東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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構造物の安全性を知るための計測方法を探る―社会基盤工学科・佐伯昌之教授に聞く―

佐伯教授は、私たちの生活において欠かせない道路、橋梁、トンネルなどの構造物の安全性をモニタリングするための技術を開発しています。具体的にどのような研究をされているのか、「創域」への思いも含めてお話を聞きました。

道路、橋梁、トンネルなどの社会基盤となる構造物は、多くの人に長期にわたって使われます。そのため、破損したりすれば甚大な事故へとつながります。異常がないか、安全性に問題がないかを、常にモニタリングできるようにすることが理想です。
近年、MEMSやネットワーク技術の発展によって、それを実現するための手段が整ってきました。佐伯教授は、そうした背景のもと、私たちの生活において欠かせないさまざまな構造物について、その安全性をモニタリングするための技術を開発しています。具体的にどのような方法で行うのか、研究はどのように進むのか。「創域」への思いも含めて、聞きました。

佐伯 昌之(さえき まさゆき) 1998年 東京理科大学理工学部土木工学科卒業、2003年 東京大学工学系研究科社会基盤工学 博士課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、東京理科大学理工学部土木工学科准教授などを経て、2018年より現職。

振動などの計測によって見えてくる構造物の安全性

――先生の研究の概要を教えてください。

私は主に、さまざまな社会基盤構造物について、その状態や安全性を知るための計測を行っています。対象はいろいろですが、たとえば橋などの場合もあれば、いま共同研究でやっているのは送電鉄塔や、高速道路で見かける道路情報板などです。

そうした構造物が、風などで振動するときの加速度を計測したり、または地震によって構造物が変形した場合には、どのくらい変位し、傾斜しているかを測ったりします。そして得られたデータを知りたい情報に変換し、異常検知などに役立てるのです。計測するための装置を作るという部分も研究の中に含まれています。

――実際にどのように計測を行い、そこから何がわかるのか、何か一つ具体的な対象を例に、教えてください。

では、例として道路情報板の場合について説明します。道路情報板というのは、高速道路で渋滞の状況や交通事故の発生を伝える電光掲示板などのことですが、重さが2トンぐらいあったりして、倒れてきたらとても危険です。そのため、安全性を確認しておく必要があるんです。

道路情報板としては、1本の支柱の上方に、情報板の片側だけが固定されたものをよく見かけます。この形式の支柱をF型支柱といいますが、この場合、全体を支えているのは支柱の根元の基礎と呼ばれる部分です。そのため、その基礎の健全性が重要になります。その部分に損傷がなければ、風などで揺れた場合に、支柱はビーンと速く振動します。一方、その部分が損傷して接合が弱くなると、支える力が失われて振動が遅くなります。つまり、その部分の振動の速さがどう変わったかを調べることで、危険な状態にあるかどうかがわかるのです。私たちは現在、そのような考えのもと、振動時の加速度、速度、変位を自動でモニタリングして、異常があれば通知するような仕組みを開発しています。

ちなみに、この場合に着目するのは主に固有振動数になります。固有振動数というのは、その物体が揺れやすい振動数のことで、車が通ったり、風が吹いたりすると、道路情報板は概ね固有振動数で揺れます。振動の加速度を測ったとき、そこに含まれる主たる周波数成分が固有振動数であるため、それを測り、変化している場合には、構造物の健全性が低下したと推測できるというわけです。

技術の発展によってモニタリングの可能性が拡大した

――振動を測って構造物の状態を知るという方法は、以前からありそうにも思ったのですが、これは新しい方法なのでしょうか。

振動を測って構造物をモニタリングしようという考え方自体は古くからあり、私もよく知りませんが,1960年代にはすでに研究されています。しかし、実際のあらゆる構造物に対してそのようなモニタリングができているかというとそうではありません。どのような装置をどこにどうつければ健全性が分かるかは、構造物によっても、または建てられた環境によっても異なるため、容易にはわかりません。また、計測装置のコストの問題もあって、そう簡単にできることではないからです。

そうした中で一つのブレイクスルーとなったが、2010年代に、極小の加速度センサが安価で手に入るようになったことです。MEMS(=微小電気機械システム)技術の発達によって、電子基板の上に載せられるような小さなセンサが大量生産できるようになり、いろんなところで大量に使われるようになった。そのため一つあたりのコストが格段に下がり、かつ品質も安定してきたのです。センサの消費電力が低くなったのも、電気が使えない建設現場での使い勝手をよくするという意味で、とても大きな変化でした。さらに同時期に、小電力の無線センサーネットワークの技術も発達してきたので、それと加速度センサを組み合わせることで、必要なデータを効率的に回収するシステムが構築でき、構造物のモニタリングがより行いやすい環境が整ってきたのです。

――技術面が整備されてきたことで、必要な計測ができるようになってきたのですね。では、実際に研究の中でされることは、微細なセンサをどこにどうつけて何を測れば必要な情報が得られるか、ということを具体的な構造物について考えていく、ということになるのでしょうか。

