東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

Translated by shutto翻訳

当サイトでは、機械的な自動翻訳サービスを使用しています。

日本語English中文(简体)中文(繁體)한국어

次世代の電磁波「テラヘルツ波」を活用するための集積回路を開発する―電気電子情報工学科・高野恭弥准教授に聞く―

多くの情報が運べるといった性質に加え、近年の技術の進歩でその利用の可能性が広がってきたと言われている「テラヘルツ波」。その価値や難しさについて、そしてその中で生かされる「創域」的な意識について高野准教授にお聞きしました。

近い将来、いま以上に膨大な量の情報が行き来するようになると言われています。その際に、現在の電波に代わって役割を果たすことが期待されているのが「テラヘルツ波」です。周波数が高く、多くの情報が運べるといった性質があることに加え、近年の技術の進歩でその利用の可能性が広がってきたためです。高野恭弥准教授は、このテラヘルツ波を通信やセンシングへと利用できるようにするための集積回路の研究を行っています。テラヘルツ波を利用する集積回路はどのように作られるのか。その価値や難しさはどのようなところにあるのか。そしてその中で生かされる「創域」的な意識とは。高野准教授に聞きました。

高野 恭弥(たかの きょうや)2006年東京大学工学部電子工学科卒業、2011年東京大学 工学系研究科電気系工学専攻博士課程 単位取得満期退学。広島大学大学院先端物質科学研究科研究員、同特任助教を経て、2018年に東京理科大学理工学部電気電子情報工学科助教へ。2022年より現職。

光と電波の”間”にあるテラヘルツ波とは

――高野先生の研究の概要を教えてください。

私が専門としている分野は主に、集積回路工学とマイクロ波工学です。集積回路工学は、パソコンやスマホなどに入っている小さな電子部品である集積回路の技術を研究する分野で、マイクロ波工学とは、マイクロ波といった比較的周波数の高い電磁波にかかわる技術を研究する分野です。その両分野を組み合わせる形で近年私が行ってきたのが、高周波の電磁波を利用した集積回路の研究です。より具体的には、テラヘルツ波と呼ばれる電磁波を使った集積回路(超高周波集積回路)を実現し、通信などに使えるようにするための研究を行っています。

――テラヘルツ波とはどのようなものですか?

テラヘルツ波は、現在通信などに使われている電波や、いわゆる光と同じく、電磁波の一種です。周波数がこれまでの電波より高く、光よりも低い、概ね300GHz~3THzあたりの周波数領域に入る電磁波のことを指します。光学で扱うには周波数が低すぎる一方、電子工学で扱うには高すぎるとされてきたため、これまであまり研究されてきませんでした。しかし近年の技術の進歩で、光学と電子工学の両方からこの周波数領域にアプローチすることが可能になり、様々な分野への応用が期待されるようになりました。私たちは、このテラヘルツ波を利用した通信用集積回路とセンサを作ることを目指しています。

テラヘルツ波で通信ができる集積回路を設計する

――テラヘルツ波を利用して通信用集積回路やセンサを作ることには、どのような意味や利点があるのでしょうか。まずは通信用集積回路(以下、テラヘルツ通信用集積回路)の方から教えてください。

テラヘルツ通信用集積回路を研究する背景から説明しますね。現在のスマホで用いられている通信システムの次の世代、すなわち、第6世代移動通信システム(6G)では、「サイバー・フィジカル・システム」と呼ばれるシステムの実現が目指されています。これは、世の中のあらゆる情報をサイバー空間に蓄積して第2の世界を作り、そこで様々な解析を行うことによって現実世界の問題を解決しようというものです。このシステムを実現するためには、膨大な量の情報を扱う必要があります。そのために、これまで通信に使われてきた電波よりも高い周波数の電磁波を利用できるようにすることが求められています。周波数が高い電磁波ほど、たくさんの情報を運ぶことができるからです。その候補となっているのが、テラヘルツ波にあたる300GHzあたりの周波数帯なのです。テラヘルツ波が候補となっているのは、その周波数領域が持つさまざまな物理学的特性に加え、テラヘルツ波はまだ用途が決まってなく、通信への利用に割り当てる余地があるからということも大きな要因になっています。

