして、河川の流量算出ソフトウェアの開発に従事。その開発により2015年国土技術開発賞・入賞。2019年に東京理科大学理工学研究科土木工学専攻博士課程を修了し、2021年より現職。

河川の流量をより正確に計算するDIEX法

――柏田先生の研究の概要を教えてください。

私は本学科(当時は理工学部土木工学科)の出身で、その当時から、河川の流量を正確に算出するための方法の研究に携わってきました。

研究の背景には、近年、豪雨などによって河川が氾濫して大きな被害が出ることが増えているということがあります。被害を防ぐためには、河川では、できるだけ大きな流量をできるだけ低い水位で流せることが重要です。つまり、ものすごい雨が降っても、水位は上がらずに水が海まで流れていき、市街地に水が流れ出ないような川が理想です。河川を整備などする際にはそのような川にすることを目指します。そしてそのためには、実際にどのくらいの雨の時に、流量と水位がどのくらいになったかという実測のデータが必要です。

しかし、そのようなデータを得るのは容易ではありません。水位は、目で見てもある程度わかりますし、比較的に簡単に測れるのですが、問題は流量です。どうするかといえば、水の流れの速さ、すなわち流速を測り、それを元に計算して流量を求めることになります。「流量=流速×川の断面積」という関係があるからです。

ただし、流速を測るのも簡単ではありません。現状ではどうやっているかといえば、日本ではいまも、観測員が現場に行って浮子という棒状のものを流し、それがたとえば50メートル流れるのに何秒かかるかを計測して流速を出すという、かなり古典的な方法が標準となっています。さすがに現在は、電波流速計を使った計測や、画像解析による方法なども一部行われるようになっていますが、いずれの方法でも、河川の横断面のうち特定の何カ所かや水面だけといった、限定的なエリアのデータしか得られないという問題があります。それゆえに、正確な流量の計算は難しいままでした。

そのような背景の中で、私たちの研究室では、流量をできるだけ正確に算出する技術の研究を長年進めてきました。その結果出来上がったのがDIEX(ダイアックス)法で、その開発と応用に私は長くたずさわってきました。

――なるほど、背景がよくわかりました。では、DIEX法とはどのような方法なのか、より詳しく教えてください。

簡単に言えば、DIEX法は、計測で得られた限定的な流速データをもとに流体力学に基づく数値計算を行うことで、川の横断面全体の流速の分布を算出します。そしてそこから流量を計算するという方法です。

より詳しく説明すると、まずは観測した流速のデータを使って、流体力学の基礎方程式に基づいた計算を行い、川の断面全体の流速の分布を求めます。次にその計算結果を観測データと比べます。すると必ずずれがあるので、そのずれを考慮して方程式を補正します。そしてまた計算をする。そしてその結果を再び観測データと比較してずれを補正して計算する、ということを繰り返します。すると、最終的に観測値にフィットした断面全体の流速分布が得られるのです。

この方法のポイントは、観測データと数値シミュレーションを併用する「データ同化」という手法を用いていることです。数値シミュレーションの結果に観測値を組み込むことで、数値シミュレーションを修正していくという手法で、気象や海洋の分野では長く使われてきていますが、河川分野ではまだでした。それを初めてが実現したのがDIEX法だと言われています。

DIEX法による計算結果は、実測値とかなりよく一致します。また少ない観測データでも高精度の結果が得られることが確認できています。つまり、少ないデータでも利用できるということで観測の省コスト化にもつながるため、現在全国各地の河川において使われるようになっています。

自分たちの技術で人の命を救うために

――DIEX法は、かなり広く社会に貢献していそうですね。現在もDIEX法に関わる研究を進められているのでしょうか。

DIEX法は、浮子、電波流速計、画像解析など、さまざまな方法で得られた観測データを用いて計算することができますが、最近、画像解析の手法が発展してきたこともあって、画像から得られるデータの精度を高めるためにはどうすればいいか、という点でいろいろと検討を進めています。雨や風が強くて画質が十分でない画像からでもより精度の高い観測データを抽出できるように、と考えています。

一方、いま研究室としては、DIEX法とは少し違う研究に力を入れています。それは、河川が氾濫して人の居住地などに水が流れ込んだ時、どのような場所が危険かを判断するための方法を開発する研究です。

2020年に熊本県を流れる球磨川が氾濫して、50名の方が亡くなる大きな水害がありました。周囲の人吉盆地に、かなりの流速で水が流れ、私たちの調査によれば285軒の建物が壊れました。このような水害において、河川の整備をどのように行っていく必要があるか,という点に加え,どういう場所で建物が壊れるのかを分析して、「このエリアでは絶対に建物の中に避難してはいけません」と言った注意喚起ができるようにするために、私たちの技術でできることをやりたいと考えています。

そのためには、水の流れをシミュレーションして、建物が水から受ける力を計算するのですが、このとき重要になるのが、計算を2次元的にやるか3次元的にやるかという点です。3次元で計算をしようとすると、計算の負荷が大きくて広域を計算できないというのが一般的な認識なのですが、洪水のような複雑な流れを対象に、建物にかかる力などを正確に知ろうとすれば、やはり3次元計算が必要になります。DIEX法で用いたデータ同化のような工夫――この場合は、2次元の計算と3次元の計算を組み合わせる――を行うことで、十分に正確かつ現実的な計算時間で実行できるような方法を開発しています.

