東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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宇宙を可視化し地上でも有用なX線天文学の技術とは―先端物理学科・幸村孝由教授に聞く―

長年X線を利用して天体を観測し宇宙の謎を解き明かすことを目指してきた幸村教授。その技術や知見は宇宙のみならず地上においても活躍の場を広げつつあります。ご自身の研究について、また創域の重要性についてお聞きしました。

X線を利用して天体を観測し、宇宙の謎を解き明かすことを目指すX線天文学という学問があります。この分野を専門とする幸村教授は、天体の観測を行うとともに、観測のための機器の開発に長年携わってきました。その中で磨き上げてきたイメージセンサの技術や知見はいま、宇宙のみならず地上においても活躍の場を広げつつあります。そうしてまさに「創域」的に多分野を融合させてきた幸村教授に、ご自身の研究について、そしてなぜ創域が大切なのか、聞きました。

幸村孝由(こうむら たかよし)1997年 大阪大学 理学部 宇宙・地球科学科卒業、2002年 大阪大学理学研究科 宇宙地球科学専攻 博士課程 修了。博士(理学)。日本学術振興会 特別研究員(PD)、工学院大学工学部 共通課程准教授、東京理科大学理工学部物理学科 准教授などを経て、2019年4月より現職。

X線によって、知られざる宇宙の姿を観測する

――幸村先生の研究の概要を教えてください。

私が専門とするのは宇宙物理の分野の1つであるX線天文学です。天体が放出するX線という光を測定することで、天体の物理現象などを明らかにしようという分野です。普段私たちは、夜空の星などを見る時、天体が放出する可視光線(=通常「光」と呼ばれるもの)によって見ていますが、天体は、電磁波の1つである可視光線だけではなく電波、赤外線、紫外線、さらにX線も放出しています。その天体が放射するX線を観測すると、可視光線によっては知ることができない天体の現象を知ることができるのです。

ちなみに、天体が放射するX線は、地球の大気で吸収されてしまうため、可視光線のように地上の望遠鏡では観測することができません。そのため、X線を観測するための専用の観測装置を搭載した人工衛星で観測を行っています。

観測対象となるX線を放射している天体はいろいろありますが、特に重要な観測対象となるのは極端な環境下の天体です。

具体的には、数百万度から数億度に及ぶ超高温の電離したガス(プラズマ)からなる超新星残骸や銀河や銀河団、半径が地球の1/1000のちっぽけな星ながら質量が太陽と同じくらい重たく超高密度で、さらに100億テスラもの超巨大な磁界を持つ中性子星、地上の10億倍以上の超巨大な重力を持つブラックホール、さらに光速に近いスピードでブラックホールが放出しているジェットと呼ぶプラズマなどです。

実は、身近な星である太陽には、可視光線で輝いている光球より少し外側には,200万度のコロナというプラズマの層があり、太陽もX線を放射しているのです。このような極端な環境下にある天体が放射するX線を測定することによって、地上の実験環境では再現できない極限環境がどのように生まれたのか、また、そこではどんなことが起きているのかということを研究するのがX線天文学です。

――X線天文学において、先生ご自身はどのような研究をされているのですか。

私は、上記の天体の中でも中性子星やブラックホールの研究を行っています。また、最近では、観測するための機器の開発に多くの時間を使っています。その一つが、X線CCDという半導体製のイメージセンサ(=光を検知して電気信号に変換する装置)です。CCDの内部の空乏層と呼ばれる領域にX線が入ってくると光電効果という現象によって電子が発生し、それによってX線が測定できるという仕組みのものです。

1993年に日本が打ち上げたX線天文衛星「あすか(ASCA)」に、日本の大阪大学や米・マサチューセッツ工科大学のチームが開発したX線CCDが初めて搭載されて以来、X線CCDはいまやX線天文学に欠かせないものになっています。私自身は大学院の学生だった1997年からX線CCDの開発に関わり、以来20年以上、他大学の研究者や企業の方とともに、CCDの研究・開発を続けてきました。

開発したX線CCDがいま宇宙に!

