東京理科大学 TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE

創域理工学部 理工学研究科

Translated by shutto翻訳

当サイトでは、機械的な自動翻訳サービスを使用しています。

日本語English中文(简体)中文(繁體)한국어

“走行中ワイヤレス給電”を推し進め、広めるための大学と企業の新たな試み――「eモビリティ理工学講座」とは

「eモビリティ理工学講座」では、大阪の電力インフラメーカーである株式会社ダイヘンと共に、EV時代に直面するエネルギー問題を解決するための研究を行っています。どのような内容なのか、どのような意義を持つのか語っていただきました。

東京理科大学では、民間企業や研究機関等の学外機関と連携して行う「社会連携講座」を近年開設しています。<一定期間継続して特定の課題や専門分野に関する教育研究の推進及び充実を図り、人材育成を活性化させ、学術の推進及び社会の発展に寄与すること>を目的とし、創域理工学研究科においては、第一弾として2022年度に「eモビリティ理工学講座」を開設しました。連携先は、大阪の電力インフラメーカー、株式会社ダイヘンです。

いま世界は、温室効果ガス排出ゼロに向けて電気自動車(EV)の実用化に舵を切っていますが、電池は製造時にCO2を多量に排出するという問題はあまり議論されていません。この問題などに対応するため、東京理科大学と株式会社ダイヘンは、EVへの“走行中ワイヤレス給電”の技術を共同で研究してきました。今回、この講座を開設することを通じて、EV時代に直面するエネルギー問題を解決するための研究を加速させること、そしてこの研究について広く知ってもらうことを目指しています。「eモビリティ理工学講座」とはどのような内容なのか、どのような意義を持つのか、担当する本学の堀洋一教授、星伸一教授、居村岳広准教授、そして連携先である株式会社ダイヘンの鶴田義範さんに語っていただきました。

堀洋一 創域理工学部 電気電子情報工学科教授 東京大学工学部電気工学科卒業、同大学大学院工学系研究科電子工学博士課程修了。工学博士。同工学系研究科、東京大学生産技術研究所、東京大学大学院新領域創成科学研究科などを経て、2021年4月より、現職(着任時は理工学部電気電子情報工学科教授)。東京大学名誉教授。

星伸一 創域理工学部 電気電子情報工学科教授 横浜国立大学工学部電子情報工学科卒業、同大大学院工学研究科電子情報工学専攻博士課程修了。茨城大学工学部 助手、講師、東京理科大学理工学部 准教授を経て、2014年より現職。博士(工学)。

居村岳広 創域理工学部 電気電子情報工学科准教授 上智大学理工学部電気電子工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。東京大学大学院新領域創成科学研究科助教、東京大学大学院工学系研究科特任講師などを経て、2019年より現職。博士(工学)。

鶴田義範 株式会社ダイヘン 技術開発本部 インバータ・充電技術開発部 部長 大阪大学工学部電気工学科卒業。ダイヘン入社後は半導体製造装置向け高周波機器の開発に従事。2011年よりワイヤレス給電システムの開発に従事。充電システム事業部長を経て、2023年より現職。

企業と大学が連携し、特定のテーマについて研究・教育を深める

――電気自動車(EV)の普及は脱炭素の流れにとって不可欠なものとして一般に考えられていますが、じつは電池が製造時に多量のCO2を排出するという問題があります。そうした中、2022年度に始まった創域理工学研究科の社会連携講座「eモビリティ理工学講座」は、“走行中ワイヤレス給電”をテーマとし、そうしたEVの問題に正面から取り組もうとしています。今後の社会のあり方に大きく関わるテーマであり、この取り組みについて広く知ってもらうことは大きな意義があると考えます。そこで今回は皆さんに、「eモビリティ理工学講座」について、またそもそも社会連携講座とはどのような取り組みなのかといったことについて、お話しいただければと思っています。

堀: 「eモビリティ理工学講座」の概要をまず私からお話ししますと、2022年4月から4年間ということで開設され、現在2年度目が終わろうとしているところです。本学側は居村岳広先生の研究室が中心となり、ダイヘンさんと連携して“走行中ワイヤレス給電”の研究を深めるためにいろいろとやっていこうというのが、この講座の骨格部分になっています。

