東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

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中・大規模木造建築物の防災・減災を確かなものにするために、大学と企業が連携する――「実践建築構造工学講座」が目指すこと

株式会社フジタと共同で研究を進めてきた免震構造や制振構造の技術、木造建築等における防災・減災技術について、そして今後この分野を支えていく人材を積極的に育成するために「実践建築構造工学講座」で行っていることについて語っていただきました。

東京理科大学では、民間企業や研究機関等の学外機関と連携して行う「社会連携講座」を開設しています。創域理工学研究科においては、2022年度に始まった「eモビリティ理工学講座」に続いて、2023年度から「実践建築構造工学講座」を開設しました。連携先は、大和ハウスグループの総合建設会社、株式会社フジタです。

近年、カーボンニュートラルや環境保護、SDGsの観点から、建築分野でも木材の更なる利活用が期待されています。海外ではすでに、欧米を中心に中・大規模建築物の木造化が進められており、高層木造建築物も実現しています。一方、日本では、防災の観点から、中・大規模建築物への木材の利用はこれまで色々な規制がありましたが、近年、法改正も進み、今後、中・大規模建築物の木造化・木質化が進んでいくと考えられます。そうした背景の中、東京理科大学とフジタは、以前から共同で研究を進めてきた免震構造や制振構造の技術に加え、中・大規模木造建築等における防災・減災技術をさらに深め、今後この分野を支えていく人材を積極的に育成するべく、「実践建築構造工学講座」を開設しました。本講座の内容、そして目指すことなどについて、担当教員の一人である本学の大宮喜文教授と、株式会社フジタの馮徳民さんに語っていただきました。

大宮喜文 創域理工学研究科 建築学専攻 教授 東京理科大学理工学部建築学科卒業、同大理工学研究科建築学専攻博士課程修了。キングストン大学ロンドン火災爆発研究センター客員教授、アルスター大学火災安全工学技術研究所客員教授などを経て、2011年より本学理工学部建築学科教授(2023年4月より現職の名称へ)。専門は建築火災安全工学など。

馮徳民(ひょう とくみん) フジタ技術センター地質基礎研究部 主席コンサルタント 同済大学土木工学科卒業、東京都立大学工学研究科建築学専攻博士課程修了。1992年に株式会社フジタに入社。専門は免制震、設計用入力地震動技術など。

「寄附講座」から「社会連携講座」へと連携が進化

――創域理工学研究科としては、社会連携講座として「eモビリティ理工学講座」に続いて、2023年度に「実践建築構造工学講座」が開設されました。この講座の開設の経緯を教えてください。

大宮:株式会社フジタとは、私自身が研究を通じて以前からつながりを持っていたことなどをきっかけとして、2017年度から、「寄附講座」(=企業などの外部組織から寄附された資金や人材を活用して研究や教育を行うこと)という枠組みを活用して、教育と研究の両方において協力関係を築いてきました。そうした中、本学では2022年度に「社会連携講座」が、教育と研究を両輪として企業と連携できる制度を整備しスタートしました。今後、寄附講座で行ってきた教育や研究の内容をさらに充実、発展させていくために社会連携講座の制度を活用し進めていくことにしました。


寄附講座のころは、大学側の担当教員は私1人でしたが、社会連携講座になってからは、本学側は私の他に3人の建築学科教員(宮津裕次准教授、永野正行教授、衣笠秀行教授)にも加わっていただけました。また、フジタ側も、複数の方のご協力を得ながら進めていく体制を整えることができました。その結果、まず、学生への教育がより多面的に行える体制となりました。また、研究の内容についても、これまでは主に免震技術に関する研究を進めていたのですが、社会連携講座になって、免震技術の研究に加えて、中・大規模木造建築物のための防災・減災技術に関する研究を、新しい講座の軸としていくことになりました。

――中・大規模木造建築物のための防災・減災技術に関する研究、を新しい講座の軸とした背景を教えてください。

大宮:カーボンニュートラルの実現やSDGsの重要性が広く共有されてきた中で、建築分野ではいま、木造建築物への関心が高まっています。欧米では高層木造建築物も実際に建てられています。一方日本では、平屋建てや2階建ての木造建築物は多く建てられてはいるものの、地震などの災害大国であるだけに、中・大規模木造建築物に対する地震や火災に関する法規制が厳しく定められていました。しかし近年、法改正が進み、中・大規模木造建築物も建てられるよう、規制が合理化されてきました。10年ほど前にまず公共の建築物が、そして2年ほど前にはさらに広く建築物全般において、中・大規模木造建築物が建てやすくなるように法改正が行われました。一方で、そのような建築物の防災・減災技術に関する課題はあると考えています。中・大規模木造建築物をこれから増やしていく上で、並行して、防災・減災技術をさらにしっかりと検討し、新たな技術などを確立し、安全性を確保していくことが重要だと考えています。そういう意識を本学とフジタで共有し、社会連携講座を立ち上げるにあたって、このテーマを軸としようということになりました。