――X線CCDはこの20年ほどの間にどのように進化してきたのですか。

X線CCDの開発において重要なことの一つは、いかに電気ノイズを減らすかということです。X線CCDでは、X線の光電効果によって電子が発生する以外に、他の理由でも電子が発生し、それが測定を不正確にする要因となるからです。その電気ノイズを十分に少なくするためにはCCDを冷やす必要があり、今では私たちはマイナス100度くらいまでCCDを冷やして使っているのですが、電気ノイズを減らすための様々な技術がこの20年くらいの間の少しずつ高まり、改良されていったということがあります。

またもう一つ重要な進化は、分厚いCCDを作れるようになったことです。CCDは一般のカメラなどに使われていますが、そういった民生品の場合、厚さは1/100mmくらいです。しかしこのくらいの厚さだとX線は貫通してしまい、光電効果を起こしません。X線を測定するためには、さらに分厚いものを作る必要があるのですが、100倍近く厚いものまで作ることが可能になったのも、長年研究されてきた結果だと言えます。そして厚みを持たせることによって、エネルギーの低い(波長の長い)X線だけではなく、エネルギーの高いX線まで幅広く測定できるようになりました。

――2023年9月7日打ち上げが成功したX線分光撮像衛星「XRISM」にも、幸村先生が開発に携わられたX線CCDが搭載されていると聞きました。

そうなんです。XRISM衛星は、高温プラズマ天体を詳細に観測し、プラズマ中にどんな元素が、どんな温度で存在するとか、プラズマがかき混ぜられているとしたら、どんな速度を持っているとか、さらに、満月を一度に全て観測できるくらいの広い視野で、超新星爆発、ブラックホールのフレア、中性子星のバーストといった突発天体などの観測が可能であるという特徴を持った宇宙望遠鏡です。

私の研究室では、X線用の宇宙望遠鏡で最も広い視野を持つことが特徴のCCDカメラを開発しています。その開発において私たちが行ったことの一つは、CCDに貼るアルミニウムの設計です。CCDはX線のみならず可視光線によっても光電効果を起こすので、X線を正確に測定するためには、可視光線を遮らなければなりません。

そのために今回は、表面にアルミを貼ることにしました。まずは私たちがその厚みを決め、共同開発をしている企業に試作してもらう。そして実験をして、実際に可視光線が遮られているかを確かめます。その結果を見て、また厚みや貼り方などを調整して、試作してもらって実験する。その工程を繰り返しました。また、開発したX線CCDを茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構に持っていき、いろんなエネルギーのX線を照射して、必要な性能が得られているかの確認なども行いました。

宇宙だけでなく医学にもいかせるイメージセンサ

――時間をかけて開発されたX線CCDが実際にこれから宇宙で観測をするのはとても楽しみですね!X線CCD以外で開発されているものについても教えてください。

2030年代に打ち上げを目指している「JEDI衛星」に搭載される「XRPIX」というX線イメージセンサを開発も行っています。こちらでは、CMOSという、CCDとはまた違った特徴を持つイメージセンサになります。例えば、研究対象の1つであるブラックホールは、1/1000秒や1/100秒という短い時間の中で急に明るくなったり暗くなったりすることが知られているのですが、それがなぜそのような変動をしているのか突き止めるためには高速で撮影できるX線観測用のセンサが必要になります。そのような高速観測はCCDでは難しいため、1/1000秒の高速観測が可能なCMOSに着目し、複数の大学の研究者や半導体メーカーとともにいま開発に取り組んでいます。

私たちの研究室では、特に、センサを宇宙空間の過酷な環境から守るための構造を作る、という部分を担っています。宇宙にはX線のような電磁波だけではなく、プロトン(陽子)や電子などのエネルギーの高い粒子(宇宙線)が飛び交っていて、それらがセンサーに照射することで、エネルギーの識別能力が劣化したり、時には故障して使えなくなります。

そこで、実際に宇宙で使用するには、宇宙線に対して耐久性のあるセンサを作る必要があるのですが、耐久性を評価したり、より耐久性の高いセンサーに改良することが、我々の研究室が得意としていることでもあるからです。具体的には、センサをより頑丈にするために、核となる半導体材料にどういう素材をどれだけのイオンを注入すれば良いかをシミュレーションし、設計する。それをメーカーに作ってもらって実際に実験して評価する、ということをループさせている感じですね。

この他にも私たちは、イメージセンサを利用して宇宙線を測定する装置も作りたいと考えています。いま、NASAが主導で、「アルテミス計画」という月周回の宇宙ステーションや月面基地を造る巨大なプロジェクトが進められているのですが、その際、宇宙飛行士が強い宇宙線に晒されて被ばくする可能性が懸念されています。そのため、宇宙飛行士が行く場所における宇宙線の量を測定し、被ばく量を予測するために、私たちの開発するイメージセンサを使えるのではないかと考えて、いま開発を進めているところなんです。

――天体の観測から宇宙飛行士を守ることまで、イメージセンサは、いろいろな可能性を秘めているのですね。

じつはさらにもう1つ、全く違う用途もあるんです。それは医療です。核医学という分野があり、最近、アルファ線という放射線が、がん細胞に対して強い殺傷能力を持っていることがわかり、それを治療に生かす研究が進んでいます。どうするかと言えば、まずはアルファ線を放出する物質を、がん細胞の周りに集まりやすい薬剤に植えつけて注射する。するとその物質ががん細胞の近くに集まり、がん細胞を殺してくれることが期待できるのです。