――なるほど、背景はよくわかりました。では、テラヘルツ通信用集積回路を作る研究というのは、具体的にはどのようなことを行うのでしょうか。

集積回路は、シリコンなど、半導体と呼ばれる物質でできた数ミリ~十数ミリほどのとても小さなものです。それは、薄く切り出した半導体の表面を光学技術や成膜技術によって加工することで、その表面上に、トランジスタ、コンデンサ、抵抗、などとして機能する構造を作り、回路として働くようにすることで作ります。その加工作業自体は、回路の設計に従って専門の業者に依頼してやってもらうので、私たちが研究室で行うのは、主に回路の設計の部分です。つまり、トランジスタやコンデンサといった電子部品を組み合わせてどのような構造を作れば目的に合う回路ができるのかを考え、その設計図を作る、ということになります。

その際、まず決めなければいけないのが、材料の半導体を何にするかです。半導体にはいろいろな種類があるからです。候補は大きく2つに分かれ、シリコンからなる半導体(Si CMOS半導体)か、2種類以上の元素からなる化合物半導体かのどちらかになります。一般に化合物半導体の方が動作速度が速いため、高速通信の集積回路を作るのには適しています。そのため、高周波の電磁波を扱う回路を実現する場合、通常は化合物半導体が選ばれます。しかし私たちは、Si CMOS半導体を使うことにしました。というのは、Si CMOS半導体は、大量生産に向いているということに加え、アナログとデジタルの両方の集積回路が作れるという、化合物半導体にはない利点があるからです。私たちが実現しようとしている通信用集積回路には、その両方の性質がどうしても必要なので、動作速度が遅くともSi CMOS半導体を選ぶことにしました。

――動作速度が遅い、という点は問題にはならないのでしょうか。

いや、やはりなります。じつはそこが最大の問題で、その点を解決するために、回路設計においていろいろな工夫をする必要が生じます。通信用集積回路においては、電波を送信するときも受信するときも、微弱な電波を増幅する増幅器が重要になるのですが、半導体の動作速度が遅いと、この増幅器が作れなくなってしまうんです。しかし私たちはそこであきらめず、回路設計の工夫によってなんとか解決するべく研究に取り組んでいます。 一方、周波数が高くなると、回路内で信号が伝わる速度や、信号がどう広がるのかも考えないといけなくなります。そのため私たちは電磁界解析ということもやっています。その辺りも、テラヘルツ通信用集積回路を作る際に特徴的なことと言えます。

高野先生の研究室で開発中のテラヘルツ通信用集積回路の設計例

通信機にはフェーズドアレイ型のアンテナを搭載

――実際にしなければならないことは、とても複雑そうですね。ちなみに、最終的に高野先生が目指されるテラヘルツ通信用集積回路の完成形があるとすると、現状でどのくらいの段階まで来ているイメージでしょうか。

そうですね、実用化までにはまだだいぶ道のりはありますが、目指す機能を持つ集積回路をひとまず形にするまでの道のりとしては、現在で5割ぐらいまでは来ているのかなと考えています。

一方、実用化ということを考えると、電磁波を扱う集積回路以外の通信機用ハードウェアの開発も重要になります。その研究も、複数の大学や企業とともに現在並行して進めています。先ほど言ったように増幅器が使えないため、テラヘルツ波の電波をできるだけ無駄なく狙ったところに飛ばす必要があるのですが、そのためにフェーズドアレイという技術を使う研究をしています。簡単に言うと、アンテナを並べて、電波を出すタイミングを少しずつずらすことで、電波を飛ばしたい方向だけ強め合うようにする、という技術です。この技術を使うと、狙った方向にだけ強い電波を送ることができるため、増幅器がなくとも通信ができるようになるんです。

フェーズドアレイの図

――テラヘルツ集積回路の開発と、ハードウェアの開発という別の研究を並行して行っていることになるのですね。

テラヘルツ集積回路の開発とハードウェアの開発とでは、異なる研究にはなりますが、両者は密接につながっています。フェーズドアレイを実現するためには、電磁波が持つ「位相」という要素を制御しないといけないのですが、そのための仕組みを回路の中に作る必要があり、それはアンテナ設計者との連携が必要です。また、送受信する情報を処理する回路設計者との連携も不可欠です。それらの研究がうまくかみ合ってこそ、テラヘルツ通信用集積回路の完成が見えてくる感じですね。