連携によって学生の進路の選択が広がり、研究も深まる

――馮先生にお伺いします。フジタが、東京理科大学の寄附講座、社会連携講座に参画する意義や背景を教えてください。

馮:当社は、明治時代創業の建設会社として歴史と実績を持ち、また、かつてはJリーグのサッカーチーム、現在の湘南ベルマーレの運営にも携わっていたこともあり、広く名前が知られる会社でした。しかし近年では、以前ほど積極的な広告宣伝を行っていないこともあり、広く一般に認知されている企業とは言えません。そういったなかでも、東京理科大学の学生さんたちにフジタのことを知ってもらいたいという側面もあり、2017年から寄附講座を始めることになりました。その枠組みを活用して大学で講義を開講、大宮先生たちとも共同で研究を進めていたのですが、大学と連携を深める中で、学生さんたちにもフジタの名前が認知され、当社が就職先として選ばれるケースも増えてきました。そして、社会連携講座へと発展した現在、研究面はもとより、さらにいい繋がりを築かせていただいていると感じています。

大宮:馮先生たちは、寄附講座や社会連携講座の枠組み以外でも本学の教育に携わってくださっています。創域理工学研究科横断型コースの「防災リスク管理コース」にも参画いただいており、いまでは建築学科以外の学生にも広く、フジタの取り組むなどが知られていると思います。昨年はこのコースに所属していた学生がフジタに就職しました。色々なつながりができていますよね。

馮:様々な分野の学生に興味を持ってもらえる機会があるのはとてもありがたいことです。一方、東京理科大学との連携は、弊社の技術開発においても大きな力となっています。自分たちだけでは困難な課題がこの連携を通じて解決された、ということも少なくありません。

――東京理科大学と連携することで解決した課題というのは、たとえばどのようなものがありますか。

馮:直近の例で言えば、本講座の共同研究の一環として、海外で建設されている高層木造建築物の振動計測を実施しました。現状日本では、10~15階規模の木造建築物はほとんどないため、そのような建築物の性質を国内で知ることは困難です。一方、カナダには18階の木造建築物があり、今回、その建物の振動特性を、東京理科大学とともに計測しました。ある規模の地震に対してこのような建物がどのような特性を示すか、またこの強さの風に対してはどうか、といった貴重な基礎的データを、今回の計測で得ることができました。今後日本で同じような建物を建てるにあたって、このような計測で得られる知見はとても重要です。ただ、こうした計測を一民間企業だけで行うのはさまざまな面で困難です。今回は大学に主体となってもらうことで実行することができましたが、私たち企業にとっても大学側にとっても、とても意味のある機会になったように感じています。

――大学側にとって、フジタとの連携はどのような意義を持っているのでしょうか。

大宮:複数の学生が、大学で馮先生の講義などを通じてフジタという企業を知り、実際に就職にまでつながる例があるわけですが、企業の方から先端的な技術などについて講義などで紹介いただいたり、コメントをもらったり、一緒に研究を進めることは、学生にとって貴重な経験になりますし、社会の動向を知る機会にもなり、連携の意義を感じることができます。

一方、研究面について言えば、私自身も、フジタから防災・減災技術を社会実装する上での課題を見つけ出す上でご示唆いただくことがあります。フジタにはいまこのような課題があり、このように研究を進めている、といったことを連携を通じて知ることは、私自身の研究にとってもプラスとなっています。具体例を一つ挙げると、例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)技術です。フジタはDXに関して社会実装に向け、取り組んでいます。寄附講座時代には、DXをテーマにしたセミナーを一緒にやらせていただいたこともありましたが、実際の建物やインフラに対してどのようにDX技術を駆使していくのかといった点で、やはりフジタは実践的な経験を豊富に持たれています。私は、これまで基礎研究を中心とした研究スタイルだったので、技術をどのように社会実装していくかという点で刺激を受けることがあります。最近は、DX技術の社会実装にむけた研究も私にとって重要なテーマの一つになっています。