――この研究もとても私たちの生活と直結していて、まさにいま必要とされるものですね。

はい、そのように思っています。いまは、氾濫した水の流れのシミュレーション結果を、車両の通行データと比べるということもやっています。氾濫が広がると、車両は水から逃げるような挙動を示します。そして氾濫が引いていくと今度は車両が入り込んでくる。つまり、両データには関係があるので、車両の通行データと氾濫の関係を分析することで、氾濫の計算が正しいかどうかを確かめられたり、または逆に、車両のデータをもとに、どこで氾濫が起きているかが推定できるとも考えられます。そのようにいま、いろんな発想で研究を進めています。大変な事態のときに地域の人に貢献できる技術へと結実させたいです。

「創域」が求められる時代に、必要な環境を提供できるという強み

――次に「創域」について伺います。柏田先生の考える創域とはどのようなイメージのものか教えてください。

正直なところ、「創域」についてはっきりと言葉にできるほど自分の中にしっかりとしたイメージがあるわけではありません。ただ、自分のこれまでの研究を振り返ると、なんとなく見えてくることはあります。というのは、私はもともと川の中のことだけをやっていたのですが、研究を進めていくつれて氾濫についても考えるようになり、さらに、先の車両のデータなど、データサイエンティストたちの領域、そして建築分野にもかかわりを持つようになりました。気づけば創域的になっています。最近、気候変動の影響によって、マルチハザード、すなわち複合的な領域での災害が増えているので、われわれ土木工学 においては、誰もが必然的に、創域的になっているように感じます。

――創域的に研究を進めないと現実の問題に対応するのが難しい時代になっているということですね。一方、創域理工学部の学生たちにはどのような印象をもっていますか。

学生はたいてい、自分の目の前のことに一生懸命になっているので、最初からいろんな分野を複合的に学んで何かをやっていこうと意識している人は多くはないかもしれません。ただ、現実の問題に向き合うと、創域的にならざるを得ない時代であるため、学生と研究について話すときに、「そういうテーマなら横断コースでやったらいいのでは」と提案したりはします。すると、はっと気づき、それならばそっちに進もうと柔軟に考える学生は多いように思います。

――なるほど。そして結果として学生がやりたいテーマが分野横断的なものであるとき、そういう場を学内で提供できるというのはやはりいいことですよね。

そうですね。私たちの学科では、教員たちの間でも、分野が違うもの同士で一緒に何かできたらいいね、と話す機会も多いですし、学部にも学科にもそういう雰囲気ができてきていると感じます。学生の方も、何に役立つかわからないままただ目の前の研究をするよりも、この研究をあの分野の研究と組み合わせると水害の予測に役立てられる、などとわかれば、やはりモチベーションが上がりますよね。そういうところに教員が働きかけ、実際にそのための研究環境を提供できるというのは、創域理工学部の強みです。特に社会基盤工学科は、実際の課題や問題を対象にすることが多い学科です。現実の問題に自分のスキルや知識が活かせるのであればと、理学系の学科などからゼミに参加してくれる学生もいます。とても創域的な環境になりつつあると感じています。

「創域」の名称から、自然と意識が育っていけば

――創域理工学部が正式にスタートして、そのような創域的側面が前面に打ち出されました。これからますますそういう傾向は強まっていきそうでしょうか。

そう期待しています。創域と名が付く前から、そういう雰囲気はありましたが、これからますますそれが普通になっていけばと思っています。学生も、自分の分野はこれだと決めつけずに、モチベーションを高く持てるところを見つけて、そこで他の分野の人と出会い、育っていくというのは、とても素敵なことだと思います。分野間の垣根が低くなっていく出発地点に、いま立っているようにも感じます。

正直、学部名に「創域」とわざわざつけなくてもという気持ちもあったものの(笑)、垣根を取り払ってみんなで一緒にやろうという理念は、とてもいいなと思います。「創域」を冠した学部がこれからどうなっていくかは、教員次第でもあり、学生次第でもあると思います。学部の名前からみなが自然と創域という言葉を意識するようになることで、創域的文化が自ずと形作られていったらいいですよね。

――最後に、これから研究者を目指す人や、創域理工学部に興味を持っている人へメッセージをお願いします。

私自身は大学時代、できるだけ楽して大学を卒業したいと考えているような学生でした(笑)。でも、面白いと思う研究に出会ってからは、本当に楽しいと思えるようになりました。一般に研究というのは、いままで誰もやったことがないことや、誰も思いついていないこと、または、思いついても実際にやった人はいないことなどが対象となるわけですが、やはりそういう未知なところを自分で切り開いていく楽しさというのは格別ですね。少しでも興味ある人は是非、研究への扉をたたいてほしいなと思います。

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