本学とダイヘンさんは、講座開設前からすでに一緒にこのテーマに取り組んでいたのですが、社会連携講座とすることで予算の面などでも研究が進めやすくなります。また社会連携講座となることで、ダイヘンさんに直接授業を担当してもらえるため、本学の学生にとっては企業の現役の開発者から学べる機会が得られることにもなります。同時にダイヘン側も、企業としての取り組みを学生に紹介し、興味を持ってもらえる機会になるということで、双方にメリットがあります。

加えてこの講座の一環として「eモビリティシンポジウム」も開催しています。EVに関連する分野の専門家を招いて講演していただき、未来の自動車のありかたについて議論する場を提供すべく、年間12回行っています。毎回オンラインでの参加者を含めて、数百人の方が聴いてくださっています。参加費は無料ですし、専門家や学生を含め、様々な方にとって有意義な場になっているのではないかと考えています。

――いろいろな形で大学と企業が連携して、eモビリティというテーマについての研究や教育活動を深めていこうというのがこの講座になるのですね。社会連携講座というのはいずれもそのような取り組みになるのでしょうか。

堀:社会連携講座の基本的なコンセプトは、共同研究と寄附講座(=企業などの外部組織から寄附された資金や人材を活用して研究や教育を行うこと)の双方の機能を合わせたものになります。すなわち、特定のテーマについて、大学と企業などの組織が、より効果的な形で研究・教育を行うために連携を深める取り組みだと言えるでしょう。またこのような形をとることで、その研究について社会に広く知ってもらうきっかけを作るという意味もあります。

様々な問題をはらむ“電池依存”から脱却するために

――そもそも走行中ワイヤレス給電の研究とは、どのようなものなのか、なぜいま必要なのか、教えてください。

堀:現在、EV化の流れというのは世界中で進んでいます。一方、現状のEVは航続距離が短いことは広く知られていて、今後、高性能な大容量電池または急速充電の技術の開発が必要だと一般に考えられています。ところが、あまり表立っては議論されていませんが、電池は、脱炭素化のイメージとは裏腹に、製造時に大量のCO2を発生するという問題があり、また、リチウムイオン電池に利用されるコバルトもいずれは枯渇してしまいます。つまり、今後ずっと電池に依存し続けることは困難で、長いスパンで考えれば、より持続可能な技術へと意識を向けることが必要なのです。

そこで重要になるのが、走行中ワイヤレス給電の技術だと私たちは考えています。つまり、電車のように、走りながら道路上の電力インフラから直接エネルギーを供給する仕組みを作るのです。そうなると、EVは大きな電池を積む必要はなくなります。数百万回の充放電に耐えられる「スーパーキャパシタ」と呼ばれる物理電池を用いればよく、電池への依存を減らせます。日本がこの方向に舵を切ることは、今後この国がEVの分野で世界に台頭していくために必要なことだとも考えています。電池はいまやほとんど中国で生産されていて、そこに日本が入り込むのは困難です。一方、道路からワイヤレスでEVに給電する技術の研究は日本が他国よりも進んでいます。

ダイヘンはこの技術に関して日本を代表する位置にあり、居村先生の研究室もこの分野の研究では世界をリードする立場だと言っていいと思います。また星先生は、ワイヤレス給電に必要不可欠な、パワーエレクトロニクスという分野で非常に重要な役割を果たしてきた方です。その点でも、「eモビリティ理工学講座」の取り組みはいま重要な意味を持っていると考えています。私自身は、制御工学を専門としており、電気自動車の制御やワイヤレス電力伝送システムについて研究してきましたが、この講座においては、どちらかといえば全体をまとめる立場としてかかわっています。

――EV化は、カーボンニュートラルへ向けた不可欠な流れのように思われがちですが、決してそうではないのですね。ただ、道路から給電する仕組みを作るのは、とても難しいように感じるのですが、そんなことはないのでしょうか。