規制の合理化が進むいま、改めて防災・減災技術を追求する

――実践建築構造工学講座は、ひとまず2026年3月までとなっています。これからの約2年の間に達成したいこと、進展させたいことなどを教えてください。

大宮: やはり、軸となるテーマである、中・大規模木造建築物の防災・減災技術の研究をできる限り進めていくことです。フジタとの連携によって、基礎的な研究成果を積極的に、社会実装へつなげる実用的な技術へ展開させることができればと思っています。

また、先ほども話しましたが、今後、日本でも中・大規模木造建築物が建てられるようになっていくだろう中で、防火技術を向上させていく必要性があると考えています。防火分野の専門家として、木造建築物を増やしていく流れの中で、社会が防火に対する意識もしっかりと持てるように、課題を提示していくことが必要であると考えています。今年1月1日の能登半島の地震の大きな被害を見ても、その気持ちを新たにしています。防災・減災技術については、しっかりと考え続けなければなりません。

フジタは企業として、新しく建築物を建てインフラを整えていくということを今後も携わられていくわけですが、一方で、馮先生はご専門の一つが免震技術で、その技術に非常に精通されています。免震構造を建築物に採り入れることは法律上義務ではありませんが、地震が多い日本においては、法的な要求がなくとも免震構造を取り入れることを検討することは重要です。馮先生はそうした考えを大切にして、免震技術の研究を重ねてこられました。つまり、良質な建築物を社会に提供しようという研究を、企業の中で行ってこられたわけです。

馮:ありがとうございます。そうですね、大宮先生がおっしゃるように、木造建築物をどんどん建てていこうという流れの時だからこそ、私たちも、防火、防災の技術の重要性をしっかりと意識し、総合建設業として人々が快適で安心・安全な生活を送れる環境を創造していかなければと思っています。大学の力を借りて様々な課題を解決していきたく、特にその点は、大宮先生がこの分野の第一人者なので、非常に心強いです。

一方、同じく社会連携講座を担当されている宮津裕次先生は、免制震技術を長く研究されています。現在我々が実現しようとしている中高層木造建物においても、宮津先生のお力を借りながら、どのような技術を組み合わせればさらに十分な安全性を確保できるかを究明していきたいと考えています。

大学で学んだことがどう社会に実装されるかを学ぶ

――「実践建築構造工学講座」において、中・大規模木造建築物の防災・減災技術に焦点をあてることの大切さが改めて理解できました。最後に、この講座や建築分野に興味のある学生や若い世代の方たちに、メッセージをお願いします。

大宮:大学の教育は、特に理工系の分野を学ぶ場合は、当然ながら非常に専門性が高くなります。そのため建築を学ぶ際、教科書や参考書を使って机上で学ぶことが多くありますが、創域理工学部建築学科ではできるだけ、教科書などで学んだことを自分で体験してもらえるような実験や演習などの講義を積極的に採り入れるようにしています。建築学科の材料防災系の分野では、実際にコンクリートを潰したり、木材を燃やしたりして、五感をフル活用して学べる教育を採り入れています。ただそれでも、学んだ技術や理論が実際の建物にどう活かされているか、社会にどう実装されているかを理解しようと思えば、どうしても通常の授業だけでは限界があります。それゆえに、実践建築構造工学講座のような場がとても重要になると思います。 フジタは実際に日頃建物を建てています。最先端の技術を含めて、大学の中で学んだ技術が実際にどう活かされて建物ができているのかを、ぜひこうした講座を通じて学生たちに学んでほしいです。自分が大学で身に付けた知識は、このように社会の中に展開していけるんだということを感じ取った上で、その先の進路を考えていってもらえたらと思っています。

馮:同感です。私たちと一緒に学び、研究してもらうことで、大学で勉強した技術がどのように社会で使われているかの理解が深まれば、この連携講座をやる意義があると思っています。その一方、大学でしか学べないこともやはり多くあるので、「自分はここをもう少し深く勉強したい」と思ったら、大学にいる間に、その専門の先生にしっかりと教えてもらうのがよいと思います。この講座が、そうした学びのきっかけになったらうれしいですね。

大宮:本当にそうですね。それから、現在の大学の取り組みを補足すると、2023年4月、学部・研究科名称が創域理工学部・創域理工学研究科に改称され、同時に創域理工学研究科の傘下に「サステイナブルアーバンシティセンター(CSUC)」が立ち上がりました。このセンターは、「大学・企業・自治体が学問分野の垣根を取り払って融合していくこと」を目指して様々な活動を展開していくための組織です。フジタとの「実践建築構造工学講座」も、CSUCの活動とも絡めて展開していきたいと考えています。ぜひ、CSUCの今後の活動にも注目していてください。

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