医療への利用が期待されるテラヘルツセンサ

――テラヘルツ波を使ったセンサ(テラヘルツセンサ)の研究についても概要を教えてください。

テラヘルツセンサは、何かの物質にテラヘルツ波をあてて、その応答から有用な情報を得ることを目的とするものです。テラヘルツ波は、X線や紫外光、可視光に比べてエネルギーが小さいため、光などでは観測できない生体内における弱い結合、たとえば分子同士の結合などを観測するのに適しています。この方法を使えば、生体組織の分類ができたり、また、がんを見分けることができるという研究もあり、医療分野での利用も期待されています。ただ現状では、そのようなセンサを実現するための集積回路は存在しません。それを作ろうというのが私たちのもう一つの研究分野になっています。

――テラヘルツセンサのための集積回路というのは、先の通信のための集積回路とはどのように違うのですか。

センサの場合も、テラヘルツ波の電波を出して、戻ってきた電波を受信するという点では、通信の場合とそう大きく仕組みは違いません。そのため集積回路の基本的な設計も似てきます。センサでは通信の場合より高い周波数を使おうと考えているため、その点での難しさはありますが、集積回路の仕組みとしては通信の方が複雑です。通信の場合、電波を送るときに、情報を乗せてそれを復調するといった行程が必要になるからです。

社会が多様化する中で、「創域」的な意識はますます重要になっている

――続いて「創域」についてお聞かせください。先生は、創域という言葉にどういうイメージを持たれていますか。また、先生の研究における創域的な側面を教えてください。

創域は、読んで字のごとく「新たな領域を作ること」、すなわち、いろんな分野の人と協力して、さまざまな新しい課題に取り組んでいくということと捉えています。そういう意味で言えば、私たちの研究においても創域的側面は多くあると思います。

まず、通信用集積回路の研究においては、私は回路が専門ですが、アンテナの専門家の力も借りなければなりません。さらに、回路やアンテナを組み合わせてモジュール化する段階でも、別の専門家の協力が必要です。また、センサの開発においても同様です。生体分野の知見も必要になるため、医学部の先生と相談しないといけないところもあるなど、幅広くいろんな分野の人に協力してもらって初めて実現させることができます。社会の課題解決に貢献できるようなものを作るためには、本当にいま、創域ということは重要になっていると感じます。

――そのような創域的な側面の重要性は、近年特に高まっていると感じますか。

とてもそう思います。以前に比べていまの時代は、社会的な課題にしても学術的な課題にしても、一分野だけでは解決できないものが明らかに増えています。SDGsについて考えてもそうですが、社会が抱える問題は多様化しているし、一つの問題にもいろんな側面があります。自分が学生だったころとはだいぶ違うのではないでしょうか。

挑戦することによって、強みが増える

――創域理工学部では、2017年から横断型コースが始まり、創域的な取り組みをこれまでいろいろと積み重ねてきています。そうした取り組みは、学部内の雰囲気、教員や学生の考え方などを変えてきていると感じますか。

そうですね。私が本学部に来たのは2018年ですが、この学部には、専門の違う教員同士で研究の相談などをしやすい雰囲気があるなあと感じてきました。先にお話しした研究以外の例を挙げると、私は、機械学科の先生とも一緒に研究をして論文を書いたことがあります。テラヘルツ波の信号を出し入れするインターフェース部分をどう作るかを考えていた時、MEMS(メムス=微小電気機械システム)を製造するプロセスを生かしたら良いんじゃないかと思って、その領域に詳しい機械学科の先生に相談にいった結果、一緒にやることになったんです。自分がそのように動けたのも、学部内に創域的な雰囲気があったことが大きかったのではないかと、振り返ると感じます。

――最後に、これから研究者を目指す高校生や、若手の人たちへのメッセージをお願いします。

ありきたりかもですが、興味を持ったことにはチャレンジする、ということの大切さを伝えたいですね。最初から「無理だろう」とか思ったりせずに、とにかくチャレンジしてみること。自分自身に関して言えば、私は学部生のころは光通信の研究室で光ファイバーに関連する研究を行っていました。そして修士から、分野の違う集積回路の研究室へと移ったのですが、光の知識がその後ものすごく役に立つことになりました。当時はそんなこと想像していなかったのですが、いろんなことに挑戦するとそれだけ自分の強みが多くなるし、きっとどこかで役に立つのだろうなあとその経験によって実感しました。是非皆さんも、いま興味あることにどんどんチャレンジして、自分自身の道を切り開いていってください!

  1. TOP
  2. 創域Journal
  3. 次世代の電磁波「テラヘルツ波」を活用するための集積回路を開発する―電気電子情報工学科・高野恭弥准教授に聞く―