:道路を電化して車を走らせるという方法は世界ではどんどんやられていて、日本でも実は様々な取り組みが進んでいます。道路を電化していく流れは、今後大きくなっていくはずです。東京の首都高速を電化するということも実際に考えられていて、私も意見を言ったりしています。それが実現されれば、首都高を走って出てきたときには、車が充電されているということになるわけです。そのような具合で、たとえば、日本の道路の1割がワイヤレス給電対応となったとすれば、EVが積まなければいけない電池はぐっと減ります。また道路にその設備を作ることは現実的な金額で実現可能であることが試算されています。

授業を通じて学生たちに会社の取り組みを知ってもらう機会にも

――堀先生のお話で、「eモビリティ理工学講座」が開設された背景がわかりました。では、鶴田さんに伺いますが、ダイヘンがこの講座へ参加された経緯などを改めて教えてください。

鶴田:弊社はもともと「大阪変圧器」という名称の会社で、さまざまな電力インフラに関する設備などを幅広く開発してきました。ワイヤレス給電の研究開発を始めたのは2011年くらいからで、世界的にもかなり早くから取り組んできた方です。そのため、電力を非接触で送るという技術に関してはすでにある程度確立できています。ただ、走行中に道路から給電をするとなると、装置を道路の中に埋めないといけないので、それを実現するための材料や工事をどうするか、メンテナンスはどうすればよいか、といった点について、各分野の専門の方たちと協力しながら進めています。そして、電力伝送についても、ノウハウ自体はあるものの、別に学術的な裏づけが必要になります。その点について、堀先生や居村先生のお力を借りながら、すでに10年ほど研究を進めてきました。その流れで今回、社会連携講座へとつながっていきました。

――共同研究としては長く一緒にやられてきたとのことですが、社会連携講座となったことはダイヘンにとってどのような意味を持つのか教えてください。

鶴田:先ほど、堀先生から寄附講座というお話がありましたが、社会連携講座になって、弊社が授業の枠を三つほどいただいています。その中で、ダイヘンの取り組みについても紹介させてもらうことで、東京理科大学の学生さんたちに私どもの取り組みに興味を持っていただくということが、私たちが社会連携講座に参加する大きな意義になっています。ダイヘンは大阪の企業ということもあり、学生さんたちにもっと知ってもらう機会を作りたいという思いがあります。授業で直接、いろんな専門分野の学生さんに語りかけ、弊社について知ってもらえる場があるのはとても貴重です。一方、居村先生の研究室の学生さんたちとは、これまで同様に、共同研究を通じて深く関わらせていただいています。

走行中ワイヤレス給電という技術の認知を高め、研究を加速させたい

――走行中ワイヤレス給電の技術の現状や今後の課題について、お聞かせください。鶴田さんのお話から、この技術はいま、いかに社会実装するかという段階にある印象を受けましたが、その辺りをさらに詳しく教えてください。

鶴田:走行中ワイヤレス給電には、安全性の問題や、電磁波の漏洩をどう抑えるかなど、技術的にもまださまざまな課題があります。そうして点も含めて弊社では、社会実装をどう実現するかということを意識して、各種課題の解決に取り組んでいます。その中で、特に、長い道路にどうやってコイルを埋め込んでいくかといった工事の方法や法律的問題の解決などに私たちはいま注力しています。この講座でもそういう点において、大学側と一緒にやって行けたらと思っています。

居村:ワイヤレス給電と一言でいっても関連する分野は本当に広いです。電磁気学や電気回路が基本とはなりますが、星先生のご専門のパワーエレクトロニクスや、アンテナ工学なども関わってきます。コイルの埋設については土木の技術、電圧が高くなれば高電圧の技術も必要です。本当に、技術の融合を前提としているような分野なんです。私自身は、ワイヤレス給電の理論の基礎的な部分から、コイルをどうやって道路に埋め込めばいいかといった社会実装に関わる部分の両方の研究を進めています。まだそれぞれにやるべきことがたくさんありますが、この研究を引っ張っていける立場になれるようにと思い、日々取り組みを進めています。

星:私が専門とするパワーエレクトロニクスは、電力を直流から交流、交流から直流という具合に変換する技術で、電力を効率的に伝送するためにも重要です。いま私の研究室では、当研究室出身で現在東京都立大学に勤務している太田涼介助教と協力しながら走行中ワイヤレス給電の研究を進めており、いかに効率よく電力を送るかという点において、様々な角度から貢献できたらと考えています。