ただその際、その物質が本当にがん細胞の周りに集まっているかを確かめる必要があり、そこで私たちのイメージセンサが活用できます。その物質はアルファ線以外にもX線やガンマ線を放出し、それらの放射線が体の外にまで突き抜けてくるため、それをイメージセンサで検知できるからです。この研究は、国立がん研究センターと東京大学とともに進めており、イメージセンサが医療にも貢献できる可能性があるというのは自分にとっても嬉しいことでした。

早いうちから「創域」の意識を持てるように

――今年4月から創域理工学部に改称しました。先生のご研究は、いま伺っただけでもかなり創域的であるのを感じますが、「創域」について、いま思うところをお聞かせください。

私自身、たとえば、自分たちのイメージセンサがX線や可視光線だけではなく赤外線にも感度があると思うと、赤外線のイメージングをしている人たちと何か面白いことができるのではないかなと考えて、すぐ相談したりします。そして、赤外線を使った内視鏡を開発されている他学科の先生と、内視鏡に私たちのイメージセンサを使ったら普通には見えにくいがんも見えるようになるかもしれないという話になり、企業にも相談しながら、一緒に共同研究を始める準備を進めているところなんです。

そのように、教員同士の間でもいま、互いに交流しながら何か新しいことに取り組んでいこうとする雰囲気ができてきているのを感じます。2017年に理工学部で横断型コースが始まってそういう意識が芽生え、今年、創域理工学部となってやはりそうした機運が教員の間でもますます高まっています。その意識はきっと、学生の間にも広がっていくだろうと思っています。

――学生たちの間でも創域的な感覚というのは共有されてきていると感じられますか。

そうですね。ただ現状では、4年生になって研究室に配属されたくらいでようやく、その大切さを実感しているようにも感じます。従来の3年生までの学びでは必ずしも十分にそこに意識を向けられなかったかもしれません。そこで創域理工学部では、その意識を1年生の段階から持てるようにと、いろいろと仕組みを作っています。その一例が創域特別講義です。

この講義では、本学部の全学科の教員がそれぞれの専門分野における創域について話すのですが、これを新入生全員が受講します。話を聞くだけではなく、所属学科の異なる学生同士でのグループ学習もあり、ぜひこうした場で創域の芽を育てていってほしいと思っています。私は去年この講義で、宇宙って創域だよ、と学生たちに伝えました。学部全体の現在の取り組みが今後どう学生たちを変えていくか、楽しみです。

――いまは時代的にも、益々分野横断的なことが大事になっていると感じます。

それは間違いありません。医療を例にしても、医学の人たちだけではなく、薬学、化学、そして我々のような物理系の人材や、多くの患者様の画像から病気の原因となる情報を抽出するにはビッグデータやAIを専門とする情報系の人の知識や技術が必要になっています。それは宇宙も同様です。そのようにいまは、何か最先端のことをやろうとしたら、複数の分野の知識や技術を融合させることは必須です。また、分野を横断・融合することで、これまで解決できなかった問題解決の糸口やアプローチ方法が見えたり、あるいは、新たな問題や課題に気づくなど、新しいものを産み出される、つまり創域ということが、色々なところで今後もさらに誕生していくと考えています。

その意味で、これまで通り自分の専門分野に精通することに加え、研究や学問領域を横断して物事を俯瞰して見ることができるようになることは重要ですし、そのようなことに早く気づき、着手することはとても大切だと思っています。

広く学ぼうとする姿勢を大切に

――最後に、高校生など若い世代に伝えたいことを、改めてお願いします。

繰り返しになりますが、宇宙にしても医学にしても、1つの研究分野だけで全て理解できたり、解決できたりする時代ではありません。これまで異分野と考えてきたような分野の知識や技術が、ますます求められる時代になっています。

そうした中で、自分はこれだけ知っておけば良いということはありません。分野を横断していろんな人とともに仕事、研究をすることが必須で、そのためにも、違う分野のことをある程度、理解する力が必要になります。それは勉強でいうなら、1つの科目だけに絞らずに、いろんなことを広く学ぼうという姿勢が大事ということになります。

高校生でいうと、数学だけ得意とか物理だけが得意というのは、それはそれで強みを作るという意味では大切ですが、いずれいろんな知識が必要になります。だから高校生のうちからできるだけ、自分の強みとなる分野も磨くことに加えて、いろんな科目を勉強してほしいと思います。そういう姿勢で頑張って勉強して、大学入学後には、ともに新たな世界を探求していけたらと思います。

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