基本的にはそういうことになります。私は通常、企業の方から、個別の構造物について「どのように計測すれば異常検知ができますか」といった相談をもらうことから仕事が始まります。そこでまずは現場がどうなっているかをヒアリングしたり、一度実際に計測をしてみたりして、その構造物について知っていきます。そして、コンピュータ上にそのモデルを作り、シミュレーションを行います。つまり、このような揺れが起きたら、どこがどのように振動し、どのような危険が生じるかといったことを把握するのです。すると、ここに計測装置をつけて、この部位の加速度をモニタリングすれば異常が検知できるだろうといったことが言えるわけです。ただ実際の現場では、シミュレーションのように自由になんでもできるわけではないので、現場の状況を見ながら、最適な方法をさらに詰めていくということになります。

――なるほど、コンピュータ上でのシミュレーションと実際の計測との両方を行いながら、進めていくのですね。

はい。加えて、計測装置を作ったり、計測の精度検証をしたり、データの解析なども行います。そういう意味で、かなりいろんなことを自分でするため、電子回路、センサ、シミュレーション、力学、構造物……と、いろいろな分野の知識が必要になります。それらをバランスよく理解していないと、知りたい情報を得るためには何を測ればいいかということは導き出せないし、実際に測定することも困難です。

創域には、それを支える”技術屋“も必要である

――幅広い知識が必要となる分野とのことですが、とするとやはりいろんな分野の人との協力、つまり、「創域」的な視点も重要になりますでしょうか。

私の場合、他の分野の研究者と一緒に研究を進めていくということはあまり多くありません。というのも、自分の師匠が、複数分野の人が協力して何かを達成する場合には、一人の中にいろんな分野の知識を持っている人が必要だという考えで、自分自身もそのような人物になりたいと考えているからです。

必要なことがあれば、自ら勉強するなり、人に聞くなりしてできるだけ自分でやってみること。学生たちにもそのように伝えています。研究の一部を誰かに任せた瞬間に、自分にはわからないところが出てきてしまい、それは研究する上で決していいことではないからです。

「創域」は、読んで字のごとく、新しい領域を創り出していくこととイメージしていますが、私自身は率直なところ、創域的な人間ではないと思っています。自分は技術屋です。つまり、こういう問題を解決したいという人がいたら、その人に必要な技術を生み出し提供してくのが自分の仕事だと考えています。企業の人や他の研究者から、「こんなことができたらすごいと思わない?」といった話が来たら一緒にやるということはありますが、自分から、あの人と協力して新しい領域を作ろうと考えるタイプではないんです。

しかし一方、創域ということを進めていく上で、10人が10人「新しい領域を作っていきます」と考えていればいいかと言えば、そうではないと思います。野球で全員が「おれが4番を打ちたい」と言ってもいいチームはできず、他の役割を担える人間が必要であるように、創域を進める場合には、私みたいな人間も必要だと思うんです。誰かが何かをしたい時に、それを一緒に達成できる技術を生み出す人。そういう人間がいてこそ、創域が実現できるのではないかとも思っています。

――おっしゃる通りだと思います。創域を現実のものとするためには、それを技術的に推し進める人が常に必要ですよね。

先ほど、構造物のモニタリングも、古くから研究はされてきたものの、実際に有効な方法はなかなか確立されていないことをお話しました。それがMEMSや無線ネットワーク技術の発展によってぐっと進展したように、新しい領域が社会に実装されるようになるには、それを推し進める技術者が重要な役割を果たしていると思っています。自分はそういう裏方的な立場で、創域に貢献できたらと考えています。

人との交流は大切にしつつ、研究はできるだけ自分の力で進めていく

――佐伯先生にとって研究の楽しさや魅力というのはどのようなことでしょうか。

人ができないことをできたときや、誰にもわからない現象を突き詰めて理解できたときというのはやはりすごく快感ですよね。また、大学で研究している身としては、毎年、自分の研究室に新しい学生が入ってくるのが、毎年新しい友達ができるという感じで嬉しいですね。一緒に研究して、ああでもない、こうでもないって言いながらゲラゲラと笑い合っている時間はすごく楽しいなって思います。

そして補足すると、一人で研究を進められることが大切だと言いましたが、他の研究室や他の学科の学生が自分に何か聞きに来たり、自分の研究室の学生がわからないことを他の先生に相談にいったり、ということはとてもいいことだと思っています。創域[1] 理工学部はそれがしやすい空気があるなあと感じていて、それは「創域」の実現にとって大事だと考えています。

――最後に、研究者を目指す若い人へ、メッセージをお願いします。

「あれ、なんでだろう?」って思ったら、自分ですぐに調べたり試したりする、ということを意識してみてください。何でも自分で触って、試して、失敗してみる。そうしないとわからないことがとても多いし、人任せにしてたのでは重要なところを見落とす可能性がある。そういうことを日頃から意識して行動していけば、研究者になったとき、きっと大きな力になるはずです。

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