堀:私自身はいま新たに積極的に研究する立場ではないですが、この技術は本当にいろんな分野の方の力によって進んできています。まさに”創域”的であると言えます。居村先生なんかは理論的な研究も社会実装に関する研究もバランスよく行われていて、居村先生の研究領域を”土木電磁工学”などと名前を付けたらいいのではと私は思っているくらいなのですが、大学として今後もその両面を行っていくことが大切です。社会連携講座が始まったからといって「いついつまでに研究がここまで進む」ということではないのですが、この講座を通じて、社会にも学生にも、走行中ワイヤレス給電の研究についてよく知ってもらい、研究が加速するきっかけを作れたらと思っています。

鶴田:弊社は2025年の大阪万博の場でもワイヤレス給電の技術を披露する予定ですが、それがこの技術の認知度を高めて社会実装に向けて前進するステップになればと思っています。同時に、この先どういう社会が望ましいかということを皆さんに考えていただけるような機会になればとも考えています。また、この講座の学生さんにもその研究に関わってもらえるので、「万博に関わった研究をした」ということで学生さんたちにとっても有意義な経験になったら嬉しいですね。


星:そうですね。いろんな分野の人が関係してくるテーマなので、この講座にも多様な分野の学生に参加してもらいたいのとともに、社会に向けても、このテーマに広く興味を持ってもらうことが今後さらに大切だとも思いますね。

学生とダイヘンとの出会いが、未来の技術を変えていく

――「eモビリティ理工学講座」が始まったことによって、学生や、関係する皆さんの意識や活気が今後変わっていきそうに感じました。ぜひ皆さんから、この講座の今後に向けての抱負や、学生たちへのメッセージをお願いします。

鶴田:やはりダイヘンとしては、理科大の学生さんたちに弊社について知ってもらいたいという気持ちが強くあります。私たちには、大企業ではないからこそできることも多くあります。大きな企業はある程度市場規模が大きくないと動きませんが、私たちはより積極的に、新しいことにチャレンジしていくことができます。その辺りを、わざわざアピールせずとも、居村研との共同研究で結果を出すことで知ってもらう、というのが理想ですが、授業をやらせていただく機会も大切にしていきたいです。今後長く続けていくことで、理科大の学生さんからの弊社への問い合わせが増えていくことを期待したいです。

居村:ダイヘンさんとは2013年度から一緒に研究をしてきているので、私の研究室の学生は、社会連携講座になる前も現在も変わらずに強い結びつきをもたせていただいていますが、授業を通じて今後ますます、他の学生にも広くダイヘンさんに興味を持ってもらいたいですね。いまはたとえば、学生時代に堀先生のところでモーターの制御をやっていた人が、企業入ってからワイヤレス給電をやっているといったケースもすごく増えています。そうした中、この分野でいま一番目立っているのはダイヘンさんなんです。特にeモビリティは、車や走行中ワイヤレス給電がメインになる一方で、大電力を扱っているためエネルギーマネジメント的な視点がすごく大切です。ダイヘンさんの視点を学生たちに伝えてくださったら、研究的にも教育的にも、とてもいいんじゃないかなと思っております。

星:理科大の学生は、企業の方からまとまった講義を受けることは少ないですよね。その意味でも、ダイヘンさんの講義を受けられる機会は貴重です。あと、私たちは“創域”ということを謳っているので、電池について研究している学生などにもぜひ講義を受けてもらって、どのような技術のあり方がいいかをみなで議論しながら、このテーマが広まっていくといいなと思いますね。

堀:いまはまだ、理科大として社会連携講座そのものが始まったばかりで手探りなところがあるのですが、これからもっとこの取り組みが深まっていくことで、大学の研究者、学生、企業や研究機関がつながり、新たな潮流ができていってほしいです。同時に、この「eモビリティ理工学講座」を通じて、電池一辺倒の流れに「本当にそれでいいのか」ということを社会に伝えられたらと思っています。みなで盛り上げていきたいですね。

  1. TOP
  2. 創域Journal
  3. “走行中ワイヤレス給電”を推し進め、広めるための大学と企業の新たな試み――「eモビリティ理工学講座」とは