選択科目群

物性論は原子や分子が集まって固体をなしている物質の性質に関する物理学である。これを系統的に学ぶことができるように、選択科目群は四半期(8週)の短い区切りからなる物性論1Aから物性論3Cまでの順を追った一連の講義で構成されている。物性論を学ぶためには、同時進行で学びつつある「量子力学」と「統計力学」を知っていることが必要であるが、同時に、物性論はそれらを実際に使いその理解を深めるための格好の場でもあるので、単純に「物質科学に関する講義群?」と狭く捉えるのではなく、騙されたと思って受講してみてほしい。現代物理学の2本柱である「量子力学」と「統計力学」の理解を深めることができるだろう。

物性論1A

[ 結晶構造と格子振動 ]
物性論群の対象である固体をイオンと電子の集合体としてみなすと、固定された配列を取るイオンに対して電子はイオン間の結合に寄与し固体の様々な物性(誘電性、磁性、電気伝導性、光学応答などなど)を生み出している。よって物性論群の入り口である物性論1Aの前半では、固体を構成する結晶構造の周期性の(逆格子を含めた)数学的表現とそれを実験的に探査するための(X線、中性子線などによる)回折現象について学ぶ。さらに後半では、結晶格子をなすイオンは平均の位置のまわりで熱振動をしており、平均位置からのずれが、(力学で学習した基準振動として)結晶中をある分散関係を持つ格子振動(フォノン)として伝搬することを学び、格子振動が固体の比熱や熱伝導といった熱的性質をどのように決めているのかを学ぶ。なお、結晶構造をつくる結合機構(共有結合)についても簡単に触れることにする。

物性論1B

[ 電子物性1 ]
固体中の電子を量子力学的な粒子としてとらえ、状態密度、フェルミエネルギーの概念を理解する。また、バンド理論を通して絶縁体、半導体、金属の違いを理解する。

物性論2A

[ 電子物性2 ]
固体中の電子を量子力学的な粒子として理解し、バンド理論を出発点にして、半導体およびその接合、フェルミ面、ランダウ準位等の基本的な概念を理解する。また他の電子や格子との相互作用の結果起こる諸現象について理解する。

物性論2B

[ 磁性1:統計 ]
局在磁気モーメントの集合体の示す熱力学的性質を統計力学1で学習した手法を用いて導く。その中で、(i)1次元Ising系に対する厳密解を通して「揺らぎと応答」や、(ii)d次元Ising系に対する分子場近似の有効性と限界を通して「相転移と自発的対称性の破れ」といった諸概念を理解する。

物性論2C

[ 光物性1 ]
光と物質の相互作用の物理的基礎を学習し、屈折率や吸収係数などの巨視的に計測できる光学定数の起源を理解する。光を電磁波として、物質を力学振動子と量子力学的波動関数で記述し、電磁波の電場成分と電荷が相互作用して振動電気双極子を誘起することから、光学遷移の選択則や振動子強度・遷移確率を導く。

物性論3A

[ 超伝導 ]
伝導現象を解説し、現象論及び微視的理論を用いてそれらの現象を説明する。

物性論3B

[ 磁性2:電子論 ]
量子力学で学習する角運動量、摂動論、多電子系の項目を実際に適用することで、原子(4f稀土類イオンおよび3d遷移金属イオン)の磁気モーメントの電子論的な成り立ち、および磁気モーメント間に働く交換相互作用の量子力学的な起源について理解する。

物性論3C

[ 光物性2 ]
物質の電子状態と吸収スペクトルの関係を学習する。物質の光学遷移の記述には、遷移の始状態と終状態の波動関数(の対称性)が必要なので、分子軌道法(強束縛近似と等価)に基づき、2準位原子から構成される多原子分子・結晶の波動関数とその対称性を導き、簡単な分子の吸収スペクトルや半導体のバンド間吸収を理解する。光学遷移への分子構造・電子格子相互作用の影響も学ぶ。